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読書感想文 青山美智子 お探し物は図書室まで

このお話を楽しめている私は大丈夫、本物の絶望には至っていない。

 現状に満足していない人たちが図書室での出会いによって、不満の原因を他責にしていたことだったり、己が抱く真の希望だったり、実は今幸せだったりすることに気づいて人生が豊かに成っていく物語。躓いている人たちがちょっとのきっかけで変わることができる、という希望を与えてくれるフィクション作品だった。
 読み進めるうちにふと本を閉じて斜め上を見上げて、息を大きく吐いた瞬間があった。読むの止めよっかなと一度思った。そんな一言で変われるようなら苦労しないって。まだ本物の絶望を知らないんだよ、こちとら何やっても救われなかったんだから、と頭の中で毒が回ってしまった。いや、待てよ。でもこの本は文章のテンポが良いし内容にユーモアも感じられて本としては面白い。実在の本とか漫画が出てくる辺りが特に気に入った。先も読みたいな〜、と思った。読みたいな〜、と思ってから、物語としては人生の躓きを甘く見がちな気もするけど、これを読める自分は今、本物の絶望の中にはいないんだな、と思った。だって本物の絶望の中にいたら立ち直れる人たちの話なんて辛くてとてもじゃないけど読めないはずだから。そうして冒頭の感想に至る。
 本としての面白さはもう一つ、この物語で別々だと思われた人生のお話たちが少しずつ繋がっていく様子は、現実的ではないかもしれないけどパズルがはまるみたいなスッキリ感があってのめり込めた。プロの作家さんのアイデアと文章力、構成力があってこそ成り立つ物語の醍醐味を楽しめた。
 この本をとっておこうとは思わなかった。でも、この作家さんの本はいつかまた読んでみようかと思ったし、私の女性作家に対する苦手意識を払拭させてくれるかもしれないと思っている。
 
 

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