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ベランダに出てきたのは…

「今日は青やね、本当にいつも違う色よね。まじで何個持ってるんだろう。」

「そうやな。でも、俺はこの人絶対、自分に相当自信のある人やと思う。姉ちゃん言ってたもん、下着は人目につく所に出さんって。出すやつは自分に自信があるやつかアホだって。」

「でも、アホの可能性もあるんでしょ?」

「まあね。でもアホが住むようなマンションじゃねえだろ、ここ」

「たしかに」

そういえば、ここはお金持ちの人がよーけ住んどる、ってお母さん言ってたな。


『下着をさらす人は美人なのか?』
というテーマで僕たちの自由研究は始まった。

なぜ始めたのか、特に理由はない。ただ、夏休みに入り、宿題とかする気もなく、毎日がつまらなくなったから田中の提案にのっただけのこと。

実施方法は簡単で、僕たちの通学路にある下着が干されているベランダを1日1時間見張るというもので、それを1週間続けることになった。記録は僕がつけることになった。

特別な持ち物が要るわけではないので、楽勝だと思っていた。

だが一度、同級生の女の子に見張っている所を見られ「キモい」という言葉を浴びせられてしまい、これが自分たちの人生をかけた研究になっていることに気づかされた。

だが、僕たちはそんな言葉に負けない。絶対にこの自由研究を完成させる。


1日目
特に動きはなし。下着は堂々とさらしているのに、なんでカーテンを閉めているんだろう?しかし、田中は初日なのに遅刻してきた。言い出しっぺが呆れる。ちなみに今日の色は赤色だった。


2日目
今日も大きな動きはなかった。マンションに金髪で背が高いお姉さんが入っていったけどこの人なんだろうか。田中は「あの人めっちゃ変な匂いするけん、怪しいぞ!」と意味不明なことを言っていたっけ。ちなみにこの日の色は緑だった。


3日目
今日は田中が急用で来れないということなので一人で見張ることになった。今日は天気が悪かったので、いつもより離れた場所で見ていた。でも、全然ベランダに人が出てくる気配はなかった。やめようか、そう思った時に部屋の明かりがついてカーテンに女性のシルエット映った。髪がロングで背はそんなに高くないように見えた。僕の心臓はドキドキし、すぐに帰って田中に電話をした。「まじか!それはナイス収穫だ!よし、明日は俺が見張るからお前は来なくていいぞ!」そう言ってガチャ切りされた。


4日目
僕は家で夏休みの宿題をした。最近、自由研究を熱心に活動していたため全然手をつける事ができていなかったからだ。しかし、今日は田中から連絡が来るはずなのに全然来なかったな。今日は進展なし。


5日目
田中から「自由研究はやめよう…」と連絡が来た。
「何があったの?」と連絡を返す。
「あの部屋、男しかいなかったんだ。女性が住んでいなかったんだよ!!」
「まじか…」
「まじまじ。がっかりだぜ。どんな事情があるか知らねえけど、俺はもう行きたくねえ!」
「じゃあ、最後に明日だけ行こうよ」
「えー、お前なんで俺より積極なんだよ、キモいぜ」
「お前に言われたくない」


6日目
僕たちはいつも通り定位置についた。隣の田中はぶつぶつと何か言っている。今日の色は黒色。
特に動きがなく、時間だけ過ぎた。「もう帰ろうぜ…」と田中は文句を言い始めた。
「たしかに、もう帰ろうか…」
「おけい、ただトイレ行くけん待っといてくれ」
「はいはい」
そう言って田中は近くの公園に走って行った。それを見届けて僕は再びベランダを見つめた。そういえば、田中は男性だけ見えたって言っていたけど僕が見た女性のシルエットはなんだったんだろう…

次の瞬間、ベランダのドアが勢いよく開き、ちょっと小太りの男性が出てきた。なんだ田中の言う通りか、なんとなく男性を見ていたが、僕は走って田中がいる公園へ向かった。

田中は公園にいなかった。寒気が止まらず、僕は急いで家に帰った。


7日目
朝のニュースで僕たちが見張っていたマンションで事件が起きたらしい。どうやら下着泥棒がマンションにいたらしくその人が自殺したとのこと。部屋の番号は202号室、僕たちが見張っていた部屋だった。


あれ以来、僕はあのマンションに行っていない。多分、まだいると思うから。





ワンピースを着た首のない女性が…



一歩ずつ精進していきます。