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TDRは夢を失ってしまったのか

 皆さんこんにちは。
 今回も、物語を書く仕事、「シナリオライター」として、内部よりの視点も交えつつ、ディズニー関連の記事を書いていきたいと思う。
 とはいえ、あくまでも私自身はあくまでもそこらにいるような一般シナリオライターでしかないので、その辺りは了承したうえで読み進めて欲しいと思う。

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◇事の発端

 さて、今回記事のタイトルにあるような疑問を覚えたのは、以下のツイートを目にしてから。

 たしかに、ここ最近ではこういった、「ディズニーは価格を釣り上げ、顧客満足度を下げている!」や、「版権を持っているからって殿様商売ばかりやっている!」といったような言説をよく目にする。

 ということで、今回は以下の三点、

・顧客満足度の推移
・様々なモノの制作費と比較して
・個人の見解

 に触れつつ、私自身の考えもまとめる意味でこの記事を執筆していこうと思う。

◇本当にTDRは夢の無い場所となってしまったのか?

 さて、それではまず、現在のディズニーが抱える問題について、どんなものがあるのかを考えてみよう。

 私としては、ぱっと思いつくのは「顧客満足度」「転売ヤー問題」「パーク高すぎ問題」当たりだろうか。

 これらについて、どうなっているのかは詳しく解説してくれている方がいるので、そちらの動画を参照していただけると助かる。

 まず、この動画でもあげられているように、パークの顧客満足度に関しては実際のところは上がっている。

 転売ヤー問題に関しても、2020年11月12日に発売したPS5が、いまだに国内の、ほとんどの一般家庭に供給されていないことからもディズニーのみの問題でないことがわかるだろう。
 PS4のシェアは日本がトップクラスであり、米国でのPS4のシェアはXBOXと僅差であるように、SONYは早急にPS5を供給することが喫緊の課題となっている。
 今回の件に関してPS5はあまり関係ないように思えるかもしれないが、正しく転売対策を行わなければ市場の不満が高まるというのは、PS5の前例から学ぶことが出来るだろう。

◇本当にパークはただ顧客を締めあげるためだけに値上げしているのか?

 歴史から見て、圧政を敷くような王が賢王だった試しはない。
 税金をただ高め続け、国民に還元しないような政府というのは、どの時代も謀反やデモ、暗殺などによって簡単に崩壊している。
 ここから、創作の世界で優れた国を描くために最も簡単な政策は「富国強兵」であるのだが、この件に関してはまた別で細かく解説するとして。

 国民に還元せず圧政を敷き続ける政治というのは、ゲームなどの界隈でもよく見ることが出来る。
 例えば、直近で最も分かりやすい例だと「APEX LEGENDS」が挙げられる。
 リリースから好調にDL数を伸ばし続けてきたこのゲームは、2021年3月にスイッチ版のリリースで人口を一億人へと伸ばしたが、これは同時期に盛り上がっていたFPSが少なかったことが挙げられる。
 だが、これに胡坐をかいてしまったのか、運営元のEAはチーター対策やプレイヤーファーストのアップデートに前衛的な姿勢を見せなくなる。
 その結果、APEXは八か月も過ぎる頃にはユーザーを4000万人もへらしてしまうこととなる。

 これは、なぜ起こったかというと一つは、似たようなFPSゲームの「VALORANT」が、様々な配信者などによって知名度を上げたために人口がそちらに流れてしまったという要因がある。
 また、2022年の4月にはプロゲーミングチームの「ZETA DIVISION」が、日本のチームとしては快挙と言えるアジア一位と世界三位の記録を同時に樹立したために注目度がさらに上がり、人口がさらに横流しとなったのも原因だと考えている。

 とにかく、「自分たちのサービスが最も優良だ」と考えて研鑽を怠ったサービスが、その後に後発のサービスに飲み込まれ衰退していく様子はどこでも見ることが出来るのである。


 これを踏まえて、ディズニーがどうであるかを考えてみよう。

 DPAが導入された直後も、「有料FPとか、ディズニーは守銭奴に堕ちた」なんていわれていたような気がするが、そもそもcovid-19が流行する前の2018まで年間売り上げを参照してみれば、本来ならば年間平均「4000億円」の売上を見込めていたはずなのである。(参照記事)

 covid-19の流行に合わせて休園を選択せざるをえなかったディズニーは、2020年の二月末から六月末まで、一年間の凡そ三分の一の休園を行った。

 この期間に見込むことが出来た筈の収益の金額は、実に1300億円だ。
 まぁ、実際の所は2020年は赤字決算となってしまっているため、運営の帳尻は2020年の段階ではあっていないということがわかる。
 翌年の2021年でもこの赤字は半分となったものの、赤字継続となってしまっているため、現状がいかに苦しい経営状態であるかがわかる。

 確かに、苦しい経営状態から脱却するためのFP有料化ではあるだろう。
 だが、これまでのFPでは、遠方からやってきた人たちや長時間並ぶことが出来ない人たち、そして朝早くにパークに来ることが難しい人たちに対して、2000円を支払えばアトラクションを満足に楽しむことが出来るようになったというのは、かなり大きな点であると言える。
 つまりは、これまでFPをどう頑張っても取得できていなかった層に、FP獲得の機会を与えるというアプローチを行うことで財源を一つ確保したということである。

 確かにFPがなくなったことは悲しいかもしれない。
 FPが有料になったのも悲しいかもしれない。
 だが、同時にそのシステムが生み出されたことによって助かる人たちというのも、同時に存在しているのだ。

 また、開園当初から入場チケットが二倍になっていることに関して不満を吐いている人もいた。
 が、これらに関しても似たような例は先ほどのAPEX同様、ほかでも見ることが出来る。

 野菜なんかを考えると分かりやすいだろうか。
 現状はドル高に、ロシアウクライナ戦争で世界的な物価高騰が起こっている。
 また、技術革新による電子製品の高額化も進んでいる。

 例えば、NintendoDSなんかを例に出してみよう。
 2009年頃のDSのソフトは定価は5000円程度が相場であった。
 が、2022年現在のPCやPS5に向けて発売されているソフトはどうだろうか。
 多くのゲームソフトは、映像の4K化やエンジンの複雑化、レイトレーシングへの対応などで、新発売の定価を見てみるとどれも8000円は超えている。
 高いゲームソフトでは9000円を超えるものから、10000円に届いてしまうものもある状態だ。

 だが、これらは技術が高度に進化したため、しょうがない部分でもある。

 TDLの開園した1983年と、2022年現在の科学技術を比べると、その差は歴然である。
 ムーアの法則では、半導体の集積技術は18か月で二倍となると考えられている。

 1983年ではCDが登場し、Nintendoはファミリーコンピュータを発売したようなタイミングであり、その時期の技術力と現在の技術力は果たして本当に同じ価格で提供されるクオリティであると言えるのだろうか?
 果たして、1983年当時に美女と野獣のアトラクションがTDLにオープンしていたとしたら、本当にパークのチケットは現在の半分であったのだろうか?
 モノの高額化は、技術が上がれば上がるほどに起こると考えている。

 もちろんディズニーの版権を使っているわけだから、「MONSTER」や「Redbull」(どちらもエナジードリンク)のような、ブランドの力で商品を高額にするようなマーケティングを行っているということは否定できない。

 だが私は、パークのクオリティは年々上がっていると考えており、それに合わせて、パークの運営や維持に必要な費用も年々上昇していると考える。

 2020年にオープンした美女と野獣エリアの制作費は750億円で、これだけパークにマンネリを与えないよう企業として努力している姿をみて、これが本当に圧政であると言い切れるだろうか?

 私は、数か月前のチケットの値上げをみて、初めは衝撃を受けたが同時に納得もした。
 あのクオリティを維持するために、そしてコロナ禍の赤字を回復するために、値上げは仕方のなかったことなのではないだろうか。

◇制作費の面でのクオリティ

 ここでは、建築の費用に妥当性はあるのか、というところにも注目していこう。

 アニメの業界では、30分のアニメを制作するのに凡そ1~3000万円程度かかると言われている。

 これをパーク内のアトラクションのストーリーで考えてみるとして、例えばタワー・オブ・テラーの冒険を、冒険のシーンからNYC創設、そして物語としてのエンディングまでのアニメを制作すると考えると、おそらく3億円はかかるだろう。

 また、ライドの制作費用として、富士急ハイランドなどで使用されているような大型ライドを制作する際の費用は30億程度とされている。

 この二点だけを考えれば33憶でタワー・オブ・テラーは制作できそうなものだが、よく考えて欲しい。
 このアトラクションに付随して、ニューヨークグローブ通信社やニューヨーク市保存協会、庭園部分にロビー内装、宝物庫の制作も行われているのである。
 これに取材費などもかかっていると考えると、タワー・オブ・テラーが210億円で製作されているというのは、むしろ安いのでは? という感覚になってくる。

 タワー・オブ・テラーに限らず、ディズニーの施設はどれも細部への作りこみが凄い。
 これは、おそらく2024年に開業するファンタジースプリングスでも同様のこだわりが見られるだろう。
 これに、ディズニーシーの総工費の半分以上の金額を使用しているわけだから、金額に対する製作費の密度はかなりのものである。

 この、国を富ませ兵を強化する富国強兵と似たような考え方が利用されているディズニーは、果たして本当に利用者に対して富を還元していないといえるだろうか?

◇総括

 人間には必ず、「ハウダニット(どのような動機があるのか?<How done it?>)」が存在している。
 ディズニーが何故値上げを続けているのか?
 この理由を「儲けたいから」の一言で片づけるのは簡単だが、歴史から見て、このやり方は長くは続かないということはディズニーも分かっているはずである。
 現状はパンデミックという異常事態でかなり苦しい状況ではあるのだろうが、この状況が落ち着いたとき、さらに客に対して還元され、お互いwin-winの関係となるような改善をしてくれると私はOLCに期待している。

 ともかく、表題にあるような「TDRは本当に夢を失ってしまったのか?」という問いに対しては、私はノーだと考える。
 確かに金額は値上げされてしまったかもしれない。
 だが、それだけの金額を払っても、それと同等の体験価値は十分得られるようなパークではないだろうか?

 以上、一ライターの視点からとなるが、パークの人気問題について、思っていることを書かせてもらった。

 それでは、また別の記事で。

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