公募戦士たちに捧ぐ記録:その1 優秀な人が面接に呼ばれるとは限らない

はじめに

博士をとった人間にとって,大学教員のポストをゲットするためのプロセス・・・いわゆる「公募」と言うのは,非常に重みのある重要な問題でしょう。私自身,某国立大学でいわゆるテニュア持ち(任期無し雇用)で教員をやっていますが,獲得までには紆余曲折がありました。
おまんまが食えるかどうかの瀬戸際ですから,公募に際しては一喜一憂。ついついあれやこれやとググってしまいます。

しかし,世の中には公募の情報は溢れているようで意外と少ないものです。それは,大学が色々な意味で世間の常識から取り残されていると言うことが一つ(例えば,着任のその日まで給与がわからないとかフツーにあります)。もう一つは,各大学ごとに人事をめぐる状況が大きく異なるということがあります。これから書いていく内容も,私が経験したごく一部の大学のケーススタディでしかありません。

しかしそれでも,公募に際しては不安になり少しでも情報が欲しくなるもの。また,特に現役の博士の学生だと周りにも聞き辛く,色々と情報を知りたくなるものです。中には,(名指しはしませんが)お金をとってそのような情報を指南している企業もある始末。噂によると大したことはないクオリティだとか・・・?
そこで,私自身が応募した際の経験に加え,採用する側にもなっているので,採用する側としてみたアレやコレをシェアし,若い研究者の方の一助になってもらうことが狙いです。
(勿論,特定できない程度に多少のフェイクを入れています)

筆者の経歴

現職:某国立大学の准教授
領域:人文系のどこか
業績:平均よりは多いが,トップではない。いいところで上の下くらい。

公募経験
書類応募:58回(うち56回はポスドク時代)
面接に呼ばれた回数:6回
面接での採用数:6回
⇒1回目の採用は20代後半の任期無し講師&残りは辞退(ラッキーでした)。
⇒2回目の採用は30代中盤での異動(書類落ちが1回)

自分で言うのもなんですが,面接の突破率100%は結構すごいんじゃないかと思います(運もありますが)。

書類審査:最初にして最大の関門

周知のように,多くの公募では,まず書類審査が行われます。通過した数名(通常2〜3名)の面接(+多くの場合模擬授業)を経て採用者が決まります。
この「面接に呼ばれる」までが非常に大きな難関です。私の場合,初めて面接に呼ばれた頃から立て続けに面接に呼ばれるようになりました(これは次のnoteでコツなどを書こうと思います)。
しかし,この書類審査において「(研究・教育の)業績があるのに面接にさえ呼ばれない!コレはコネ採用に違いない!ケシカラン!」と言うのは大きな間違いですし,そんなことを考えていてはいつまで経っても面接には呼ばれません。(言いたくなる気持ちはわかります)
勿論,たまにコネで決まっていたというケースもあります。しかし,人事委員会(通常5〜7人程度)の全員がコネ採用に賛成しているケースというのは稀です。コネのつもりだった人事が,公募を経て別の人になるケースはかなりの頻度であります。また,「コネだ!」とTwitterなどで嘆いている人の何割かは,間違いなくコネの所為にして自分の問題から目を背けている人です。皆さんはこうした風評に惑わされず,諦めずに応募して欲しいものです。

さて,結論から言えば,「公募する側は優秀な人が欲しいのではなく,想定している望ましい人材が欲しい」のです。このことを理解しているかどうかで面接に呼ばれる確率は段違いになってきますし,落ちたときでも凹まなくて済むようになります。

以下に,採用側で実際にあった事例を元に説明してみましょう。
(なお,応募領域とは違う領域なのに応募してきた,などのどう考えてもダメなパターンは説明するまでもないと思うので除外します)

Case 1: 隠れた条件

公募の際には,JREC-INなどに掲載される表向きの公募条件がありますが,多くの場合そのウラには書かない(書けない)隠れた条件があります。この隠れた条件は,Case2以降にも関係しますので,最初にご紹介いたします。

最も多い条件は「年齢」です。ある講座に60歳,45歳,43歳の教員がいたときに,46歳とか42歳の人が採用される可能性はかなり低いです。なぜなら,およそ20年後に一気に3人が退職する可能性があるからです。
従ってこのような場合(公募している職にもよりますが),30代中盤以下か,50前後の人の方が採用されやすいと考えられます。なお,一般的にはクソ文科省から「若い奴雇えや!」と言われているので,若い方が有利になることは申し添えておきます。
年齢を絞った応募は色々な意味でアウトになりますので,コレは公募条件には書かれません。ただし,募集している職階と,その講座に所属している教員の年齢分布からある程度推測はできます。

次にありがちな条件は「性別」です。
「大学は未だに募集に際して男か女かを履歴書に書かせるとはケシカラン!」
「女性限定公募!?女性を優先して採用する!?就職差別だ!」
というご意見はごもっとも。
でも,クソ文科省が「男女比半々に近づけろ」と予算を人質にして圧力をかけてくる以上,雇う教員が男か女かは,大学にとっては極めて重要なのです。あなたの性自認等々は大学にとってはなんの関心もありません。単に,あなたが法的に男か女かが重要で,それ以外は心底気にしていないのです。

女性限定公募はまだ潔いですが,そうではない公募で実は女性しか採用する気がないというパターンは往々にしてあります(場合によっては経営側から「女性以外雇うなよ」という圧力がかかる)。なので,「女性限定公募は差別だ!」と思うのではなく,「応募者に寄り添ってくれてるんだなあ」と考えるようにしましょう。
逆に女性はチャンスです。一般論として,女性限定公募は応募数が少なくなるので,採用される可能性は通常よりも遥かに高いです。

見落とされがちな条件は「定着可能性」です。
通常,一度雇った人にはよほど問題のある人でない限りずっといて欲しいと願うのが大学の人情です。なので,例えばA県にある大学に応募する際,あなたやご家族がA県出身であったり,あなた自身が当該大学のOBであったりすると,当該大学に採用される可能性は上がります。
とはいえ,そうした縁のある公募ばかりが出るとは限りません。その場合は,書類でさりげなく「私はあなたの大学にどうしても行きたいんです,雇ってくれたら一生います!」ということを時に暗黙的に,時に直裁にアピールするわけです。
もちろん,特に博士の学生にとって,本音は雇ってくれればどこでもいいんですけどね! 私たちにとって,重要なのは自分を理解してもらうことや本音を言うことではなく,採用されることです。ウソを書くことはお勧めしませんが(どうせバレます),本当のことを書く必要もないのです。
ただし,東京都市圏の大学は一般的に非常に人気が高いので,余程でない限りこの点は気にしなくてよいと思います。

この他にも,「数年後に予定している大学の改組で,英語で講義できる人が本当はいいんだよなあ」「フランス語がわかってくれると助かるなあ」「S大学と繋がりがある人の方がいいなあ」などの,表立っては書かない条件があるケースは無数にあります。しかし,こうした細かい点は「学内事情」で後述するように外からは窺い知れません。よって,「運」だと割り切ってください。

なお,公募条件の隅っこに「〜〜が望ましい」と書いてあるパターンがあると思います。コレは,こうした「隠れた条件」を可能な限り明示しようとしてくれているパターンですので,見落とさないようにしましょう。自分が「望ましい」人物であることをアピールするのです。

Case2 : 優秀すぎる

見落とされがちなのは,ごく一部のトップクラスの大学を除いて,「優秀すぎる」人材は敬遠される可能性があるということです。
実際にあったケースとして,応募者を業績などで篩にかけた結果,「論文30本(その業界&年齢としては異常に多く,他の応募者の2倍以上),科研費を含めた外部資金も取りまくり,表彰もされまくり」と言う人がトップに来ました。専門性も応募条件にバッチリ噛み合っています。素直な感覚では,この人を面接に呼ぶべきでは?と思うのではないでしょうか。

しかしそれにもかかわらず,この人物は書類審査で落とされました。
なぜなら「優秀すぎて,他にいい場所が見つかればさっさと出ていくだろう」と思われたからです。当時の人事委員会では,満場一致でこの人を面接に呼ばないことを決めました。
実際,この方の経歴はほぼ1〜2年(短い場合半年)であちこちを渡り歩いており,当時筆者が所属していた大学(決して小さくはないが最大手ではない)に残ることはないだろうと考えられたのです。Case1で述べたような「定着しそうな理由」がなかったのもこの判断を後押ししました。

というわけで,自分が破れた公募で採用された人を4月にチェックして(しちゃうよね?),どうみても自分より優秀ではない人が採用されていたとしても,それは驚くことではないのです。

Case3: 業績&教育経験が足りなさすぎる

これはCase2と真逆のパターンで,業績や教育経験が少なすぎる人を雇うケースは殆どありません。雇うとすれば,コネを除けば「業績や教育経験に目を瞑ってでも採用したい何か」がある場合だけです。
筆者の経験では,「できれば20代を雇わなければならない」という理由があったため,業績・教育経験がほぼないのに,並いる他の応募者を押し除けて採用された方がいました(その後,この方は大活躍しているので大成功の人事でしたが)。

とは言え,それは例外。あなたのいる業界と経歴・年齢から見て,例えば「10本くらいは論文があるのが普通だよね」という業界ならば,最低でも5本の業績は必要でしょう。それ以下は問答無用で書類落ちです。また,10本の業績があったとしても,中身のクオリティが低い場合はやはり書類落ちの可能性が高くなります。
「指導教官との共著しかない」という人も注意しましょう。指導教官の指導がないと,何もできない人ではないかと勘繰られます(まあ,大体これは正しいのですが・・・)。

とはいえ,上記の例では15本の人と10本の人が比較されたとき,10本の人の方が面接に呼ばれる可能性は(諸条件に鑑みて)十分あります。要は,足切りみたいなものだと理解しておいてください。少なすぎるのはまずい,ということです。

最近ではその重要性が周知されてきていますが,教育経験は非常に大切です。非常勤講師など,書類に書くことができる教育経験はしっかり積んでおきましょう。授業評価アンケートの結果が高い,などの客観的(と思われている)指標が添えられているとなお良しです。

Case4: 学内事情

ある領域Pにおける公募で,応募者αとβのどちらを面接に呼ぶかについて議論されていました。二人とも領域Pのど真ん中をいく業績・経歴の持ち主ですが,αの方が若干業績が優秀です。しかも,公募した領域Pに加えて,ダブルドクター(国内と国外で2つの博士号を持っていた)でPと関連がある領域P'についても一定の業績がある方でした。
この領域P'は,公募を出している講座が大学側に「P'ができる人が欲しい」と10年にわたって言い続けてきたものの,大学側から人件費抑制を理由に却下され続けてきた領域です(なので,領域Pの教員が無理矢理P'の講義をやっている状況でした)。
しかし,人事委員会にいた領域Pの主任の教授は,αを面接に呼ぶことにあまり乗り気ではなく,結果的にその意向を踏まえてαさんは面接に呼ばれませんでした。なぜか?

その教授曰く「もしもαさんを採用すると,「αさんがやれるでしょ?」という理由でP'の人事は間違いなくやってもらえなくなるだろうから,採用には乗り気ではない」ということでした。
書類では,αさんは「P'も出来ること」を積極的にアピールしていました(P'の教員がいないことは公開情報で解るからでしょう)。かえってマイナス方向に作用するとは考えていなかったのではないでしょうか。
ですがこれが現実であり,最初に書いた「公募する側は優秀な人が欲しいのではなく,想定している望ましい人材が欲しい」ということなのです。

こうした事情は学外からは(内部に知り合いがいない限り)絶対にわからないので,「公募の負けに不思議の負けあり」と言われる所以になっているのです。

Case5: 社会常識が無さすぎる

大学教員という超高度専門職なんだから,職能が最も重要だというのはごもっとも。ですが,社会常識が極度に欠落したような人はまず雇われないと思ってください。
例えば履歴書の写真があまりにも雑に切ってあったり,枠を大きく超えているもの。日本語が致命的なまでに間違っているもの。超有名大学の出身である故に,応募先の大学を下に見ているようなもの(本当にあるんですよこれが・・・)。少々ならともかく,致命的に誤字脱字等が多いもの。公募要領に書いてある様式を極端に逸脱しているもの,等々は基本的に面接に呼ばれないと考えた方がよいでしょう。

公募に際して面接をする大きな目的は「一緒に働けそうなヤツか」を見るためです。少々のミスはともかく,「あまりにも常識がなさそう=一緒に働けなさそう」という書類を作るべきではありません。

ちなみに,公募書類は細かいことまで全部指定しやがって!クソが!と思っている公募戦士は沢山いると思います。採用する側もクソ様式だなと思っていますし,正直に言えばどうでもいいとさえ思っています。
でも,事務やらなんやらが渋るので(そしてそれに抵抗して人事そのものを消されるよりはマシなので),あんな風になっているわけです。幸いなことに,中の人サイドも(ほとんどの人は)それほど気にしていないので,ちょっとしたミスや逸脱であればマイナスにはならないと思います。

Case6: 健康に不安がある

少なくとも筆者が所属していた全ての大学では,最終的な人事の上程書類(こんな理由でこの人を採用しようと思うんです,という教授会などに提出する書類)には「健康状態に問題はない」という一文が入っていました。
雇ったはいいが長期で病欠されたりすると大学としてはかなわないので,この「健康」というファクターはかなり重要です。手術などで履歴に長期の空白がある人は警戒されますし,写真(や面接)で極端に太っている/痩せている人,あまりにも病的な顔をしている人も敬遠されます。差別的だというのは全くごもっともなのですが,人件費を削られまくっている大学としては「長く健康で働ける人が欲しい」というのは切実な要望なのです。

よって,普段から身体の健康に気を使っておくべきですし,少なくとも病歴などは書類と面接ではバレないようにしておきましょう。書く義務があることを書かなかったり,嘘をつくのはアウトですが,本当のことは書かなくてもよいのです

おわりに

まとまりがなくて申し訳ありませんが,書類審査について「なぜ,優秀でない人が面接に呼ばれたり採用されたりするのか?」を書いてみました。
これらのことは,意外とできているようでできていないものです。特に,博士を取ったばかりの学生は,「優秀であればいいんだ!」「業績が大事なんだ!」と割と安易に考えがちです(気持ちはすごくよくわかります)。しかし,本心からそうではないんだと思った時,あなたが面接に呼ばれる可能性はグッと高まるでしょう。

なお,最後に改めて添えておきますが,ここで取り上げた事例は全て筆者によるここ10年ちょっとの経験談です。ケーススタディでしかないことをご了承ください。なお,以下は投げ銭用なので,支払っていただいても特に何もありません。

ここから先は

37字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?