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問題を生んだ「子ども部屋」に共通しているもの

子供と住まい02

少年犯罪が増える理由 ー壊れた子どもを作る部屋ー

私たちの生活は、日常の何気ない仕種さえ、無意識のうちに住まいの構造によって習慣化されていることが案外多いものです。幼児期から思春期へと成長していく子どもにとって、住まいは人間形成の場そのもの。その住まいを子どもの躾や人間形成の場として強く意識している親は、極めて少ないのではないでしょうか。

親は、子ども自身の希望、受験勉強のための個室、という大義名分によって、快適すぎる子ども部屋を安易に与えてしまいがちです。
その結果、子ども部屋は住まいの中で最も優遇されて、どの部屋よりも快適に過ごせる部屋になっています。

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少年犯罪で共通していると言われること

少年犯罪で共通していると言われることは、乳幼児から小学校に上がるまでの時期に、家族の中で何らかの葛藤が起き、それによって子どもが心に傷を持っていたり、子どもに対する愛情が歪んでいたり、夫婦間の信頼関係がすでに崩れていたり、こうした家族関係の歪みは、団欒の場であるリビングルームやダイニングなどは殆ど機能していない状況も共通しています。

家族関係によって傷を負った子どもが、自分だけの密室化した空間を得たことをきっかけに、精神の歪みを加速化させ、ある時点で行動に現れたと言えるのではないでしょうか。密室ゆえ、その行動が読めない子ども部屋にも大きな原因があるのです。

欧米では、比較にならないほど夫婦の寝室の方が充実していますし、また、「子ども部屋は誰のもの」という問いに、子どもは、「親のもの」と答えます。

そして、大学入学や就職など、ある一定の年齢に達すれば、間違いなく、自分の巣を作るため、親の家から独立していくのです。

日本の子どもは、この質問に対してそうは答えません。与えられた子ども部屋は自分のものであり、当然のように部屋に鍵をかけ、入ろうとする親を拒否したり、極端な場合には暴力を揮ったり、あるいは成人してもいつまでも独立しないパラサイトシングル状態が起きたりしています。

親は居心地のいい部屋を与え、子どもの意見も聞かず、結婚したら一緒に住むための二世帯住宅を勝手に計画したりします。子離れできない親、親離れできない子。この悪循環が、パラサイトシングルや、同居型フリーターの増加を招いています。勉強と自立のための部屋とはいいながら、今や子ども部屋は、子どもの自立を阻み、結果として「壊れた子ども」を生みだしているといってもよいと思います。

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問題を生んだ子ども部屋に共通しているもの

凶悪事件を起こした少年の 「なぜ」「どんな理由で」という心の状態を掴むには、親が幼児期からどんな教育を、そしてどんな愛情を示してきたかを見ることが重要ですが、どんな住まいで過ごしてきたのか、またどんな子ども部屋を与えられてきたかを分析してみると、驚くほど多くの共通点が浮かび上がるのです。

住まいの構造が人間の精神や行動に深い影響を与えるという視点から、下記の凶悪事件を起こした少年の部屋の共通性を具体的に探ってみようと思います。

①宮崎勤幼女連続誘拐殺人事件
②女子高生コンクリート詰め殺人事件
③金属バット両親殺人事件
④新潟少女監禁事件
⑤神戸連続児童殺傷事件

どの事件でも子ども部屋に共通している点を挙げると、五項目に集約されます。

一つめは、どの子ども部屋も、玄関から親の顔を見ずに出入りが可能なこと。
この構造では、子どもがその気になれば、親の目に触れることなく長期間引き寵もり状態で生活することができます。しかもこの場合の間取りの殆どで、玄関や階段付近に洗面所、トイレ、浴室がありますから、さらに子どもの姿は見えません。
二つめは、子ども部屋に外から直接出入りが可能。
①の子ども部屋は離れに作られていましたので、外からダイレクトに出入りでき、親の管理は全く不可能な状態。④はガレージから直接出入りできる外階段が設置されていたため、一軒の家でありながら独立したアパートのような構造でした。外部から自由に出入りできる場合、子どもはより大胆な行動に出てしまうことは、どの事件でも共通しています。
三つめは、子どもの部屋が親の寝室から離れていること。
精神的自立ができていない子どもの部屋と親の寝室が、遠く離れていることは危険です。

①③④⑤のケースでは、子ども部屋が親の部屋と遠く離れており、とりわけ③④⑤では二階建てで二階に二部屋があり、両親の寝室は一階、子ども部屋が二階でした。このため二階は子どもだけの聖域となり、事件が起こる数年前から、子どもの暴力に遭ったりもし、両親にとって子ども部屋は遠い存在になっていました。

四つめは、家族団欒の場であるリビングルームは、子ども部屋と離れており、かつ団欒の場として機能していない点。
事件を起こす前年に父親が死亡していた④以外のケースでは、両親は、すでに信頼関係が崩れ、家庭内別居や離婚を考えていたりと、家族団欒の場などそもそも成立していなかったことも共通しています。
五つめは、地域社会との繋がりを自から絶ってしまっている点。
共通しているのは、子どもは外部との接触を拒み、自分の部屋に引き篭もり状態であること。①では、窓ガラスに6000本ものビデオテープが積み重ねられ、 ②では、光を通さない遮光カーテンで一日中閉め切り、外からは電気がついているのかさえ分らない。④では窓に黒いミラー状のフイルムを貼りめぐらせ、南側に向いているのに畳も暗い部屋。
どの家も決して分りにくい場所に位置していたのではなく、しかも、子どもの部屋は道路に面していたわけですから、窓ガラスの異様さに、本来なら近隣の誰かが気づくはずです。こうした事例は、地域社会の持っていた機能が、すでに崩壊していることを示しています。

親がもっと住まいと人間の関係に関心を持ち、子ども部屋の与え方に慎重だったら、ここまで大きな事件にはならなかったと思えてなりません。


・次回は「子供と住まい03」家族とともに成長していく家です。
おたのしみに。



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【横山彰人建築設計事務所】


これまでに300以上の住宅を手掛け、富な実績を元に、本当に居心地のいい、家族が元気になる住まいをご提案します。noteでは住まいで役に立つトピックスを連載形式で公開します。