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ネオンテトラと硬めのプリン

何かを頑張ったご褒美に、本を買うことがよくある。

今年の春あたりも、仕事やら通信大学の課題やらなんだかやたらとやることがあってちょっとしんどかったので、

"今あるタスクが全部終わったら、文庫じゃない本を1冊買おう"

と決めていた。
私にとって文庫じゃない本は、かさばるし、高価なものという感じがして普段はなかなか手が出しにくいので、何かを頑張ったご褒美にぴったりなのだ。
ずっと欲しくて買おうか迷っていた本もあったし、ちょうどいい。

そんな感じで本を餌に1か月ほど色々頑張り、手元のタスクを全て完了させ、その最後の仕事帰りにさっそく本屋に向かい、一直線にお目当ての本へ。

私がご褒美に選んだ本は、一穂ミチさんの ”スモールワールズ" 。

良く見ている書評の動画で ” 一冊読み終わるまで、ずっと揺さぶられているような、攻撃を食らっているような感じ。すごい読書体験だった" と紹介されていてずっと気になっていた。
私も早く文章に揺さぶられたいし、予測不能の攻撃受けたい。
せっかく素敵な本を読むので、素敵な場所が必要だと思い立ち、少し遠出してずっと気になっていたカフェで読書することにした。

そのカフェは田舎には珍しく23時ごろまで営業していて、周りのお店が全て営業を終えて真っ暗な中、そのお店だけぼんやりと暖色のライトがともっていてとても暖かい雰囲気だ。

もう20時過ぎなのにお店はほぼ満席。
なんとか席を確保して、デザートとコーヒーを注文した。
コーヒーもデザートも何種類かあるが、コーヒーには詳しくないのでなんとなくエチオピアとプリンを選ぶ。
プリンは私の好きなちょっと硬めの喫茶店のプリンの食感で、たっぷり生クリームも嬉しい。プリンの下はひたひたのカラメル。最高。

コーヒーも味の違いが良くわからないのだけど、飲んでおいしいと思った。
少し酸味があったような気がする。
ご褒美読書にぴったりのお供だ。

すてきな空間とデザートをお供にさっそく本を開く。
第1話目は "ネオンテトラ" というお話だった。
時々プリンをすくってコーヒーをすすりながらどんどん読み進めていく。

目では活字を追いながらも、周りのたくさんのお客さんたちの楽しそうな話声がなんとなく耳に届く。
でも、その声は文字通り"ざわざわ…"という音で耳に届くのだ。
わりと近くに他のお客さんがいるのだけれど、なぜか周りの人たちの会話が言葉として入ってこない。

カフェで読書をしていると、近くの席のお客さんの話の内容がついつい耳に入ってきてしまって、それがちょっと込み入った内容だったりしたときにはなんとなく申し訳ない気持ちになったりしているんだけど、このお店ではどんな会話の内容も "ざわざわ…" の音に変換されてしまうらしい。
なんだか不思議な感じがするけど、本を読むにはとても快適だ。

暖かい色の照明と、やさしい雑音と美味しいデザートにもてなされながら、40分ほどかけて1話を読み終わった。
表紙から感じた雰囲気よりもストーリーはだいぶヘビーだった。
先の展開が気になってどんどん読み進めてしまったけど、物語の密度の濃さで1話読んだら今日はもうお腹いっぱいだ。
この本を一人で家で読まなくて良かった。
なんかもうすごい感情になっちゃいそうだ。
今日このカフェにいってみようと思い立った自分に感謝したい。

この本を読むときは、夜にまたこのお店に来ようと決めた。
なんだかこの本との相性がいいような気がした。
読後の複雑な感情がお店の醸す優しい雰囲気で中和されている感じ。
次はガトーショコラが食べたい。

店主に見送られながら、明るいお店を出て夜道をのんびりドライブして家路につく。
少し雨が降っていた。
雨の国道は信号機の光が滲んで水槽みたいできれいと思う。
なんだか少しふわふわしている。
気分のいい夜だ。


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