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読書感想文 東野圭吾 ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人

安心安全、間違いのない東野圭吾ミステリー。最後に登場したクズが全部持っていった。

 私が東野圭吾作品に出会ったのは、つい4,5年前のこと。えー、読んだことなかったの、と言われるくらいに遅いデビューだった。最初に読んだ「容疑者Xの献身」の内容が刺さりまくって、作者の理系出身という解説に深く頷いたものだった。それから、もちろん数える程の冊数しか読めてはおりません。しかし、頭の切れるストーリー展開による面白さと必要性をもって繰り返される説明による分かりやすさをもってして、私の中では東野圭吾作品は読んでおけば間違いない常備薬としての役割が確立された。現実離れした設定があっても楽しめるのは文章が読みやすいからだと思う。面白くない本や難しい本を読んだ後に東野作品を選択することが何度かあったと記憶している。
 今作も大変に読みやすく、分厚い文庫本だったけど躊躇することはなかった。内容としたコロナ禍を扱っているだけに気が沈む感じは少しあった。中学の先生に頼り続ける状況も現実的とは思えなかった。それに、マジックを推理に登場させるのは卑怯じゃないか、とも思った。しかし、そこはさすがの東野先生。ちゃんと理屈の通ったストーリーに仕上げているからやっぱりちゃんと面白かった。
 今回気になったのは、女子のセリフがいまいち女子っぽくないこと。女心を把握するのは難しいのか、と思っていたところの最後の最後に名もなき女のクズを登場させてしまうとはなんというオチだろうか。夏目漱石然り、人間の欲というか心の機微というかに対する造形の深さを感じさせられる。
 だが正直、私の頭は女のクズで一杯になってしまった。
 この本を手元に残しはしないと思う。でも、東野作品はこれからも間違いなく楽しみたい時に読むはずだし、今度はコロナ禍のない古い作品を選んでみようかと思っている。

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