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詩|アラーム

きみが言った「一緒に死のう」を信じてしまったあの日から、歩く速度がだんだんと遅くなっている気がする。
最終電車なんていらなかった生活は矯正され、手のひらにあふれた現実は丸めてゴミにした。
鮮明なのは、朝焼けとうるさいアラーム。エレクトロニカ。ひどく濁った音。鈍い音。鳴る。鳴り止まないスヌーズ。鮮明に映し出す死にゆくロックンロールイズノットデッド。
思い出も、過ぎ去れば全部ただのゴミ。

あー何か面白いこと起こらないかなぁ的な日常系もどかしさに伝えたい言葉は大抵決まっていて、いつもより丸まった背を伸ばさなきゃ物語は始まらない。出来損ないの人間にだって世界を変える権利はあるんだけれど、そのほとんどは失敗に終わってしまうから、気付かないだけ。
今、この世界の何処かで誰かが結婚し、今、この世界の何処かで誰かの恋が実り、今、この世界の何処かで誰かが生まれ、今、この世界の何処かで革命が起こっていて、その瞬間、きみはまだ眠っている。
この朝から夜までが、きみが眠っている時と同じように、権利とか倫理とか常識とか何もない真っ暗と幸福を煮詰めた、透き通るほど綺麗なところにあれば言葉なんか少しもいらなかったのにね。

そういえば、今日から戦争が始まって、昨日はちょうど戦争前夜だった。昨今の情勢を鑑みて恋も友情も夢語りもお預けになった人々の暴動が起こり、戦争前夜の昨日のぼくはゴミに塗れた狭い部屋で、醜い詩を書いていた。その詩はこの戦争の最中で、誰かを救うものになるはずだった。

耳鳴りが止まないな。
生活の為には病めないな。
こんな詩ばかりで飽きないな。
ぼくが情けない理由はぼくが探すから。
ぼくが幸せになる未来は無くてもいいから。
ぼくのせいできみが生きたくも死にたくもならなくていい。

たったひとつもコードを押さえられないから、日本語しか知らないから、こんな風にしか言えない。
27で死にたいなんて思ったこと一度も無かった。
27できみが死んだら悲しいと思った。
きみが天才では無くて本当に良かった。
エレクトロニカにこの音をかき消されて本当に良かった。

この思い出もきっといつかゴミになる。素晴らしい生活は続かなければ続かないほど美しいと、ぼくだけが知っていたい。

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