なんにもならない話。 (掌編/短編)


 僕らはいつも背中合わせの関係だった。
 何処かの物語みたいに、背中を預けられるくらいに互いの力を信じていたわけではなく、或いは、背中を預けられるくらいに親密だったわけでもなく。もっと悲観的な理由なのだと、僕らだけが知っている。
 また、それは決して二人だけの秘密のような甘美な響きを持つわけでもなく。ただ、知る者が僕ら二人だけだったと言うだけの、寂しい話だ。夕暮れ、灯り始めた街灯の横で独り躓き歩くような、寂しい話だ。

 一寸の間が空いて、君は僕を呼ぶ。柔らかくて耳に馴染むようなその声が僕の名前を弾くのを、僕は好ましく思う。
 「何かあった?」
 振り向いて、僕は尋ねる。君は瞠目した後、「なんでもない」と口を溢す。なんでもなくないことを、僕は知っている。
 「なんでもなくはないでしょ」笑ってそう言うと、君は微笑む。
 「なんでもないんだよ」
 僕も微笑んで、答える。
 「そっか、なんでもないのか」
 その瞳に馴染む熱に、気付かない振りをするのは容易だった。君のその適当な誤魔化しに、騙されてあげたかった、から。
 君が黙秘を選んだこと、僕が深入りしなかったこと、僕らが茜の下を歩いたこと、本当は全部、なかったことだ。本来の僕らは、背中合わせの関係で、徐々に背後の温もりは離叛し、そのまま振り返ることもなく、引き返すこともなく、僕らは……ああ、やめよう、こんな話は。希望に満ち溢れたこの夢には、相応しくない。
 それは夢の始まりだったから、起こり得たこと。こうして夢は遠くに続いていく。


「僕らはいつも背中合わせの関係だった」で始まり、「騙されてあげたかった」がどこかに入って、「夢は遠くに続いていく」で終わる物語を書いて欲しいです。 #書き出しと終わり

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