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来なかった、もうひとつの土曜日

今日も三人でドライブ。友人H君が運転する車で、友人の彼女Kちゃんが助手席に、後部座席はオレの指定席だ。
狭い島、目をつぶって運転しても大丈夫なくらいに、ドライブコースはいつも決まっている。車の中でのおしゃべりがメインだから、ドライブコースはどこでもよいのです。

ドライブの後は、Kちゃんの住むアパートに帰っておしゃべりの続き。
しかし、あまり長居しても迷惑なので、オレ一人家に帰るのがいつものパターンだ。
オレの住むアパートは、Kちゃんの住むアパートの道路を挟んですぐ側。一分で着く距離だ。

Kちゃんのアパートを出て、道路を渡る時、振り返ってKちゃんのアパートを見ると、よくKちゃんの部屋の明かりが消える瞬間を見ることがあった。
そうな日は、何かがグサグサと胸の中を突き刺す。いつまでたっても慣れないこの痛。和らげる鎮痛剤は見つからない。


ある日、Kちゃんがオレのアパートに来た。

「彼と別れた」

詳しく話を訊くと、彼に好きな人が出来て、別れを告げられたとのことだった。一週間経っても彼の気持ち変わらなければ、その時は別れよましょってなったらしい。それから一週間経ち、彼の気持ち変わらなかったとのことだった。

チャンス!

ゲスいが、正直これはチャンスとオレは思ったよ。
しかし、そうは問屋が卸さない。
いろいろとKちゃんから話を訊くと、Kちゃんへ近づく男の影が見え隠れしていた。

早く、フラフラしているKちゃん、早く捕まえなければ……。


時間が過ぎて、ある日、Kちゃんに言われた。

「貴方といると彼の事を想い出してしまう。辛い」
「新し彼と、アパート借りて住むことにしたんだ。一緒にアパートも見に行ったよ。」

新しKちゃんの彼は、オレも知っている人だった。Kちゃんの首筋に残る赤い内出血のような跡に、彼女はオレの手の届かない所に行ってしまったことを示していた。

「Kちゃん、あいつ付き合うと苦労するかもしれないけど、頑張ってね」

オレの口から出た、ただの強がりの言葉だった。


一か月後

Kちゃんから連絡があり、昔ドライブの帰りに三人でよく行った喫茶店で会うことになった。

一か月ぶりに見るKちゃんの顔は少し疲れているように見えた。

「貴方が言った通り、ちょっと大変だよ…」

Kちゃんの目からは、オレにそんな事を言う真意を読み取れない。

「だろー! 言ったでしょ、年下の男は大変って! 頑張りー」

とりあえず、当たり障りのない言葉を返した。

昔、よく三人でドライブしていた頃に、彼にはちょっと秘密にしてKちゃんを連れ出し、この喫茶店で時間を忘れておしゃべりをしていた時は、あんなに楽しかったのに……、今日は全然盛り上がらない。

そんな空気をKちゃんも感じているのか言葉少ない。

「じゃ、そろそろ帰ろうかな」

これが、オレが最後に聞いたKちゃんの聲となった。


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