春の雨の日
ぐっすり眠れなくなったのは更年期のせいか。
昼間は眠くてたまらない。夜も起きていられないのに、寝るとすぐに目が覚めてしまう。
浅い眠りを繰り返す。
夢を何本も見る。
くたびれる。
このところ断続的に頭痛があるのも更年期のせいなのか。頭痛薬が合わないのか、軽い貧血や胃のムカつきも伴う。
今朝は布団にいながら、めまいを感じていた。母親が重度のメニエールだったから、体質が似てしまったかなあ。。。
そういえばクリニックのドクターが患者さんに言っていた。
【ふだんから自力でめまいを起こして慣れておくことが大事】
つまり三半規管を上下左右にひっくり返して、めまいと同じ状況を作っておけというのだ。
医学的根拠の有無は知りもしないが、なんとなく納得したのを思い出した。
吐くほどのめまいじゃないんだから、寝ていないで動いてみよう。
無理やりラジオ体操してみる。
動けば動ける。
そうだ、毎日ヘビメタを聞きながらヘッドバンキングすりゃいいのでは??
(頸椎を痛めるか…)。
雨が振り出す予報だ。
はやめに買い物に行こうと思い立つ。
ちょっと実家に寄ってやるか。
実家までは車で30分ほど。長居はしない。
とはいえ、決心して行く。
今日はイライラしないぞ。
父は不在だった。
母は暖房の前でテレビを見ていた。
重度のメニエールを患った頃から耳が聞こえにくく、話が通じない。
ゆっくり、ハッキリ伝えるものの、トンチンカンな返事が返ってくる。
面倒だったり気まずかったりして、つい、ぶっきらぼうになる。
あ、いかんいかん。イライラしないんだった。
母の口から出るのは、やはり、父親に対するグチだった。またボケが進んだみたい、と。
今日も皮膚科に行ってるところだけど、先生の話もすぐに忘れてしまうだろう、と。
だからって通院に付き添うでもなく、一日中、父の言動に腹を立てたり途方に暮れたり。
害がないのに【気に入らない】から見逃すことができない。
戸惑う気持ちや、四六時中いっしょにいるストレスが想像できるものの、どうしてもネガティブに傾く母の性格にモヤモヤとしてしまう。
歳を取って表面化する問題は、病気や状況のせいではなく(まして認知症のせいでもなく)、
人間関係の積み重ねの結果なんじゃないか。
自業自得ともいえる。
…娘だから片足は突っ込むしかないけれど。
両親に欠けている【思いやり】を、補うしかないけれど。
頭では分かっているのに、優しい言葉のひとつもかけられないまま、
『また来るね』と実家をあとにする。
雨が振りだしていた。
エンジンをかけて、車をバックさせる。
信号に向かって走らせると、父の姿が見えてきた。折り畳み傘をさしている。
車がちょうど信号にひっかかる。
父が近づいてくる。
窓越しに手を振った。
父は、不思議そうな顔をして、会釈をした。
…おいおいおい、娘だよ。
とっさに、雨も構わず窓を開け、声をかける。
するとしばらく考え、思い出したように
「ああ、、」と…。
信号が青になったので、再度父に手を振って車を走らせた。
のどの奥から、なにかが込み上げてきそうになったけれど、負けじと飲み込む。
いいじゃないか。
いいのだ。
忘れちゃったって、いいじゃないか。
分からなくなったって、いいじゃないか。
父は親の義務を果たした。
その後も長らく親でいてくれた。
孫たちの成長も見届けた。
そのうち、そのすべてを忘れたとしても、
別にいいのだ。こうやって、周りが受けとめればいい。受け入れればいい。
切なくはあるけれど、【なぜ】と悲しむ必要はない。
まだ折り畳み傘の使い方を忘れていない。
誰だか分からない相手に会釈をする常識もある。ひとりで家に帰ってこられる。
十分だ。(まだまだ序の口!)
父が庭で作ったというアスパラガスをもらった。茹でて食べようと思う。
そして次回こそは、母に優しく…
いや、母の好きなパンを買っていこう。
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