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葬列のお見送り

 白くくもった空は重々しく、底冷えのする今朝、ご近所の方の葬列を見送ってきた。

 葬儀とは地域によっていろんな形があるが、今私が住んでいる地域では、通夜翌日の午前中に火葬、午後に告別式としている(したがって故人の最後のお姿にご挨拶するのは通夜までとなる)。

 今回の訃報は、私が日頃お世話になっているSさんの、94歳になるお母様だった。通夜の翌朝、ご自宅経由で斎場に向かうとの事だったので、その際のお見送りをするために、他のご近所の方々と集まった。今回のようにご遺族が近親者のみの式を望まれている場合、近所の人々は葬祭センターには出向かず、礼服もしくは黒色を中心とした服装でご自宅前に集まり、霊柩車を見送るという形がほとんどである。

 Sさんは喪主をなさっていた。普段から若々しく闊達な方だけど、弔いに集まった沢山の人々を見ると、感極まったのか、第一声は少し震えていた。それでも気丈にご挨拶をなさった。高齢のお母様の病院通いに付き添うから忙しい、と愚痴をこぼされてはいたが、ご家族でお幸せそうな暮らしぶりだった。つい最近ひいた風邪から、容態が急変したとの事だった。新年を迎えた矢先のつらいお別れに、きっとご心痛だろう。

 塵ひとつなく磨かれた黒い霊柩車が、大きなクラクションを長くひとつ鳴らした。手を合わせた人々の思いを帯び、霊柩車は進み出す。
 名残惜しそうに街を行く姿を見送ったのち、互いにかるく会釈を交わした人々は、静かに家に戻っていった。

 くもったままの白い空。お見送りはいつだって、寂しい。

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