水槽

射手座のB型。散歩が好きです。

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最近の記事

コインロッカー業者の人

じゃあ今から、昨日見た夢について文章を書くので、適当に読んでください。 初めて買ったカメラは黄色のPENTAXだった。それを、当時一番近くにいた人に貸した。ただ、当時の自分は、人を大切にするということの意味が全くわかっていなかったので、その人はたぶん傷を負っていなくなった。 たぶん、になってしまうのは、共感性に著しく欠けていたせいで、機微を無数に見落としているはずで、判断材料が少ないから。なんとも言えないけど、かすかな記憶で顧みても、たぶん傷を負ったと思う。 幸い時間が

    • 顔は良い方がいい

      この大モラル時代に誤解を招きかねない表現をあえてタイトルに据えてルッキズム人間のレッテルを貼られることをあらかじめ阻止するねらいを理解してほしい。 顔は良い方がいい。これは、中顔面だの涙袋だのイエベブルベだのそういうことを言っているわけでは当然ない。 人間はときに、気に入らないやつの粗探しをしたり、鍵アカウントで愚痴を吐き捨てたりする。そしてそんな状況に嫌気がさして自己嫌悪に陥り、世界はまたひとつ悪い方向へ転ぶ。浮世の通例として、基本的には好きな人間の話より嫌いな人間の話

      • 無意識の救世主

        あーちょっともう無理だ。今日こそ死のう。どうすればいい。マジで助けてくれって毎日思ってる。終わりでいいんじゃないか。よく考えたら生きたかったことなんてない気がする。 と思いながらインスタを開くと、家の裏のカフェの日替わりパスタはタコとアサリの冷製らしい。美味しそうなので死ぬ前に食べに行くことにした。席に着いたらマスターのお母様が店に立っていて、半年ぶりに会った。 メイクもせず、起きたままの髪で、適当な服を引っ掴んで半死半生の様相で現れた自分に彼女は「久しぶりね。髪、素敵な

        • 才能が正しく評価される世の中であれ、というのは美しい祈りだけど甚だ理想論で、通知表の"才能"という項目と"評価"という項目の相関関係は希薄。体育が5だったら美術も5であれ、と言ってるのとほぼ同じだと思ってる。

        コインロッカー業者の人

        • 顔は良い方がいい

        • 無意識の救世主

        • 才能が正しく評価される世の中であれ、というのは美しい祈りだけど甚だ理想論で、通知表の"才能"という項目と"評価"という項目の相関関係は希薄。体育が5だったら美術も5であれ、と言ってるのとほぼ同じだと思ってる。

          束縛についての長文LINE

          以下の一通のLINEに端を発する考察についてまとめる。なお日付は数ヶ月前。 「一通のLINE」と白々しい書き方をしているがもちろん自分が送ったものだ。さながら学術論文のボリュームで、しかもAM3時。傍迷惑にも程がある。自分の友人はみな太平洋よりも広い器を持ち合わせている。 つまり「彼女と決まりがあるから」と誘いを断ることと、断らずに飲みに行くこと、どちらの場合にも「行きたい」という姿勢が存在している点において、気持ち的に大きな相違はない、ということ。行動にのみ違いがある。

          束縛についての長文LINE

          Google検索に両隣はない

          4歳くらいの頃にテレビでオロナミンCのCMを見て「ハツラツってなに?」と母に訊くと「この本に載っているからハ行を調べてみなさい」と辞書を渡された。 言われるがままにやってみると「溌剌」およびその意味が本当に書かれていて、驚いた。他にも幼児の知り得るさまざまな言葉で辞書を引いてみたがそこに載っていないものはひとつもなく「この世界のすべての言葉を網羅したとんでもない書物」が民家にある事実に圧倒された。調べても、調べても、どんな言葉でも載っていた。「みかん」も「タクシー」も「そら

          Google検索に両隣はない

          ナイフで刺せばよかったのに

          「もう時効だから言うんだけどさ」 先輩は人もまばらな平日夜のバーでそう切り出した。 「むかし女の子を曖昧な態度で傷つけて、それに気づけなくて、ある日おれの家で刺されたんだよね。ナイフで」 想像よりはるかに殺傷能力のある単語が飛び出してきて時効がどうこうの話ではないんじゃないかと思ったが、手のひらで刃を受け止めたときの傷跡を見せながら話す彼には定番のエピソードトークのようだった。 笑って相槌を打ちながら、ナイフは抜けるからいいよな、と的外れなことを考えていた。ナイフは抜

          ナイフで刺せばよかったのに

          いまでもあのバンドに夢中なの?

          楽に生きるためには人に期待しないことが大切だと言われる。実際その通りだと思う。他人は自分の思い通りにはならない。望み通りの返答をくれないし、押し付けようとしても無駄だからある程度の諦めが必要。 大切で、特別で、そう簡単には人に教えたくない音楽や映画や本がある。かつて自分は、そういった音楽などを一世一代の覚悟をもって人に勧めて「そんなに刺さらなかった」とか言われた日にはショックで寝込む勢いだった。なんなら、この魅力がわからない人間って何?と関係値の破綻に至らしめる有様だった。

          いまでもあのバンドに夢中なの?

          夏に回帰する

          通り過ぎた風が夏だったので急いで夏の音楽を再生し始めた。音楽の旬を楽しむことを是としているが、よく考えると冬にしか聴かない音楽は特に思いつかない。春と秋も同様。 春と秋と冬は季節の名前で、夏は現象の名前だ。 茹だる暑さに、良くも悪くも人類の驚くべき軽率さがいかんなく発揮される。明らかに濃度が違っている。至る所でお祭り騒ぎが持ち上がり、収拾はつかなくてもいい。夏の核心は常に酔っ払っているような人々の浮かれ具合にある。 そんな喧騒がやっと鎮まって秋の気配がしてくる晩夏には、

          夏に回帰する

          消しゴムのない生き物

          「消しゴムってありますか」 「消しゴムですか」 「あ、なくていいんです」 「いや、あります」 「なぜあるんでしょう」 「喫茶店ですから。鉛筆があれば、消しゴムがあるでしょうね」 「喫茶店では、どういった場合に消しゴムが必要なのですか」 「お客さんから消しゴムってありますかと言われた場合ですね」 夏休みの宿題を親戚の家などでやるとき、大人たちはすぐに鉛筆を貸してくれたが消しゴムとなると探し回った。大人は消しゴムを持っていない生き物なのだとわかった。そして大人になった自分も持っ

          消しゴムのない生き物

          不要な苺を買った

          また風邪をひいた。 風邪をひきすぎる。あらゆる場面ですぐに熱が出て喉が壊れる。 そんなことはさておき先日、冷蔵庫を覗くとトマトとベーコンとモッツァレラチーズがあった。あとはバジルさえあれば美味しいパスタが作れるな、とさっそくスーパーに行ってバジルを手にレジへ向かった。 しかしレジで店員から「こいつはさしずめマルゲリータピザかパスタを作ろうとしたが、バジルを忘れてのこのこ買い足しに来たのだな」と嘲笑されることを懸念して不要な苺なども買った。 苺は美味しい。 よく晴れた

          不要な苺を買った

          ゴジラvsゴーヤvsマクドナルド

          ゴーヤが好きな人類など、この世にいるはずがない。苦くて、ゴジラの皮膚を思わせる質感で、およそ褒められるべきところがひとつもない。 そしてマクドナルドが嫌いな人類も、この世にいるはずがない。栄養学を完全無視して幸福度を極限まで高めているのだから、嫌っているかのようなそぶりを見せている人は見栄を張っている。 以上二点が、数ヶ月前までの自分の見解だった。 ある日、いつも通り人間と遊んでいると突如マクドナルドが食べたくなってきた。学生時代にあのポテトのことを思い浮かべて猛烈な空

          ゴジラvsゴーヤvsマクドナルド

          俺たちを沼に引きずりこんだ抜群にセンスの良い先輩

          いろんなところにいて、いろんな俺たちをいろんな沼に引きずりこんだ抜群にセンスの良い先輩について書く。この時点でなんのことやらわからない方には以降の内容は伝わらないと思う。 当時の俺たちにはアイデンティティがなかったから、芯があって飄々としている先輩に憧れてとにかくなんでも真似した。先輩はクラスのみんなの知らないかっこいいバンドをたくさん知っていて、俺たちはそれを聴いて自分までセンスの良い人間になった気分になった。先輩はミステリアスで、写真に写るとなんとも言えぬ独特な雰囲気が

          俺たちを沼に引きずりこんだ抜群にセンスの良い先輩

          鳥、背中を見て学べ

          鳥と暮らしている。人に紹介するときはその鳥のことを鳥と呼んでいる。よく名前を訊かれるが、なんとなく教えたくないので教えない。教えないことと知りたいことは多い方が良い。 種類は文鳥で、雛のときから同居している。2021年の8月生まれだから生後7ヶ月。7ヶ月だと!あいつはとんだ人生ビギナーであるのに、20年以上シャバを生き抜いている大先輩に対して尊敬の色を示すということを知らない。 雛の頃は手のひらでコロコロ転がって寝ていたというのにその恩も忘れて大暴れ、握ろうとすると血が出

          鳥、背中を見て学べ

          でも夜が長すぎたので

          多忙。 日本人は「忙しい」と主張した人間に対して尋常じゃなく牙を剝く。忙しいアピールをするな。寝てないアピールは寒い。俺はもっと忙しい。私はもっと寝てない。 全員等しく大変ですね、でいいだろ。 忙しいエーンエンと喚き散らしているがそもそもの原因は自らの怠慢だ。計画的に取り組んでいればここまでの悲劇的状況に追い込まれることはなかった。でも常にやることがあるのは嫌いではない。 最近は歌うとなると録音ばかりだった。というか動画を投稿し始めてからはずっとそうか。もっと前、na

          でも夜が長すぎたので

          【短編小説】ここを過ぎて

           久しぶりに都内に出て浮かれていた僕は、用事の済んだ午後に中目黒で改札を出て、ミルクティーを片手に目黒川沿いを散歩していた。六月。生憎の曇天だったが道ゆく人々はそこそこ多く、梅雨の日の一コマを楽しみながら小洒落た店をウィンドウショッピングして、10分ほど歩いたところで中身を飲み干した容器を持て余す。もう少し歩くか、大人しく駅に戻って帰宅するか迷っていたところで、ちいさな古本屋の軒先に出された本棚が目に止まった。いかにも中目黒らしく、真っ白な壁にゴシック体でなんとかBOOKSと

          【短編小説】ここを過ぎて