娘と英検と父親である自分 with フレンチトースト

「クレイマー、クレイマー」という映画がある。
息子と二人暮らしになった父親が、最初全く料理も出来ず、息子に作ったフレンチトーストも焦がしてしまうが、徐々にフレンチトーストを通して息子との絆が深まり、最後には上手にフレンチトーストが作れるようになる、というようなあらすじ。

僕も朝食でたまにフレンチトーストを作るのだが、あの料理は意外と難しく、牛乳の加減や火加減でべちゃっとなってしまったり、砂糖が足りないと美味しくなかったり、火の通し方も結構じっくりいかないと上手く完成しない。
未だにいつも同じようには出来ないフレンチトーストなのだが、娘が好物なので、朝、フレンチトーストを作ると喜び、もぐもぐ食べる姿を見るたびに、「クレイマー、クレイマー」を思い出す。

そんな娘も中1になり、夏を過ぎたあたりから急に父親である僕を毛嫌いし始めた。会話も減るし、何だかとにかく関わるのが嫌みたい。
女の子は思春期に入ると必ず父親から離れる時期がある、そしてそれは突然やってくるよ、とよく聞いてはいたが、ついに来たか。

まぁ、これも成長過程だから、と考えて、それほど寂しさは感じなかったが、とにかく会話や関りが難しい。どんな言葉をかけても何だか嫌みたいで、あまり執拗に関わらない方がいいとも思ったのだが、娘のことを全部妻に任せるのもどうかと思うし、そうは言ってもどうするのがいいのか…。

さすがにこれはいくらフレンチトーストでも効き目がない。
フレンチトーストにバニラアイスをのっけるスペシャルバージョンでも全く効果なし。

そんなこんなで激減した娘との会話、だったのだが、今は割と元に戻っている。

きっかけは「英検」だった。

今年の7月に3級を合格した娘は、1月に準2級を受けるか迷った挙句、ダメでも一度受けてレベル感を知るという意味で受けておこうということになり受験することになった。もう試験日まで2カ月切っている。
「ダメでも」とは言え、受けるからには受かるにこしたことはない。

妻は理数が得意なのだが英語が苦手なので、娘の英語の勉強を見るのは自然と僕の役割になる。
試験日まで娘と一緒に英検対策が始まった。

短期間で効率よく勉強するにはどうしたらいいか、色々ネットなどの情報も見て、本屋さんで良さそうなテキストも買って、自分なりに試験日までの勉強法を考え娘に伝える。そもそも僕も英語がすごい出来るわけでもなんでもないので、自信もないのだが、僕なりに考えた短期間勉強法だった。

学校、部活、塾で娘も疲れ切っているが毎日少しでも時間を作って娘と英検勉強を続けた。娘は何でだか、僕が考えた勉強法を蹴っ飛ばすこともせず、「今日は熟語やった方がいい?」「熟語の前に英作文をいくつかやってみよ」「これでどうかな?」「あ~、これだとこの部分が減点になるね」とか、英検と通じて娘との会話が頻繁になってきた。
「英検」を経由すれば娘は素直に僕と会話した。それから何となく日頃の会話が戻って、娘はあまり僕を毛嫌いしないようになってきた。

試験まで残り1週間。
何とか5割くらい取れる実力がついてきたような感じ。あとは当日、運を味方に付ければ、もしかしたらアルかも。
試験日が近づくについてナーバスになる娘を励ます。
「じっくりねばって読めば選択肢絞れるからねばって!」
娘は「うん!」と頷く。

そして1月14日、試験当日を迎える。

試験から帰ってきた娘、プレッシャーから解放された笑顔で、「案外分かる問題あったよ~」。

今日まで勉強付き合ってくれてありがとう、とは言わなかったけど、そんな顔をしていた。

結果はどうか分からない。でも何だかじゅわっとした充実感があった。ダスティンホフマンにとってのフレンチトーストは、僕にとっては「英検」なのか。僕はそんなこと思って笑った。

そのうちまた僕から離れることもあるだろう。
それでいいし、今は今でいいし。

まぁ、娘がもっと大人になる日まで、もうちょっとフレンチトーストの腕も磨いておくか。