見出し画像

「色彩の魔術師マティスの新たな側面が見えた展示」

 仕事帰りに東京都美術館に立ち寄った。鑑賞するなかで、私はある一枚の絵画の前で足が止まってしまった。

マティス『金魚鉢のある室内』
引用:https://media.thisisgallery.com/⑥アンリ・マティス《金魚鉢のある室内》


 「色彩の魔術師」とも評価される、マティスの『金魚鉢のある室内』は、絵画自体が別の世界への窓が開かれているように感じる作品だった。描かれているのはどこか異国の部屋だ。窓の近くに金魚鉢が置かれていて、窓の外には色鮮やかな世界が広がっている。光が溢れる綺麗な昼の街並みだ。一方、室内はワントーン暗い色で塗られている。水色と灰色。そのぐらい中と外では、色彩のトーンが異なっている。金魚が泳いでいる硝子の鉢に縁には周囲の色味が映り込んでいて世界が溶け合っているような感覚も抱かせる。
 『金魚鉢のある室内』の画面の手前には水が入った入れ物が置かれたテーブルが置かれ、中継に金魚鉢が置かれたテーブル、その奥に窓と「く」の字を描くように奥行きが演出されている。視線は自然と窓の外へと誘われる。
「手前の洗面器の緑がかった水の色、金魚鉢の鮮やかな水色、壁の深い青色、そして窓の外の鮮やかな空の青、水面の水色……。」と言葉に置き換えるとたくさんの青の色調が使われているのがよくわかる。
 様々な青の色の中で金魚のオレンジが良く効いている作品だ。昼間の日差しが差し込む部屋の風景はもっと明るい印象を持ってもおかしくないはずなのに、この絵にはどこか暗さが潜んでいるのだ。マティスの他の作品からは開放的で鮮烈な色彩を感じるのに、対照的な感覚を抱かせる。それは、第一次世界大戦という時代の背景も影響しているのだろうか?すぐそばに展示されていた『コリウールのフランス窓』の窓は黒く塗りつぶされていて、暗闇の中にあった。憂いを帯びた作品は今までに見たことがないものばかりだった。マティスは赤い部屋の作品が有名で、ビビットな色彩とフォービスムと呼ばれる大胆な筆使いの印象が強かった。
 私にとって、美術鑑賞はマスクをすれば昔と変わらずに行える大事なライフワークだ。むしろ人数制限があるからこそ、今までより快適に絵画を見れるかもしれない。美大時代はお腹がいっぱいでも強制的に摂取しなければいけなかった美術も生活の中で良いスパイスになっている。私は作品を鑑賞することで、場所も時代も全く異なる人の生き様が浮き上がってくるのが楽しいと感じていた。この展示の中で、一番印象に残った、『金魚鉢のある室内』という1914年に発表された作品だ。フォービズムの代表者であるマティスがこんな憂いを感じさせるものを描いていたのは知らなかった。そして、どこか日本的に感じるモチーフでもある。

マティスらしいビビットな色彩と、明瞭な線で女性を描いた作品
(撮影可能エリアにて撮影)
マティスらしい女性を描いた作品
(撮影可能エリアにて撮影)

 私自身はマティスのことは美術の教科書で知識として行っている程度で、近いから行きやすい、袋がオシャレという理由で立ち寄った展示だった。けれど、マティスの展示は今まで抱いていた明るい印象とは違う側面が見ることができた。感染症と戦争に脅かされている現代だからこそ、共感できる部分もあるのだと思う。前知識を得たからこそ、もう一度深く作品を見てみたいそんな風に感じさせる特別展だった。


マティスの切り絵
(撮影可能エリアにて撮影)
今まであまり見ることがなかったマティスの素描
(撮影可能エリアにて撮影)

『金魚鉢のある室内』の写真は撮れなかったものの、展示には撮影可能なスペースもある。マティスらしい、色鮮やかな色彩と大胆な筆致が印象的な作品群を撮ることができる。
 8/20まで東京都美術館で開催中なので、興味がある方はぜひ!

===
◾️余談ですが…
この展示のディスクリプション(芸術学的な作品の描写の手法)は、小説の中で使用するために書いたものをnote用にリバイスしています。マティスの『金魚鉢のある室内』をどのように物語の中で生かしているか、興味のある方はこちらから。

◾️1話

◾️2話
※美術が出てくるのは主に2話です。


==
◾️展示の詳細についてはこちら



会期:2023年4月27日(木)~8月20日(日)
会場:企画展示室
休室日:月曜日、7月18日(火)
※ただし、5月1日(月)、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)


物販の袋もとても可愛かったです!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?