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歌謡曲とシティポップの交差点・風街オデッセイ2021

11/5、6の2日間、松本隆作詞活動50周年記念ライブとして開催された「風街オデッセイ2021」へ行ってきた。

あのはっぴいえんどが両日とも日本武道館のステージに立つというだけでも驚きなのだが、他の面子は2日間で総入れ替え。誰もが知る往年のアイドルからTVでは滅多にお見かけしないような玄人好みのミュージシャンまで、そのラインナップの幅広さが松本隆ワークスの多彩さをよく表している。

中にはこれを逃すと観る機会がなかなかなさそうな方もおり、2日合わせて3万円払い、両日とも足を運んだ。向井秀徳風に言うなら、The Days of KAZEMACHIといった趣である。(言いたいだけ)

初日は往年のTVスターなどが中心のザ・歌謡曲なセットリストだった。ここでは主な見所を列挙していく。

・フリフリのドレスやヘッドセットが何故か似合ってしまうアグネス・チャン66歳。松本隆が初めて作詞した歌謡曲が「ポケットいっぱいの秘密」で、1番の歌詞の頭文字を繋げるとア・グ・ネ・スになるという秘密を披露。

・どうしても歌手になりたくて小1でボイトレを始めた森口博子。中1の時にレッスンで歌った「三枚の写真」を今回歌う事になり、今日のためだったのか!と感慨深そうに語る。

・大橋純子、御年71歳にして「シンプル・ラブ」のハイトーンがばっちり決まる。恐らく90年代後半におけるMISIAなどのディーバブームの礎を築いたのはこの人。未だ現役で戦えているのがかっこいい。

・このメンバーの中では異色のB'z。初見で且つファンでもない観客が多かったと思われるが、流石の存在感とシャウトで一気に場内を掴み、嵐のように1曲で去る。SNSでも概ね評判が良かった。レギュラーのバンドメンバーでなく亀田誠治やイベントのホストバンドとセッションしたのもかなりレア。

・横山剣、「松本隆50周年、イイネ!」がバッチリ決まる。

・C-C-B、「筒美京平の世界」出演時と同じ2曲。「Lucky Chanceをもう一度」が最近好き。

・イモ欽トリオ、トイレタイムと自虐していたがやっぱりあの曲を生で観られるのは嬉しい。"こんなに好きなのにつれないなー なー"が響き渡って感動した。

・武藤彩未、スプーンおばさんの曲を伸びやかな歌声で披露。松本隆を心から尊敬している人なので出られるだけで最高だろうけど、松田聖子ファンを公言しているだけにどうせなら聖子ちゃんカバーがよかったのでは。なんなら他の人がやってたし。

・安田成美、落ち着いた歌唱で「風の谷のナウシカ」披露。かなりレア。

・過去のLPジャケットを繋いだVTRからはっぴいえんどのライブへ。3曲披露し、鈴木茂、曽我部恵一(ゲスト)、細野晴臣の順にメインヴォーカルを務める。メンバー紹介の時に「大滝詠一!」と叫ぶ観客が一人いて怖かった。気持ちはわかるがご時世上黙ってくれよな?

<第一夜>
M-1. 砂の女/鈴木 茂 w/林 立夫
M-2. 微熱少年/鈴木 茂 w/林 立夫
M-3. 夏色のおもいで/曽我部恵一(チューリップ)
M-4. 想い出の散歩道/アグネス・チャン
M-5. ポケットいっぱいの秘密/アグネス・チャン
M-6. 雨だれ/太田裕美
M-7. 木綿のハンカチーフ/太田裕美
M-8. 三枚の写真/森口博子(三木聖子)
M-9. リップスティック/森口博子(桜田淳子)
M-10. シンプル・ラブ/大橋純子
M-11. ペイパー・ムーン/大橋純子
M-12. タイム・トラベル/佐藤竹善(SING LIKE TALKING)(原田真二)
M-13. セクシャルバイオレットNo.1/B'z w/亀田誠治(桑名正博)
M-14. ルビーの指環/横山 剣 w/亀田誠治(寺尾 聰)
M-15. 君は天然色/川崎鷹也 w/亀田誠治(大滝詠一)
M-16. Romanticが止まらない/C-C-B
M-17. Lucky Chanceをもう一度/C-C-B
M-18. ハイスクールララバイ/イモ欽トリオ
M-19. 赤道小町ドキッ/山下久美子
M-20. 誘惑光線・クラッ!/早見 優
M-21. 夢色のスプーン/武藤彩未(飯島真理)
M-22. 風の谷のナウシカ/安田成美
M-23. Woman“Wの悲劇”より/鈴木瑛美子(薬師丸ひろ子)
M-24. 瞳はダイアモンド/鈴木瑛美子(松田聖子)
M-25. バンドメンバー紹介曲
M-26. 初戀/斉藤由貴
M-27. 卒業/斉藤由貴
M-28. さらばシベリア鉄道/太田裕美
M-29. 花いちもんめ/はっぴいえんど w/鈴木慶一
M-30. 12月の雨の日/はっぴいえんど w/鈴木慶一、曽我部恵一
M-31. 風をあつめて/はっぴいえんど w/鈴木慶一

2日目は70年代から今日のシティポップに繋がる流れと、00年代以降の松本隆ワークスが中心だったように思う。

・安部恭弘、これまで触れる機会がなかったが、「Still I Love You」のメロウなAORサウンドは結構気に入った。

・南佳孝、「スローなブギにしてくれ(I want you)」を披露し、冒頭の"Want You 俺の肩を"だけで場内拍手喝采。名曲が披露されると1コーラスの時点で拍手が起きるのはライブあるあるだが、1フレーズで拍手は初めてかも。強い。

・小坂忠、「しらけちまうぜ」を披露。昔小沢健二がカバーしていた事からこの曲を知り、原曲にも辿り着いた。2010年、初めて行ったフジロックでも観る事ができて、いたく感激した思い出がある。もう一曲の「流星都市」も素晴らしかった。

・冨田恵一ブロックでは00年代前半の楽曲を中心に披露。シティポップブームの今聴いてむしろ丁度よいのではと思える曲ばかりだった。「眠りの森」や「真冬物語」がオリジナルメンバーによって武道館で鳴り響くのは結構すごい事である。令和にもなって。

・中島愛、マクロスの「星間飛行」を披露。場内にはちらほらとペンライトの光が見え始める。キラッ、が炸裂。

・しょこたん、10年振りぐらいに観たが、歌手活動の機会が激減したにも関わらず当時よりもむしろ上がっているのではと思える歌唱力の高さ。「綺麗・アラモード」は当時はあんまり気付けなかったけど名曲。

・さかいゆう、山下達郎「いつか晴れた日に」を披露。ドラマ「先生知らないの?」とセットで記憶に残る名曲。松田聖子「SWEET MEMORIES」カバーも息を呑むような名歌唱だった。

・吉田美奈子、「瑠璃色の地球」もよかったが、何と言っても「ガラスの林檎」に驚愕。原曲とかけ離れたアレンジで、魔女の毒林檎のような破壊力満点だった。この人やべえ。

・はっぴいえんど、冒頭の「花いちもんめ」を鈴木茂のミスでやり直す。前日と選曲は同じだが、曽我部恵一がヴォーカルを務めていた部分は鈴木慶一が歌唱した。ラスト「風をあつめて」終了後に客電がパッと点いて出演者が集合すると、松本隆、次回5年後の開催を宣言。


各日3時間以上に及んだので見所は多々あったが、ざっとこんなところか。特に、どんなフェスに行っても観られない歌謡曲の面子を観られるのは結構嬉しかった。

歌謡曲のライブと言えば、4月に東京国際フォーラムホールAで行われた「筒美京平の世界」にも行っていて、えらく感激したのが記憶に新しい。松本隆と筒美京平は作詞家・作曲家としてタッグを組む事が多かったため、今回のライブとも重複する面子がちらほらいた。

ただ、ライブとしての性質は大きく異なるものだったと言える。それを最もよく表していたのが、藤井隆のパフォーマンスだったと思う。

「筒美京平の世界」で披露していたのは、田原俊彦の名曲「抱きしめてTONIGHT」。別にカバーした過去があるわけでもなく、本人ですらもイントロで「皆さん、何で?って思ってます?僕もです!」と言ってしまっていた。普通に考えれば、筒美京平作品である自身の3rdシングル曲「絶望グッドバイ」を歌えばいいだけの話だったのだが、そうはならなかった。それは、このライブにはヒット曲しか披露されないという性質があったからだろう。

一方、「風街オデッセイ2021」で藤井が披露したのは、「代官山エレジー」。松本隆が全面プロデュースした1stアルバムの収録曲で、他にシングルカットされていた楽曲もあったにも関わらず、選ばれたのはアルバム曲だった。キリンジ・堀込高樹が手がけたシティポップ風味の楽曲で、コアな人気を誇る曲だ。選曲が圧倒的にガチである。

しかも出番は1曲歌ってハケるのみで、MCの時間も全く与えられなかった。今回のライブでは、高い知名度を誇るタレント性の高い人でもMCがなかったり、然してヒットしていない曲を歌ったりする例がザラにあった。ミッツ・マングローブ(※星屑スキャットのメンバー)もしょこたんも安田成美も喋っていない。安易なエンタメにせず、あくまでも上質な音楽を届ける場に徹していたのだ。

「f筒美京平の世界」ではヒットメーカーとしての功績にフォーカスを当て、「風街オデッセイ2021」ではそのジャンルを超えた多彩さが目立っていた。無論、筒美京平作品も本当に多彩だし、松本隆にもヒットメーカーとしての側面は大いにある。ただ、ヒット曲だからと言って保守的だったわけではなく、オルタナティブ精神もふんだんにあった点は両者に共通しているはずだ。だからこそこんなに長く愛されているのだと思うし、これからも聴いてしまうんだろう。最高。

<第二夜>
M-1. A面で恋をして/鈴木 茂、伊藤銀次、杉 真理(NIAGARA TRIANGLE vol.2)
M-2. Do You Feel Me/杉 真理、伊藤銀次(杉 真理)
M-3. CAFE FLAMINGO/安部恭弘
M-4. STILL I LOVE YOU/安部恭弘
M-5. バチェラー・ガール/稲垣潤一
M-6. 恋するカレン/稲垣潤一(大滝詠一)
M-7. スローなブギにしてくれ(I want you)/南 佳孝
M-8. スタンダード・ナンバー/南 佳孝
M-9. ソバカスのある少女/鈴木 茂、南 佳孝(ティン・パン・アレー)
M-10. 砂の女/鈴木 茂 w/林 立夫
M-11. 微熱少年/鈴木 茂 w/林 立夫
M-12. しらけちまうぜ/小坂 忠 w/林 立夫
M-13. 流星都市/小坂 忠 w/林 立夫
M-14. ミッドナイト・トレイン/星屑スキャット(スリー・ディグリーズ)
M-15. てぃーんず ぶるーす/堀込泰行(原田真二)
M-16. 代官山エレジー/藤井 隆
M-17. フローズン・ダイキリ/クミコ w/冨田恵一
M-18. 罌粟/畠山美由紀 w/冨田恵一
M-19. 眠りの森/冨⽥ラボ feat.ハナレグミ w/冨田恵一
M-20. 真冬物語/堀込泰行、ハナレグミ、畠⼭美由紀 w/冨⽥恵⼀
M-21. 星間飛行/中島 愛
M-22. 綺麗ア・ラ・モード/中川翔子
M-23. いつか晴れた日に/さかいゆう(山下達郎)
M-24. SWEET MEMORIES/さかいゆう(松田聖子)
M-25. バンドメンバー紹介曲
M-26. September/EPO(竹内まりや)
M-27. 瑠璃色の地球/吉田美奈子(松田聖子)
M-28. ガラスの林檎/吉田美奈子(松田聖子)
M-29. 花いちもんめ/はっぴいえんど w/鈴木慶一
M-30. 12月の雨の日/はっぴいえんど w/鈴木慶一
M-31. 風をあつめて/はっぴいえんど w/鈴木慶一

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