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読書感想文 夏目漱石 それから

長い身の上話と、それから大人の不倫の話。

 身の上話を書くのにこれほど哲学っぽくも倫理学っぽくも文章を綴ることができるのが、プロ作家のプロたる所以であろうか。本編と関係なさそうな話の盛り込み方だって、よくもこうやって物語をまとめることが出来るものだと感嘆してしまう。

 興味深いと感じたのは、妊娠した女子がもっと相手と二人の時間を過ごしたかったとか、アイドルが偶像と表記されスターがスターであるのは限られた状況での一時に限られるであるとか、現代にも通づる価値観が明治の時代にもあったのだと気付かされたこと。時代が変われども人間の感性は基本的に変わらないということだろうか、それとも作者の感性だろうか。夏目漱石はそういえば"I love you"を「月が綺麗ですね」と訳した人物だった。そうだ、異彩な感性の塊だし愛だの恋だのに興味が無い訳がない。それから不倫を描いたのだから、あの一見収まりの悪そうな結末に収めるオシャレさが発揮された訳だ。

 この本は、他の夏目漱石を読むまでは少なくともとっておこうと思う。今回は読書を完了させるまでに時間を要したが、文章としてこころよりは少し難解さを感じた。違う作者の本を読んでから、また違う夏目漱石を読もうと思う。


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