研究書評【日本における女性のキャリア形成の難しさ】


2024年春学期

2024年4月11日:研究進捗

社会的意義・目的・仮説
          「女性版骨太の方針」
2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指す。     2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促す。
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   女性は望んでいるのか?(ロールモデルとしては適切だが)
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社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?

仮説の深堀(フロー)
女性が長くキャリア形成をするためには、周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
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 周辺環境の整備→待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法
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      女性も男性と同じ環境で働くことができる社会
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       自然と女性は会社に長く在籍しやすくなる
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       責任ある仕事(管理職)の数値面でも上がる

現状分析
ミドル管理職が存在する。→部課長クラスor課長以上級(坂爪)
2015年の全産業での管理職に占める女性比率は部長6.2%,課長9.8%
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第二次男女共同参画計画(2005)で,社会のあらゆる分野において2020(令和 2)年までに女性管理職の割合を30%に増加させることを目標
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       14.8%(内閣府2020年) 12.7%(厚労省2023年)

政策は作用しているのか?
           女性が昇進できない要因
 日本特有の雇用制度(転勤・長時間労働が前提となる終身雇用制度)
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           働き方改革関連法(2019)
         時間外労働上限規制を罰則付の強化
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  範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組み
    時期や業種などでのさまざまな例外規定・上限の水準の甘さ
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単なる長時間労働の是正だけでなく,働き方そのものを改革することが重要(山本)

ダイバーシティーマネジメント
欧米諸国:日本より先に経済が成熟。標準化と価格競争だけを追求する経営からの脱却(山極)経営構造に多様性を導入
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      これまで活かされてこなかった女性人材を登用
      組織のパワーバランスを変える経営手法の確立
                ⇓
   女性管理職を登用し、経営パフォーマンスを向上させる効果的施策
                ⇓
           ドイツの上場企業 160 社
ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を統合・推進
女性管理職・役員への登用を実現し、経営パフォーマンス向上が判明

まとめ
女性がキャリアを形成しやすい世の中を作るために、
1.ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策の導入を行う
2.女性管理職の数値目標の設定は,女性活躍を進める必要性を明確にし、なぜ女性が活躍できていないのか要因を分析し、その克服に向けた取り組みを進めることで、効果的なものにしていく必要がある
3.管理職の在り方も今と昔では異なっている(命令・統制→対話志向)
4.女性活躍が投資家にとって企業への1つの指標になっている。(ESG投資)
5.男性にとって、洗濯物の畳み方など些細ないざこざによって、仕事場だけでなく家でもプレッシャーになっている
6.アメリカでは、履歴書に性別・年齢・配偶者の有無・顔写真も求めてはならない仕組みとなっている。→スキル重視型(雇用差別をしないための法律)→差別が多いアメリカだからこそ、日本でも差別に関する認識は深めなければならない

今後の課題
1.メーカーなどの業種や職種によってはどうしても女性がいない部署がいる。そこでも同様に形態でクオータ制や女性管理職制度を用いるのか?
男性から見たアパレル業界も同様なのではないか?
2.今、管理職のポジションについている人の処遇はどうするのか?
3.女性社員全員が管理職というポジションを求めているわけではない。
 →管理職の労働環境(残業代がつかないからこそ、進んで残業する等)
4.かえって社内で無駄な対立を生んでしまうのではないか?
5.数値目標とは正しいのか?

これらの問題に対して行うべき研究方針
1.女性だけでなく、男性にとっても納得感のある政策も検討する必要がある。
2.この政策を導入すると、反対に男性が生きづらい社会になるのでは?との意見が予想される。だからこそ、仮説に着目し、働き方に焦点を当てた研究を行っていく。(誰もが働きやすい社会の再定義など)
3.今までは女性にとってのメリット(フェミニスト寄りの論文)ばかりに注目していたため、デメリットにも今後着目していく。


研究発表:フィードバック
・課題の深堀だけでなくどのような手法でどんな結論を出していくのか気になりました。
・ 読んでいる文献のバイアスに気づき、批判的な視点での文献を引用しようとしている点は非常に良いと思った。実例の積み上げ(政策評価のような資料)をするとより解像度が上がると思う。

2024年4月18日

鶴光太郎「働き方改革と生産性向上の両立を目指して」『経済研究所年報』第33号 p31-53
<内容総括・選択理由>
女性が長く働く社会を実現していくうえで、必要となるのは長時間労働の是正・転勤だとこれまでの研究から重要要素になると考えられる。その上で働き方改革を行っていくうえで大きな課題となるのは生産性である。例えば、現在残業2時間、計1日10時間かけて行った仕事を1日8時間で行う必要が出てくる。この2時間分の仕事量を削減もしくは代替していくためにはどのような形で改革を行っていくのか、今回の文献はそのことに着目した。

<内容>
 企業グループウエアで知られるサイボウズが広告で「いまの働き方改革はこんなのでいいのでしょうか」いまの働き方改革はすごく画一的になっているのではないのか。例えばプレミアムフライデー、みんな金曜日は早く帰ってくださいとか,8 時になれば消灯します,オフィスも鍵を閉めます,帰ってくださいと。働き方改革は、画一的にただやればいい、残業時間を減らせばいい, そういう話ではない。いろいろな人が多様な働き方をできるというところが、いちばんの根幹である。
 今回の働き方改革の成果は罰則付き時間外労働時間の上限規制の導入である。ただ上場企業においては、3〜4 年くらい前か らこういう働き方改革、利用に熱心に取り組むときはすでに進行して,先手を打っている。今(2019年)、政府がこういう法案を出して,企業はこのようにやってくださいと,政府から押し付けるということではなくて,それぞれの民間企業が自分の企業に合った働き方改革というのを,どんどん推し進めて,まさに企業と企業が競争している,というような状況がいま盛んに出てきている。
 企業の中には残業を減らせばいいというところに留まっている企業など意識的にかなり差がついている。まさにこの働き方改革をきっかけに,企業の従業員の満足度とか,企業全体のパフォーマンスをどう上げていくかという事は,それぞれの企業,特に大企業にとってものすごく大きな課題である。単に労働時間だけ減らして,あとの条件が変わらなければ,企業にとっても従業員にとっても,それは損失だと。そうすると労働時間を減少させるなかで,時間当たりの生産性をどのように向上させていくのか,という事を考えていかないと,従業員も企業にとっても「ウィン・ ウィン」の関係になる,働き方改革というのは難しい。そうなると働き方改革と生産性向上をいかに両立するのか,という事が大きなポイントになる。
 働き方改革と生産性向上を両立させるというのは,この2つの視点でより重要である。1つは,いかに時間当たりの生産性を高めていくのか。効率性を高めることである。筆者はそのなかでICTの活用というのが,非常に重要だ と考える。業務・仕事の内容とプロセスを見直していくうえでも,これが重要。
 2点目は創造性を高めるということで,生産性,まさにイノベーションを起こす,新たなアイデアを発現させる,こういった視点が重要。その1つとして,私は時間とか場所にとらわれない働き方で集中力を高めるという事が大事で,テレワークということもそのような視点からやるべき。それからき高プロと言われている,ある特定の専門的な年収1千万 よりも超える方々,労働時間規制の適用除外,例えば残業をしても残業代が出ないとか,こういう制度も運用されていく。 これも1つ同じ時間・場所にとらわれない働き方の1つとして,より創造性の高い仕事をするというように位置づけるべきだ。 

生産性を向上させるために文献内で導入すべき案
勤務間インターバル制度,就業から次の始業まである一定時間,EU では11時間取るという事が定められている。(情報労連:KDDIなど)労働時間貯蓄制度、ICT活用によるインプット可視化、アウトプットは紙文化をなくすこと(デジタル化で誰が何をやっているのか、プロセスを可視化し、アクセスしやすくする)仕事の標準化、業務の棚卸し・見直し、テレワーク→創造性を要する仕事にはなお有効。健康経営、正社員の多様な勤務体系に関する部分で,短時間勤務正社員,労働時間限定正社員,職務限定正社員。RPA、社外取締役、女性社外取締役の比率が高い,社会貢献活動、健康ケア、LGBT への対応など

高生産性企業の特徴

<総評>
働きやすい職場と、女性や性的マイノリティの問題は切り離すことができない問題となっている。今回は対象が大企業中心となっており、全ての企業に通じるわけではないが、一モデルとしてやはりICTの導入は必要不可欠である。

2024年4月25日

安田宏樹(2012)「管理職への昇進希望に関する男女間差異」 64巻1号 p 134-154

<内容総括・選択理由>
今回は、非常に古い論文にはなるが、実際のところ女性管理職を増やす道筋は1年の研究を通して、大枠にはなるが以下の通りと考えた。
現状:女性管理職が少ない→課題(GAP):周辺環境の整備:結婚・妊娠・出産などライフステージに合わせた対応ができる企業を1つでも多く増やし、長期的に同じ企業にいることができる仕組み→女性も男性同様に信頼を得ることができる→女性管理職の増加→理想:女性管理職割合を気にすることなく、男女が勤続年数関係なく、実力で経営層になることができる社会
今回は、反対に、実際に女性管理職になりたくない人もいる背景を掴む文献を選択した。どのような特徴を持つ正社員の昇進希望が強いのか、どのような特徴を持つ正社員の昇進希望が弱いのか(20代が研究対象)をデータから導く文献となる。

<内容>
 内閣府の『平成24年版男女共同参画白書』から我が国の役職別管理職に占める女性割合(2011年)をみると、 民間企業の係長相当職で15.3%、課長相当職で8.1%、部長相当職で5. 1%と年々増加傾向にあるものの、管理職の大多数は男性が占めていることが分かる。
 筆者の文献やその他調査によると、女性は男性よりも昇進希望や昇進意欲が低いことや、我が国の均等法以後に入社した総合職女性においても管理職になりたいと考える女性よりも管理職になりたくないと考える女性の方が多いことが明らかになっており、 将来の管理職候補である総合職女性においても昇進意欲は低いことが見出されている。
 日本の労働市場では雇用主の嗜好に基づく女性差別による女性の過少雇用が存在することを見出している。また、別の文献では日本の製造業において、 女性役員が増えること、女性役員がいること、女性課長がいることが企業の収益性を高めており、嗜好による差別理論と整合的な結果を得ている。 さらに、女性正社員の管理職昇進機会が大きい企業ほど、 従業者の週労働時間1時間当たりの売上総利益(粗利)が増加する傾向が見られることを指摘している。 一方、「再雇用制度の存在」や「男女の勤続年数格差が小さいこと」などの企業固有の要因が女性比率と利益率をともに引き上げることを見出している。
 女性のライフコースは仕事中心型、家庭中心型、適応型の3タイプに大別される。そして、およそ10~ 30%が仕事中心型、10~30%が家庭中心型、40~80%が適応型であると指摘している。 実際に、我が国においても女性の理想のライフコース(18~34 歳の未婚女性が対象)を見ると、仕事中心型(DINKS コース+非婚就業継続コース)が 8.2%、家庭中心型(専業主婦コース)が19.7%、適応型(再就職コース+両立コース)が65.8%となっている。このように女性は多様なライフコースを選好しており、仕事中心型の女性が多くないことが労働市場における女性の管理職比率を反映している可能性がある。
 女性よりも男性の方が競争的報酬体系(トーナメント制報酬体系)を選択する確率が高いことや男性の方が女性よりも自信過剰であることなどが明らかにされている。 これらの研究から示唆されることは、労働市場において女性の管理職比率が低い背景には、女性が管理職に昇進すること(≒競争すること)を望まないという, 女性の選好や志向が影響している可能性がある。
 均等法以後に入社した総合職女性においても、その多くは管理職に就くことを希望していないことを確認している。筆者の別文献からは、管理職に「なりたい」とする総合職女性(21.89%)よりも管理職に「なりたくない」とする総合職女性(32.70%)の方が10ポイント以上多い(「わからない」が 45.14%, 無回答が 0.27%となっている。
 企業が合理的に行動すると仮定すれば、企業に利益をもたらす能力の高い 人材が昇進すると考えられ、競争に対する嗜好や自信過剰度だけで男女の管理職比率の違いを説明できるわけではない。特に日本では2011年においても大学・大学院卒の割合 は女性(22.0%)よりも男性(37.1%)の方が高いため、現在の課長相当職, 部長相当職における男女間格差は教育年数などを反映した結果であると考えられる. しかしながら、女性の4年制大学への進学者は増加の一途をたどっており, 今後の女性管理職の増加の素地はできつつあるといえる。そのような人的資本の蓄積に対する男女差が縮小している現在においては、女性が管理職への昇進を望むか否かが将来の管理職数を占う重要な要素になる。
 結果、男性よりも女性の昇進希望はかなり弱い。課長クラス以上への昇進希望」は個人属性や企業属性などさまざまな要因をコントロールしてもなお女性よりも男性の方が約 34 ポイント強い。 また、昇進希望を規定する要因は男女で大きく異なる。女性正社員の場合、自身がスペシャリストタイプの社員であると認識している女性は管理職希望が弱く、面倒見の良い上司の下で働く女性は管理職希望が強い。一方、男性正社員 の場合、チーム作業である仕事や職場で働く男性の管理職希望が弱く、反対に裁量性の高い仕事や職場で働く男性の管理職希望が強い傾向がある。
 そして、男女ともに観察された結果として、仕事と生活の調和が取れていないために昇進希望が弱くなるという関係は見られなかった。 仕事と生活の調和を図る施策も重要な施策であると考えられるが、本文献の分析からは、 管理職希望との明確な関係は得られなかった.
 女性管理職を増やすための施策は、自分自身を「特定の分野で特に活かせる能力を持ったスペシャリストのタイプ」だと考える女性は、「多様な分野で活かせる能力を持ったジェネラリストのタイプ」だと考える女性よりも昇進希望が弱いことから、専門職志向の強いスペシャリストタイプの社員も管理職に就けるような人事制度の見直しが女性管理職の増加に寄与する。 日本企業の多くでは、ジョブローテーションや配置転換を通じて幅広い仕事経験を積むジェネラリストタイプの社員が昇進し管理職に就くことが一般的であるが、女性管理職の増加策を考えるためには昇進構造を見直し、スペシャリスト志向が強い社員も専門部署などにおけるプレーイングマネージャーなどの管理職に就くことが可能となるような職場環境の見直しが必要である。
 また、女性の場合、上司の役割が昇進希望に影響している可能性があるため、面倒見の良い上司を管理職候補の女性の上司に就けることや研修や教育によって女性部下の面倒を良く見るように働きかけることも管理職候補の女性の管理職希望を強める効果が期待できる。

<総評>
この間の書評の時間に指摘された教育上の問題もあると見受けられた。女性はこうあるべき、男性はこうあるべきと知らないうちに固定観念化されている可能性が高い。教育までは幅が広すぎるため、今回は即効性のある仕事をしていくうえで、管理職になりたいと思うことができる環境構築について考えたい。

2023年秋学期

2023年9月28日

清山玲(2020)「コース別雇用管理の限界とダイバーシティ・マネジメントの可能性」『日本経営学会誌』44号 p.32-40

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、機会の平等から結果の平等を重視するそういった傾向を捉えた論文である。春学期は主に「保守思想と同性婚」→「クオータ制による男女共同参画社会の実現(政策の多角化)」と内容が固定化されていなかった。そして研究発表を通じて今回から、女性のキャリア形成の難しさということで、管理職や政治面での不足面を中心に見る。もちろんこれまでの研究も無下にはせずクオータ制は解決策の一つのプランであることを示したい。

<内容>
コース別雇用管理制度(職務内容、責任の範囲、転勤の有無等によって、総合職や一般職等のコースを設け、コース別に雇用管理をする制度)は転勤や長時間労働に象徴される拘束性の強い日本の男性の働き方を前提としたコース区分が当然視され,採用時には,本人同意を前提としない「転勤」と「長時間残業」といった家族的責任を果たすことが困難な働き方が,コース決定の際の踏み絵とされた。
①結婚や出産というライフイベントが働き方に及ぼす影響をほとんど縮小できなかったこと,②女性の就業者数は増えたがその多くは経済的自立が困難な処遇水準にとどまる非規雇用であったこと③男性並みの処遇の総合職コースの女性の多くが離職を余儀なくされ,④職場で決定権を有する管理職女性はほとんど増えな かったことなどからも明らかである。コース別は大学卒業時に機会の平等はあるものの女性の就業継続や昇格昇進を阻むことになった。
そこでダイバーシティ・マネジメント(さまざまな職場において多様な属性を持つ人々を受け入れ,その能力を発揮できるように職場環境を整備することで,組織としての力や業績の向上を図ること)が競争力の保持・業績向上のために,実質的な意味での女性の能力活用・活躍(結果の平等)が起こった。日本の背景は、非労働力化している多くの女性たち,出産子育て介護等によるキャリアの中断により保持する能力を過少にしか発揮できない人々の能力を活かすことが企業や社会にとっても大きなプラスの効果をもつという思考の広がりが挙げられる。
例として、就業継続率が高い職場,産休・育休取得や育児短時間勤務制度の活用が不利にならない人事評価,個人の生活に配慮した転勤・異動免除の制度,転勤しなくても昇進できる人事管理,転勤の有無や移動の範囲等による雇用形態間の処遇格差の縮小を挙げる。
また、総合職・一般職という正規雇用 におけるコース制を廃止し 1 本にまとめる職場もでてきているが,従来のコース別雇用管理を採用する多くの職場でも,ダイバーシティ・マネジメントの普及により,転勤前提のコースであっても事前同意制の導入や,家族的責任に配慮して希望により一定期間の転勤免除を制度化する,総合職,エリア総合職,一般職といったコース間の双方向転換制度が導入・活用が促進されている。また,育児休業制度や短時間勤務制度の利用中に昇格昇進をさせるなど,家族的責任による働き方のセーブが昇格・昇進にあたって不利にならないような人事評価制度の導入も進んできている。

<総評>
少子高齢化社会になりさらなる生産性の向上が求められている日本において、誰もが働きやすい環境を作っていくことは不可欠であり、転勤・長時間労働といった壁となるものの撤廃は勧めなければならない。

2023年10月5日:研究進捗

日本における女性のキャリア形成の難しさ
社会的意義・目的・仮説
男女平等を目指し、2023年6月13日政府は「女性版骨太の方針」を決定し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指し、2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促すことを決めた。                                             
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            女性は望んでいるのか?
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社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?

現在の状況・背景
政治面:保守である安倍政権は意外にもリベラルの政策が多い。
→女性が潜在的労働力:成長戦略・経済政策であると価値を見出していたから。
収入増からの消費拡大、新しい価値観の創出等成長戦略としてこの上ない。また同時に規制緩和(企業主導型保育事業)、雇用流動化策(女性が再就職しやすくする)

生活面:平成 28 年における 6歳未満の子どもがいる共働き家庭の妻の1日の家事時間160分、育児時間 167分であるのに対し、夫の家事時間20分、育児時間47分(総務省社会生活基本調査)
理由:男性の育児休業取得率は変わっていない。これは男性が育児休暇を取る際の職場体制(上司の考え方も含めて)が整っていないからである。

仕事と家庭の両立が困難なため女性は管理職になりたがらない。

解決ツール
第一フェーズ
企業は、従業員の単一性を求めるのではなく個々人のダイバ―シティを認め、育成をはじめとする人材活用のためのコストをかける→職場のメンバーの超過勤務を皆で協力して行うのではなく、超過勤務自体をなくす方法を協力して考え実行したほうが、ワークライフバランスのためには効果的。女性は早く辞めるから育成に手をかけず、重要な役割体験をさせないのではなく、辞めずに働き続けたいと思える能力開発や役割体験をさせ、自己効力感を育てることが必要。

第2フェーズ
クオータ制導入
女性が議員・管理職になるためには様々な障壁(性別役割分業・政党 企業風土(政治家の場合)、女性のなり手の少なさ)が存在し,それを一つひとつ取り除くのにはあまりに時間がかかる。そのために即効性の高いクオータ制を推奨する。→韓国・ルワンダの政治面での事例がある。

参考文献(年代順)
田中聖華(2020)「日本企業における女性活躍推進の課題~日本社会における性別役割分業観の歴史的視点から~」『横浜商大論集』53巻2号p51-67
堀江孝司(2017)「安倍政権の女性政策」『大原社会問題研究所雑誌』700巻p38-44
三浦まり(2017)「1.政治分野におけるクオータ制導入の意義」『国際女性』31巻1号p111-115
大澤貴美子(2016)「韓国:政治代表の男女不平等を是正するためのクォータ制度」『法政論叢』52巻2号p203-215
戸田真紀子 フォーチュネ・バイセンゲ(2020)「女性の政治参加と家父長制社会の変容 ルワンダと日本との比較」『現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科紀要』14号p29-43

2023年10月12日

村尾祐美子(2018)「「働き方改革」による時間外労働規制は女性管理職を増やせるか」『東洋大学社会学部紀要』58巻2号p65-78


<内容総括・選択理由>
前回取り上げた論文では長時間労働・転勤が女性のキャリア形成に大きな影響を与えることを示した。今回の論文ではこれを受けて働き方改革は女性のキャリア形成を優位なものとするか実際に検討を行た論文である。

<内容>
1984年から2017年の女性の労働市場への参加状況をみてみると、役員を除く雇用者の女性比率はこの間ゆるやかに上昇しているが、それは非正規の職員・従業員として就業する女性の数が増えたからであって、正規の職員・従業員に女性が占める割合は、この間、ほぼ横ばいである。管理職に占める女性比率は、非常にゆるやかな上昇傾向を示してはいるが、正規の職員・従業員の女性比率に比べて著しく低い。夫の長時間労働に伴う無償労働の重い負担が、妻の職業的キャリア展開の妨げになっていることが示唆される。この論文では過去における労働市場における昇進確率と時間外労働との関係について実証的に明らかにすることで、新たに導入された時間外労働規制が、共働きカップルの有償/無償労働時間配分を変更するようなインセンティブを持ちうるかを検討する。
まず月45時間以内という時間外労働の上限に注目する。この上限の導入により、夫と妻の双方が時間外労働を45時間以内に収めるという新たな有償/無償時間労働配分戦略が、共働きカップルにとって検討に値するオプションとなるだろうか?その前提として現実の係長昇進において、月45時間以内の時間外労働は全く時間外労働をしない場合に比べて女性の昇進確率を高めるのか、月45時間を超えて時間外労働をする場合に比べてどうか、ということを検討する必要がある。
*ここで用いられるデータは東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトによる「東大社研・若年パネル調査(JLPS-Y)wave1-7,2007-2013」である。
結果、女性割合の高い職場にいる最終学校が大学・大学院の人は、そうでない人に比べて昇進確率が約15倍になることが明らかになった。また、初職入職後の年数(リスク期間)が長くなることは長期的にみるとさらに係長への昇進確率を下げることが示された。月45時間を超えて時間外労働する人は、月45時間以内で時間外労働する人よりも昇進確率が約3分の1と低いという少し意外な結果となった。
私たちは労働時間が長いほど係長昇進によい影響を与えると考えがちだが、示された結果はこの予想に反する。長時間の時間外労働を求められるような労働条件の悪い仕事は、正社員全体としてみた場合には、係長への昇進可能性が高いようなめぐまれた仕事ではないことが多いことが分かった。(ここまでは雇用者全体を見た。)
最終学校が大学・大学院である人たちについては月45時間超えの時間外労働をした場合、月45時間以内の時間外労働をする場合に比べ、係長に昇進する確率が5.347倍高かった。しかも、月45時間以内の時間外労働と時間外労働なしの場合の違いは有意ではなかった。月45時間以内の時間外労働をしても、時間外労働をしない人と係長昇進に有意な差がつかなかったのである。 また、時間外労働と性別との有意な交互作用はみられなかった。最終学校が大学・大学院の女性においても、時間外労働の量は有意な効果を持たなかった。
時間外労働規制は、共働きカップルにおけるジェンダー化された有償/無償労働時間配分にインパクトを与え、女性の管理職を増やすことに向けたポジティブな効果をもたらすかは、分析を通じ明らかになったのは、そのようなインパクトもポジティブな効果もおそらく生じないであろう、という悲観的な見通しである。彼ら/彼女らの管理職昇進にポジティブな影響を与えるのは月45時間超の長時間の時間外労働であって、共稼ぎカップルの一方がそのような働き方をするなら、共稼ぎカップルのもう一方の多くは、自らの時間外労働を抑える選択をするしかない。
もちろん、月45時間を超える時間外労働を完全に禁止するような、より厳しい規制が導入されれば、話は別である。これまでの昇進システムの変革を迫るそのような規制のもとでは、共働きカップルはジェンダー化された有償/無償労働時間配分を見直すかもしれない。しかし、「臨時的な特別の事情」によって一年のうち6カ月を超えない範囲で月80時間、月100時間といった時間外労働が許容されている限り、そうした長時間労働を前提とした現行の昇進システムの多くの部分は生き延びることができてしまうと筆者は指摘している。

<総評>
この論文は働き方改革が行われた時期のものである。現在分かる通り、完全な労働時間規制をしない限り、やはり多くの場合長時間労働したものが評価されやすい傾向がある。クオータ制を含め、今回は労働規制の必要性が改めて日本の少子高齢化・キャリア形成など多岐にわたる問題に大きな影響を与えるだろうと考える。


2023年10月26日

中西哲(2021)「女性活躍推進に向けた我が国の課題」『跡見学園女子大学マネジメント学部紀要』31号p57-67

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、日本におけるここ10年ほどの間に行われた女性政策である。当文献では改善策は示されていないが、政策の目的・省庁の狙いを理解する上で大切だと考えた。

<内容>
各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を発表した。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示している。2020 年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位となっており国際的に見ても男女格差が大きい傾向にある。この原因を分野別の格差に求めると、教育、健康の2分野については完全平等に近い一方で、政治、経済分野での値が低く、全体の指数を押し下げている。特に、政治分野での指数は0.1に満たず多き足を引っ張っている。
政府は戦後無策だったわけではない。日本はまもなく平等主義を標榜してきたことから、日本国憲法や労働基準法に代表されるようにあらゆる差別を禁ずる法律を制定してきた。このため法的な制度設計は相応に整っており、女性の人権が守られる建て付けになっていた。しかし、性差に基づく職種の区別、男女別の採用人数の決定、男女別の配置や昇進、賃金などの処遇の違い、女性の寿退社に対する暗黙の認識、男女で異なる定年などが厳然と存在しており、法律と実態が必ずしもマッチしていなかった。にもかかわらず、長らくその問題が顕在化しなかったのは、人種が圧倒的に同質であったこと、労使関係が良好なこと、さらには「男は外、女は内」という男女の役割分担に対する社会的規範が根強く残っていたことなどに起因する。近年では単に女性が働くだけでなく活躍することを念頭にした取り組みも行われている。
女性活躍推進に係る政府の取り組みとして、2005 年施行の「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」と言う)にもとづく「くるみん認定」制度、2016 年施行の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下「女性活躍推進法」と言う)にもとづく「えるぼし認定制度」と、2012 年より経済産業省が旗振り役となって推進している「新・ダイバーシティ経営企業 100 選」、「なでしこ銘柄」の認定制度を採り上げ、それぞれの位置づけを示す。
厚生労働省の取り組みとして、女性のキャリア形成に大きな影響を及ぼすライフイベント、すなわち、出産・育児をサポートする取り組みとして次世代育成支援対策推進法が挙げられる。環境を整えるために、国、地方公共団体、企業、国民が担う責務を明らかにする目的で 2005年から施行されている法律である。(2025年までの時限立法)従業員101名以上の企業に労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定することを義務付ける(従業員 100 名以下の企業は努力義務)こととなっており、企業の自発的な次世代育成支援を促すため、行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の基準を満たした企業は「くるみん認定」と言う厚生労働大臣の認定を受けることができる。
2016年の女性活躍推進法では国・地方公共団体、301人以上の企業(300名以下の企業は努力義務)は、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行い、その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表を実施し、自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務付けるものである。女性活躍推進法に基づく行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の基準を満たした企業は厚生労働大臣により「えるぼし認定」が与えられる。くるみん認定が主に子育て支援が充実している企業に付与されるのに対し、えるぼし認定は採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多彩なキャリアコースの 5つの評価項目に基づき女性が活躍できる環境を整えている企業に付与される制度である。(女性の働く環境整備、女性の活躍そのものを目的とした取り組みを志向 法令に基づく取り組み)
経済産業省ではダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業の先進的な取組を 広く紹介し、取り組む企業のすそ野拡大を目指している。その具体策として、2012年より「新・ ダイバーシティ経営企業100選」として経済産業大臣表彰を実施している。東京証券 取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定している。なでしこ銘柄は、女性活躍推進に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介し、株式市場における当該企業への投資を促進し、各社の取組を加速化していくことを狙いとしている。(所与のものとして、経営成果に結びつけることを目的 企業の自発的行動を後押し)
中西は以上のような取り組みがなされているものの、依然として我が国における男女格差は縮まっていない。これは、これまでの取り組みが十分に浸透していないことに加え、女性活躍推進にかかるアプローチが企業側のみに偏っていることにも起因するのではなかろうか。これらの取り組みを浸透させることで相応の効果が期待できることは明らかであると思われるが今後は女性自身の意識改革、ステレオタイプからの脱却を意図した取り組みも必要なのではなかろうか。依然として根強く残る性別役割意識、稼ぎ手としての夫への期待などからの意識改革が進めば、女性活躍推進は加速度的に進むのではなかろうか。

<総評>
根本的に経産省と厚労省の目的が異なるからこそ、政策にずれが出てくると感じた。その一方で、企業は積極的に表彰を受けており、改善していることも分かった。

2023年11月2日

山本勲(2019)「働き方改革関連法による長時間労働是正の効果」『 日本労働研究雑誌 特集働き方改革シリーズ(2)労働時間』61巻1号p29-39

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、働き方改革による長時間労働是正の効果はあったのかそこに焦点を当てた論文である。現状、働き方改革には残業をさせない取り組みは出来た一方で、タイムカードを切って労働をするサービス残業や、残業代が減ったことで生活に困窮するため副業に手を付けなくてはならないケースがあまた存在する。これらに注視し、メリットを見ていきたい。

<内容>
 まず長時間労働をもたらす要因として、労働の固定費の大きさと人的資源管理の非効率性が挙げられる。企業が生産活動を行う際,労働の固定費(採用費用,解雇費用,人的投資(教育訓練)費用)が大きいと,企業は雇用よりも労働時間をより多く需要するようになることと指摘されている。欧州の日系グローバル企業で働く管理職へのアンケート調査データを解析し,欧州赴任後と比べて日本で労働時間が過剰に長かったことの要因として,①残業や休日出勤が評価されていたこと,②仕事内容が明確化されていなかったこと,③企業内での調整コスト(根回しの人数)が大きかったことなどがあることを明らかにしている。成果よりも長時間労働が仕事へのコミットメントとして評価される傾向にある。(労働需要側)
 さらに労働供給側の要因は、長時間労働への選好(仕事を後回しにする)や自らの長時間労働が生じるだけでなく,長時間労働をすることが周囲にも影響を与え,結果的に組織的な長時間労働が醸成されてしまう可能性もある。
 続いて働き方改革関連法は時間外労働の上限規制を罰則付で強化するなど,長時間労働を是正する目的で,労働時間の決定に対して法的な介入の度合いを従来よりも高めている。しかし,その一方で,時間外労働の上限には時期や業種などでのさまざまな例外規定を設けているほか,上限の水準自体も決して厳しすぎるものではないため,その範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組みになっている。
 直接的な介入効果として割増賃金率引き上げ(月60時間を超える時間外労働に対する法定割増賃金率が大企業について25 %から50%に引き上げられ,今回の働き方改革関連法において中小企業にも適用される)がある。しかし、減らすことには繋がらないと理論的実証的にも示されている。賞与や所定内給与の引き下げや他の生産要素への需要シフトなどが生じれば,労働時間への需要が減少するとは限らないからである。
 その他にも法定労働時間の引き下げ(48→40時間 日本では土曜日の労働時間は減少したものの,平日の残業時間が増加したため,トータルの実労働時間はほとんど変化しなかった)・時間外労働の上限規制・労働時間規制の適用除外がこれまでの改革で行われてきた。
 これら改革の効果として労働者のウェルビーイングの改善が指摘されている。身体的な健康については,長時間労働が脳・心臓疾患などの発症リスクを高める。また,精神的な健康については,産業保健の分野において,「仕事の要求度」が高まると労働者のストレスが 増加することが明らかにされている。
 しかし、職場・企業での働き方改革が単なる長時間労働の是正に終始し,業務プロセスや必要な仕事の取捨選択などの改革が行われないと,これまでと同じ仕事量を短い労働時間でこなさなければならなくなり,労働強度(負荷)の増加という意味で仕事の要求度が高まってしまうことには注意が必要である。つまり,表面的な長時間労働の是正は,労働時間以外の形で仕事の要求度を高め,むしろ労働者の健康状態を悪化させる危険性をはらんでいる。単なる長時間労働の是正だけでなく,働き方そのものを改革することが重要である。

<総評>
働き方改革を考えていくにあたって法律の抜け穴が大きく存在すると感じた。そのためにこれからの企業は業務効率化に焦点をより充てる必要があると考える。一方で長年続いてきた長時間労働が是正されていることは本論文からも読み取ることができた。

2023年11月9日

駒川智子(2017)「女性管理職の数値目標の達成に向けた取り組みと組織変化」『大原社会問題研究所雑誌』703巻p17-31

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、いよいよ管理職を増加させるための具体的な企業別取り組みに焦点を当てる。実際成功したケースではどのような形で導入を行い、どのような組織変化をもたらしたのかごくわずかな事例であるが掴んでいきたい。

<内容>
 数値目標が数合わせに陥り,組織に混乱が生じるなどの「失敗」事例も報告されるが,女性の管理職候補者の育成に力を入れることで女性管理職増加の効果をあげる企業も現れている。そのため管理職に占める女性比率は,女性の活躍を測る重要な指標である。2015年の全産業での管理職に占める女性比率は部長6.2%,課長9.8%である。
 女性管理職比率が低い要因を組織内に見るならば,第 1 に採用時の男女差がある。すなわちコース別雇用管理制度の導入企業で,基幹的業務を担い昇進に制限のない総合職の採用者に占める女性比率は 22.2%であり(一般職82.1%が女性),将来の役員・管理職候補の女性は男性と比べてかなり少ない。第2に育成にも男女で違いがある。日本の企業の人材育成は,OJT(On-the-Job Training)と配置転換を通じて知識と経験を高める方法が主流である。すなわちどんな職務を担い,いかなる経験を蓄積するかが重要である。その職務配置において,男性は企業の基幹的業務に配置されやすいのに対し,女性は周辺的業務に配置される傾向にあり,同一部署間でも男女で割り当てられる仕事に違いがみられる。加えて配置 転換も,男女で経験の幅が異なる。初期キャリアにおいて男性は「転居を伴う転勤」「国内関連会社への出向」「海外転勤」などを幅広く経験しているのに対し,女性は「同じ事業所内での配置転換」が多い。第3に評価における女性差別がある。人事考課の評価結果は企業の内部情報のため,資料はきわめて限られる。しかし女性の賃金差別等に関する裁判資料ではあるものの,上司の評価基準に業務と直接関係ない「女性らしさ」が含まれることや,男女別評価・処遇を行う運用規定の存在が示されており,当該企業以外でも評価に女性差別が潜在しうると推測される。これら女性の管理職昇進の阻害要因には,採用,育成,評価における男女格差に加え,男性中心に築かれたマネジメントや組織文化が指摘される。
 女性の活躍には,女性の能力発揮を促す「男女平等施策」と,女性の就労継続を支える「仕事と家庭の両立支援策」の両方が必要とされる。ここでは「採用から昇進までのプロセス」での課題克服を目指す企業に,TOTO株式会社・「組織の慣習・文化」における課題克服を目指す企業には、イオン九州株式会社を選定した。
 TOTOは課長以上の女性管理職比率は 6.9%(2006年3.9%)であった。過去、TOTOでは男性が製造と営業の主力で、女性は一般職として間接部門でのサポート業務を担うという男女の明確な分業が見られ、それが男女別の扱いを生み出す意識を醸成させていた。そこで営業部門で新入社員の採用を男女同率にする方針をたてるとともに,ショールームアドバイザー等を対象に正社員登用制度を導入し,女性の営業職拡大を目指している。加えて2006年に採用を総合職のみとするのに際し,ジョブ・ローテーションを12年で4つの職場を体験すると定め,配置転換に男女差が生じないようにしている。さらに「ステップアップ研修」「マネジメント研修」「女性管理職候補者研修」の3つの研修を整備し,管理職登用を見据えた女性人材の育成を手掛けている。
 イオン九州は課長以上の女性管理職比率は11.1%である。イオン九州では男女が同じ業務を担うが,「花形」とされる2つの仕事に女性は少ない。1つ目は、商品の仕入れを担うバイヤーである。取引先は業務経験豊富な男性が中心で,女性のバイヤーは数や価格の交渉を有利に進めるのが難しいとされるためである。アシスタントとして女性を配置し育成を試みたこともあるが,育ってはいない。2つ目は,店長をはじめとする管理職である。開店時間は8時か9時,閉店時間は22時か23時と営業時間は長く,定休日は設けられていない。管理職の労働時間は長くなりがちで,子育てとの両立が困難となっている。かつては「今日で 45 日目,どうだ!」と連続出勤を競い合う風潮も見られたという。イオン九州の女性活躍の取り組みは大きく2つある。女性人材の育成と店長の働き方の見直しを行った。結果、離職率の低下、女性に限らず若手の人材・技術向上ももたらせた。
 女性管理職の数値目標の設定における効果は,「なぜ,どのように女性活躍を進める必要があるのか」を自らの組織に即し考えることを促すことにある。この思考過程を経ずに数値目標を設定し達成しようとするならば,効果が上がらないばかりか,男女労働者から不信感がもたらされるなど,組織の混乱を招く恐れがある。女性管理職の数値目標の設定は,女性活躍を進める必要性を明確にし,なぜ女性が活躍できていないのか要因を分析し,その克服に向けた取り組みを進めることで,効果的なものになると考えられる。

<総評>
紹介された内容は現状を打破する取り組みであり、過程段階であったが実際に効果や意義というものを確実に事例は示しているため、取り組みの説得性をますます増していくと考えられる。

2023年11月16日

田中利佳 脇寛(2023)「女性就業実態の現状から見る女性管理職登用の課題」『鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編』第6号p139-150

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、2003年,内閣府が発表した「女性の指導的地位(女性管理職)の割合を2020年度までに30%程度まで増加させる」との目標が半分程度しか実現しなかった現状を踏まえ、これからの社会で実現していくために求められるダイバーシティ経営について着目していきたい。

<内容>
 内閣府は,男女共同参画計画 (2次) で,社会のあらゆる分野において2020(令和 2)年までに女性の指導的地位(女性管理職)の割合を30%に増加させることを目標とした.2020(令和 2)年の調査結果では,14.8%と目標の 5 割にも満たない状況であり,到達目標の時期を 2030(令和 12)年度まで延期としている。また内閣府は,「女性は我が国最大の潜在力」と捉え,持続的な経済成長のため不可欠なものとして位置づけている.女性の活躍を推進するた め,様々な法制度を制定した.主なものとして,男女共同参画社会基本法 1999(平成11)年・女性活躍推進法2015(平成27)年・候補者男女均等法2018(平成30)年などがあげられる。 法制度化されたことで,女性の活躍推進に向けた社会の気運は高まってきたかに思えたが,女性の地位向上,管理職増加に対しては,効果的であったとは言えない.
 そこで,2022(令和4)年7月8日女性活躍推進法が制度改正され,情報公表項目に,常時雇用する労働者が 301人以上の一般事業主に対して,「男女の賃金差異」を必須項目として追加することとなった.経済産業省は,2018(平成 30)年4月より「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」を開催した.つまり企業経営戦略としてのダイバーシティ経営推進を後押しするためである.女性を含む多様な人材の活用を経営戦略として取り込むこと,企業の付加価値を一層推進するための方策が確認された。
 海外企業がダイバーシティ経営の推進に積極的なのは,ビジネスでの競争に優位性をもたらしてくれるからである.実際にダイバーシティを効果的に進めた企業では,多様性に富む社員を戦略的に活かすことで企業の競争力強化につなげている.さらには,投資家が企業への投資条件としても欠かすことができないとしている.
 優秀な人材の確保と活用をするために、IT 化とグローバル化が進む 21 世紀の高度情報化社会では,企業パフォーマンス向上に大きく貢献してくれる高度な知識とスキルを持つ優秀な人材が常に求められている.世界レベルで有能な人材の争奪戦が起こっている.激化する競争の中で企業が生き残るためには,属性にかかわらず高い成果を出す有能な人材が必要なため,採用の対象層の拡大が不可欠である.また.優秀で多様な人材にとって,ダイバーシティ経営に真剣に取り組む企業は魅力的に映るため,結果的に優秀な人材が集まる.性別にかかわらず活躍のチャンスがあることが,女性の地位向上にもつながると考えられる.
 海外で成功している企業は,ダイバーシティ経営が重要視される.ダイバーシティ経営は,雇用面だけでなく,多様化する消費者の嗜好や価値観をビジネスに結びつけ展開できる.多様な社員確保は,多様な顧客ニーズに対して,営業・マーケティング・商品開発などで,迅速かつ的確に対応しやすくなるためである.購買決定者の半数は女性であるという先行研究からも,女性の経営戦略への参加は重要であり,女性管理職の増加は,必須と考えられる。

文献より

<総評>
今回は日本の現状よりも、ダイバーシティ経営の在り方に焦点を当てた。来週はこの論文の前半部分に着目されていた日本の女性管理職が増えない根本的な理由を同文献を用い考えていきたい。

2023年11月23日

田中利佳 脇寛(2023)「女性就業実態の現状から見る女性管理職登用の課題」『鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編』第6号p139-150

<内容総括・選択理由>
前回同様の文献を用いる。この論文の前半部分に着目されていた日本の女性管理職が増えない根本的な理由を同文献を用い考えていきたい。またダイバーシティ経営についても追加情報を蓄積していきたい。

<内容>
 日本特有の制度に潜む要因として、日本総研経営コラム 小島明子(2013)『女性管理職増加にむけて』の中で,日本特有の終身雇用制度が根強く残る現状や男性基準の昇進システムは,結婚・出産・育児休暇を取得する(または退職後再就職)選択をする女性の管理職昇進を拒む要因であることを指摘している。
 女性の自己効力感を喪失させる要因は、女性が管理職を打診された場合、キャリアアッ プとライフワーク(家庭)の両立が極めて困難であると認識していることから,躊躇することが多いと指摘している。女性が管理職に抜擢されると,女性であることを特別視され,孤独感が強くなる,または孤立しやすい状況に置かれることでの自己効力感低下が引き起こされる。女性管理職が少ない状況において,管理職業務を知る機会が乏しく,ロールモデル,キャリアアップ教育がなければ,いきなり管理職の仕事を任されてもうまく行くはずがない.加えてライフワークとの両立への戸惑い,重圧によるところが自己効力感低下を引き起こしている。さらに,育児復帰後のマミートラックによる自己効力感低下も指摘される。自分の意思とは関係なく,職場復帰後にルーティン作業への配置転換を余儀なくされるなどのキャリア低下,組織的な昇進意欲阻害による昇進・昇格コースから外れたことなどがあげられる。
 続いて女性が管理職を望まない要因として、ここでは独立行政法人労働政策研究・研修機構「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」2013(平成 25)年3月が用いられた。女性が管理職昇進を望まない理由(表1)として は,「周りにより上位の同性の管理職がいない」(管理職)、「周りに同性の管理職がいない」(一般従業員)、「自分の雇用管理区分では女性が昇進する可能性がない」といった雇用管理に起因する理由と「自分には能力がない」、 「責任が重くなる」、「メリットがない(または低い)」や「やるべき仕事が増える」といった個人の意欲や環境に起因する理由が多く挙げられている。そのほかにも要因として当文献では、ロールモデルの不在・男性による敵意的性差別・好意的性差別が挙げられていた。

文献より

 最後に日本の女性雇用の現状を見る。2020(令和2)年、内閣府による『男女共同参画局白書』では、日本国内の女性就業率は拡大していることが示されている。特に15~64 歳の女性就業率は,2013(平成25)年以降増加傾向にある。2022(令和4)年7月,男女就業者数は,全就業者数 6,755 万人であり,前年同月に比べ2万人の減少であったが、内訳を見ると,男性が3,714 万人で21万人減に対し,女性は3,041万人で19万人増である.つまり、女性の就業者は増加しており,全就業者数における女性の割合は45%にまで達している。2019(令和元)年に発表されたOECD諸国の女性と男性の就業率の差をみると,日本は35ケ国中,男性が84.3%で3位,女性は71.0%で13位となっている。男女の就業率格差を比較すると13.3 ポイントで9 番目に格差が大きい。
 2020(令和 2)年における非正規雇用労働者の割合を見ると,女性は54.4%,男性は22.2% であった。女子就業者の非正規雇用の割合が多い実態が顕著である。女性は,結婚・出産・育児等による離職後の再就職にあたり、非正規雇用を選択する(選択せざるを得ない)ことが多いとされる。理由として内閣府は,長期化する景気回復の下,企業が雇用戦略の中で,正規雇用者と非正規雇用者の配分について依然として慎重な調整を継続していることを挙げている。
 フルタイム労働者の男性平均賃金水準 100%としたときに,女性平均賃金水準は、2009(平成 21) 年で69.8%,2021(令和3)年は77.5%と是正されているものの,OECD平均の88.4%を大きく下回っている。長期的には縮小傾向にあるものの,先進諸外国と比較するとその格差は依然として大きい状況である。

<総評>
現状をもう一度分析し、課題点の整理を行った。女性の管理職を妨げる外的要因だけでなく、非正規・賃金等の実数値から具体的な格差が示された。次回以降は解決案の整理を行う。

2023年11月30日

坂爪洋美(2020)「管理職の役割の変化とその課題 文献レビューによる検討」『日本労働 研究雑誌』62巻12号p4-18

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、女性に限らず管理職共通の課題に焦点を当てたい。また、管理職と言ってもどの層が管理職なのか定義も含めて検討していく必要がある。

<内容>
管理職といっても,その中には大きく分けて,経営層に近いトップ・マネジメントや,非管理職が報告する、すなわち非管理職と管理職との接点となるフロントライン管理職,両者の間に位置づく,ミドル管理職が存在する。これらの中から,役員といったトップ・マネジメントを除く、ミドル管理職ならびにフロントライン管理職を対象として論考を行う。この層は,日本では部課長クラスと呼ばれる層である。
 日本の管理職の特徴の1つは,プレイングマネジャーとしての管理職が定着したことである。産業能率大学(2019)で,プレイヤーとしての仕事を全くしていない(0%)と回答した課長は、1.5% にとどまる(図2)。第1回から第5回までの同調査において,プレイヤーとしての仕事が占める割合に変化は認められず,プレイヤーとしての仕事の割合は,いずれの調査でも21~30%が最も多い。一方で,プレイヤーとしての仕事の割合が50%以上を占める管理職の比率も,いずれの調査でも40%を超えている。管理職のプレイング業務については,リクルートワークス研究所(2000)も調査を行っている。 同調査は,プレイング業務を「部下が担う業務と同様の業務」と定義した上で,何らかのプレイング業務を行っている管理職が82.3%に上ることを明らかにした。管理職がプレイング業務を行うのは,部門の目標を達成するために必要な仕事量に対して部下の数が不足しており,仮に部下の数が足りていたとしても部下の力量が不足しているといった部下の量的・質的不足に起因すると考えられる。
 過重な負荷を負う管理職の現状を解決すべく検討もなされている。日本経済団体連合(2012)は,ミドルマネジャーの現状を,経営環境や組織構造の変化,短期的な業績・結果志向の強まり等を背景に,目の前の課題解決に精一杯で,部下管理や部下育成,業務のマネジメントにまで十分に手が回らない状況にあるとした。その上で,課題解決に向け,①実務的な負担を軽減し,業務のマネジメントや部下指導・育成に取り組める状況を組織的に整備,②より良いマネジメ ントの実践を可能とするための OJT(仕事を通じ た部下指導・育成)への制度的支援,③ミドルマネジャーの自律的な成長を支援するための OFF-JT(企業内研修)の強化,④ミドルマネジャーのやる気や意欲を高める精神的な支援,の4点をあげている。
 管理職の仕事を一言で言うと,自分以外の他者の仕事を組織化することである。具体的には,管理職は仕事を計画し,予定を立て,資源を配分し,様々な方法で進捗を管理する。管理職の役割に関する代表的な研究が、Mintzberg(1973)である。Mintzberg は,管理職の管理的役割を,対人関係の役割・情報関係の 役割・意思決定の役割という3つの領域に大別した上で,それぞれの領域に該当する10の役割を指摘した。

文献より


文献より

管理職の役割は大枠では維持されていることがわかる。基本的に管理職は,一貫して多忙で,自らの活動を振り返り内省する時間もなく日々の仕事に追われている。一方で,変化も認められる。例えば,言語的コミュニケーションを中心としていることに変わりはないが,関わり方が命令や統制という一方通行の形から対話志向へと変化した。ミーティングについては,短時間の電話や予定されたミーティングに費やす時間が最も多いことに変わりはないが,部下とのミーティ ングに費やす時間が増え,外部者との時間が減少するという,時間の使い方の変化が認められた。 また,管理職の中で,非管理職に最も近いフロントライン管理職に注目すると,仕事の断片化は高い水準で継続しつつも,仕事内容は管理や計 画,モニタリング業務をより担うという変化が認められた。フロントライン管理職の役割の変化について Halesは,業務の監督から「チー ムリーダー・コーディネーター」もしくは「ビ ジネスユニットマネジャー」へと変化し,その責任が急速に高まっていると指摘した。

文献より

<総評>
管理職の役割は時代と共に命令といった形ではなく、部下に寄り添う相談・コンサル型の組織の一角となったと考える。この変化と女性管理職のつながりを見つけていきたい。

2023年12月7日

山極清子(2021)「企業における女性活躍の阻害要因とその解決への道筋」『社会デザイン学学会誌』12巻p12-23

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、企業における女性活躍の阻害要因を考え、解決策の提案を行った文献を紹介する。解決策の場面で、心理的バイアスに関する文献は多い一方で、具体的な施策で是正することが検討された文献が現状非常に少ない。

<内容>
日本の役員に占める女性の割合は、OECD諸国の中では最下位にある。フランス 43.4%をトップに8か国は既に30%を超えているが、日本は5.2%にすぎない。2010年、日本の家計支出のうち、妻の購買決定権限は、世界の平均 64%に対し日本では 74%である。2019 年、女性マーケティング会社ハー・ストーリィによると、女性の購買決定への影響力は 89.8%に及び、男性の購買決定権はわずか14.3%にすぎない。生活財の買い手に留まらず、使い手も多くは女性である。しかしながら、食料品や日用品はじめ化粧品、衣料品を製造・販売する企業にあっても、商品・サービスの最終決定権を持つボードメンバーには圧倒的に男性が多い。つまり、購買者として消費者として経験値の高い女性が経営には参画していないことが問題である。
 日本より先に経済が成熟した欧米諸国は、低価格で品質の高い日本製品等に追い上げられ、標準化と価格競争だけを追求する経営から脱却するために、先んじて経営構造に多様性を導入してきた。なかでも組織の競争力を高める要として多様性のある人材の活用を目指してきた。そこで、新たに求められる日本の経営革新は、従業員の多様性、なかでも、これまで活 かされてこなかった女性人材を登用して組織のパワーバランスを変える経営手法の確立にある。つまり、「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」の導入である。「ダイバーシティ・マネジメント」とは、性別、年齢、国籍、障がいの有無、LGBTといった個人それぞれを多様な人材として受け入れ、組織全体の活性化を図って、組織を強くする人事・経営戦略ともいえる。
 日本の企業社会の問題に照らし、なおも女性活躍が、潜在成長力を顕在化させる成長戦略といえるのか。その際、大事なのは、労働力不足、少子高齢化、グローバル化を巡る日本の企業成長の足かせになっている社会問題とは何か、これからの社会のデザインと関連づけて考える視点である。なぜなら、これらの問題はいずれにも共通する根っことして女性活躍推進の課題と繋がっているからだ。いい換えれば、女性活躍のテーマは、これらの問題と有機的に結びついた複合的関係にあると捉えることで、いまや企業社会にとっての待ったなしの切実な問題としてクローズアップされるからである。女性活躍推進は、単なる女性問題に留まらず、男性問題であり、企業の成長戦略として経営にかかわり、社会の在り方を変えるすそ野の広い問題として位置付けるべきテーマなのである。
 近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報を投資判断に組み込み、長期的な投資リターンの向上を目指すESG投資への拡大に注目が集まっている。実は、こうした非財務情報への注目もまた、女性活躍のテーマと大いに関連していることを見落としてはならない。内閣府が日本版スチュワードシップコードに賛同する227社の機関投資家等を対象に実施したアンケート調査では、投資残高が「1兆円以上」と回答した機関投資家が 30.3%に達している。そして、「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と 情報開示」では、女性活躍の推進企業が成長につながる4つの成果を指摘しているのであった。「イノベーション」「働き方改革による生産性向上」「人材の確保」「ダイバーシティによるリスク低減」が、それであった。
 日本的雇用慣行を変える施策は、女性管理職を登用し、経営パフォーマンスを向上させる効果的施策であることがわかった。日本でだけでなく、日本の就労モデルに近いドイツの上場企業 160 社、なかでもグローバル企業 3 社のケーススタディーにおいても、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を統合・推進して女性管理職・役員への登用を実現し、経営パフォーマンスをあげていることが判明した。以上から、女性活躍の阻害要因を取り除き、女性が意思決定ボードメンバーに参画する女性活躍への最も有効な道筋は、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施ワークライフバランスことにあるという結論を得た。

<総評>
今後の投資家の判断材料の増加・ワークライフバランス施策とダイバーシティ施策の導入が今回の文献を通じて現状を変革すると考える。

期末フィードバック
女性が働きづらい理由について子育て等の理由が少し抜け落ちている。
現状の背景など歴史的な流れについてまた不十分だ。
格差を是正できるから、さらにいうのであれば「メリットがある」から女性を管理職を登用するという考え方ではなく、人権ベースや機会均等の視点で研究すべきだ。

2024年1月11日 

吉田航(2022)「女性管理職は「変化の担い手」か「機械の歯車」か?新卒女性の採用・定着に与える影響に着目して」『理論と方法』37巻1号p18-33

<内容総括・選択理由>
日本では,組織の指導的地位につく女性管理職の効果に着目した研究は少ない。とくに,企業内のジェンダー不平等に与える影響を検討した先行研究はわずかである.日本企業における女性管理職比率の影響を検討した実証研究の多くは,企業業績や生産性への効果,たとえば ROA(総資本利益率)や労働時間当たり の売上総利益への効果を検討しており,雇用への影響はほとんど着目されてこなかった。そこで管理職の効果に着目することで,ジェンダー不平等をもたらす構造的要因の部分的な解明が期待できる。

<内容>
 研究の意義として、指導的地位につく女性には,不平等の程度を示す「結果」としての側面だけではなく,他の領域でのジェンダー不平等の程度を変化させる「原因」としての側面もある。 組織の指導的地位である管理職は,採用・昇進に関わる人事決定や,給与や待遇に関する部下の処遇を通して,従業員や求職者に影響を及ぼす。そのため,女性の管理職が多い企業では,女性の採用が増える,女性社員の待遇が改善するなどの形で,ジェンダー不平等が緩和されるかもしれない.実際に,英語圏の研究は,不平等に影響する要因の1 つとして女性管理職に着目し,男女間賃金格差や職場の性別職域分離に与える効果が検討されてきた。
 もし女性管理職が不平等を緩和していた場合,指導的地位に占める女性の少なさが, 他の側面でのジェンダー平等化も妨げていることが明らかになる。逆に,そうした効果が みられなかった場合は,女性の管理職による不平等改善を妨げる,日本企業に固有の構造・慣行の影響が示唆される.さらにこの検討課題は,ポジティブ・アクションの効果を 考える上でも重要な点である。もし女性の管理職が不平等の軽減に寄与していた場合,たとえば管理職の一定比率に女性を登用するクオータ制によって,管理職以外への波及効果も期待できると考えられるからである。
 米国の貯蓄貸付業界を分析した Cohen et al.(1998)によると,上位の管理職に一定数の女性がいると,その下の職階への女性の昇進・採用が促進される.女性の採用担当者や現職の女性比率が女性の採用確率を高めることは,米国の法律事務所でも確認されている。さらに,企業固定効果と時点固定効果を統制してもなお,米国企業のトップ管理職における女性比率は,より職階の低い管理職に占める女性比率を高めている(Kurtulus and Tomaskovic-Devey 2012)。日本企業についても,女性管理職比率が高いほど新卒女性採用比率も高くなっており,この関係は企業業績の良し悪しに依存しないことが明らかになっている。
 定着への効果についても,断片的ではあるものの,「変化の担い手」仮説と整合する研究結果が確認されている.具体的には,上司の性別が部下と同じであるとき,部下の離職率は低下することが知られている。ただし,これ らの研究は米国の一企業や公立学校を対象としている点に留意が必要である.もしこの知見が日本企業にも適用できると仮定すれば,女性の管理職が増加すると,定着率のジェン ダー差は縮小すると予想される。
 行った調査の結果、時点不変の企業特性や時代的トレンドを考慮すると,管理職に占める女性比率は,下位 /上位ともに女性採用比率を高めているとはいえなかった 。これは、日本企業に固有の人事慣行,すなわち新卒採用を含む人事権を本社人事部が掌握しており,個々の管理職がもつ採用権限が相対的に弱いことが寄与している と考えられる。このような慣行のもとでは,たとえ女性管理職が増加した場合でも,新卒採用に関わる施策・慣行は変化しづらいことが示唆される.さらに下位管理職では年度ダミーの投入によって効果が逆向きになったことから,時代的なトレンドによ る交絡が下位管理職と新卒採用の女性比率をともに増加させていた可能性もうかがえる。一見女性管理職が新卒女性の採用を促しているように見えるものの,実際には時代的な影響,たとえば景気の好転や「女性活躍」をめぐる社会的圧力の高まりによって,両者がともに増加していたにすぎないことが示唆される。
 職階による効果の違いは,下位管理職と上位管理職の間で,若手社員との関係が異なっていることから説明できる.新入社員の直属の上司は下位管理職であることが多い。分析結果から,女性上司が部下の女性を優遇する傾向はみられないとする米国の知見は,日本企業の下位管理職と若手社員の間に もある程度妥当していると考えられる。さらに,日本企業において,労働時間と昇進確率の関連は男性より女性の方がはるかに強いとする知見を踏まえると, 管理職に到達した女性は,仕事へのコミットメントを重視する規範をより強く内面化している可能性がある。その結果,同じ女性の部下にも同程度のコミットメントを要求し,女性若手社員の早期離職傾向をむしろ強めている。
 一方で,上位管理職 と若手社員の業務上の関係はより希薄であるため,このメカニズムは,上位管理職にはさほど当てはまらない.その上で,より権限の強い部長職以上に女性が参入することで,福利厚生や在宅勤務などの企業内施策が充実し,定着率のジェンダー差を縮小させる力が働いている可能性がある。   
 組織の指導的地位に対する女性の参画が進展した場合でも,当該組織におけるジェンダー不平等は緩和されないことが多い。とくに下位管理職の女性比率は,女性採用を促進させておらず,定着率のジェンダー差をむしろ拡大させていた。この結果は,日本企業に固有の構造的な要因 ――本社人事部への採用権限の集中や,長時間労働が女性の管理職に対して強く要求される傾向――によって,女性管理職がジェンダー不平等の改善に寄与する効果が阻害されている可能性を示唆する。その一方で,女性の上位管理職が増加すると,定着率のジェン ダー差が縮小する形でジェンダー不平等が改善していた。ポジティブ・アクションによっ て単に女性管理職を増やすのではなく,企業内で強い権限をもつ部長以上の女性比率を高めることで,はじめて企業内のジェンダー不平等も改善する波及効果が期待できると考える。

<総評>
女性管理職をただ増やすだけでなく、比率を高めることで現状を変えていくほどの力を持つことができる環境を作る必要がある。

2024年1月18日

櫻田譲(2023)「女性役員比率と企業業績の関係性」『北海道大学 經濟學研究』73巻2号 p1-16

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、女性役員(管理職上位層)に増やすことで実際にそれは意義があるのか?これを確認していきたい。

<内容>
 内閣男女共同参画局が公開した全上場企業の女性役員比率を基に日本経済新聞社が独自に算出したところ、「女性役員比率が 10%以上(15年9月から16年8月期)の企業について,会社が予想する営業増益率は42%と,全上場企業平均の34%を上回った」との報道もある。現在までのところわが国においては女性役員の採用は少数であり,この報道が示す通り,女性役員の採用による企業業績の向上が起きるということも予想外の出来事と受け止められている。世界的には女性活用に関する研究について,従業員や管理職の採用が企業パフォーマンスを向上させるか否かに関する検証は労働経済学分野において先行しており,対して女性役員に対する研究は後れを取っていると言えるものの興味深い成果が散見される。
 女性従業員や管理職と女性役員の間 には,労働契約なのか委任契約なのかという差異があり,検証結果を単純に比較できない。それでも女性労働については彼女らを雇用すれば 企業業績が現実に上昇する証拠を示した研究も あれば,反証した研究も存在し,正確なところ確定的な成果は導出されていない。また女性役員比率の上昇が企業パフォーマンスに及ぼす影響は無いとする研究や上記新聞報道とは逆に委縮させるとの研究も存在する。このため引き続き,女性役員が企業パフォーマンスに及ぼす影響についての研究成果の導出には大きな意義がある。
 女性の社会参画を促す企業努力の進展を有価証券報告書にて開示するため,令和5年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(改正開示府令)が公布・施行されている。その中で性的多様性に関する情報として女性管理職比率,男性の育児休業取得率,男女間賃金格差の開示が求められるとしている。従来,女性労働研究では女性活躍の観察対象として女性従業員や女性管理職に注目した成果が公表されてきたが,それらを受けて日本では女性活躍支援のための様々な法令の整備が行われている。
 そこで本研究では観察対象を東証一部上場企業の女性役員の採用実態に注目し,女性役員比率が企業業績(ROA)の他,投資家による評価(トービン Q(以下「Q」と 略称))へ及ぼす影響について検証を試みる。本研究における 2SLS 分析の結果,東証一部上場企業は女性役員比率が上昇すると4つのモデルで一貫してQの上昇に貢献する。他方,ROAの上昇に関しては3つのモデルで1%水準から10%水準で女性役員比率の上昇と正の関係性を示し,Qへ及ぼす影響に比してやや安定しないものの,女性役員の存在が利益向上へ貢献するとの結果が導出されている。
 また別研究では、女性役員がいる企業では投資家の期待がより高いとされているが、実際の収益獲得に貢献したかは明らかになっていない。

<総評>
女性役員を増やすことは、国家戦略である海外から投資を呼び込み、経済を活性化させる点では一致していると感じた。


2023年春学期

2023年4月6日

清水雄大(2008)「同性婚反対論への反駁の試み--「戦略的同性婚要求」の立場から」『国際基督教大学ジェンダー研究センタージャーナル』3号p95-120

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、同性婚反対論に対して保守的思想を中心とした考え方だけでなく法的・政治的にも現代の問題を捉えており、幅広い角度から多角的に反論している文献である。日本においての同性婚法成立の政治過程の研究を行うために、まずは制度の仕組み上の設計を理解することが適当であるとしてこの文献を選択する。

<内容>
まず初めに⓵婚姻とはそもそも『男女』による『生殖』を伴うものである ⓶同性愛者が増加し、種の存続に危機が生じる ⓷子の福祉への悪影響がある ⓸法的保障など必要ない ⓹同性婚などの法的保障の前にやるべきことがあるのでは? 法的場面だけでなく、個人の価値観等を含めた文化的観点に対しても反論を行っている。⓶の種の存続の危機の点からは同性婚の法的保障を行うと、同性愛者の増加そのことにより、子を産めないことから種の存続の危機が指摘された。それに対する反論としては、性的指向が同性の者に向かうという点は先天的or後天的なものであるかは定かではなく、法的保障が後天的な要因を後押しする懸念もある。しかし、同性愛者が増えるという確証もなく、セクシュアルマイノリティを切り捨てておりホモフォビア(同性愛車に対する嫌悪)である。また少子高齢化の中で認めるべきでないという意見に対しては、そもそもLGBに対して異性婚を強制させて異性愛的社会秩序の維持や少子化対策に有用とみなされるのは重大な人権侵害という反論をしている。更には法的保障を行う必要はなく現行上の制度で十分という意見に対して、メリットも踏まえたうえで具体的にどのような場面でデメリットになっているのかを指摘している。挙げられたのは⓵公正証書契約 ⓶成年養子縁組 ⓷事実婚/内縁 ⓸登録パートナーシップが挙げられる。現在日本において同性婚を求める人々が最大限婚姻関係に近い形になることができる手段であり、4つの方法いずれにしても法的保障が行われていない限り、権利関係等においてかなり限定されたものとなっていることが分かる。

<総評>
全体を通して現在の日本の法律であると、適用範囲がかなり制限されており、また同性婚先進地域であるヨーロッパをはじめ海外との比較も行われており、日本に足りない点が少なからず理解できた。しかし、政治過程において保守層とはどのようにして議論を図っていくのか、そして合法化を進めていくのかこの部分についてさらに研究を深める必要がある。今後は、政治面に対してさらに向けていく必要がある。

2023年4月13日

西山隆行(2016)「アメリカ合衆国同性婚をめぐる政治」『立教アメリカン・スタディーズ』38巻p135-151

<内容総括・選択理由>
アメリカは二大政党制であり、リベラル的な考えを持つ民主党、保守的な考えを持つ共和党に分かれている。また連邦制のため州の権限が強く、一部州では同性婚が認められている一方、伝統的に保守が強い南部地域では同性婚が認められていないケースが多い。そこで今回、政策を推進するうえで100%の支持を得ることは半永久的に不可能であるが、日本と同様様々な保守の背景を見つける鍵となると考えたことから今回の文献の主な選択理由である。

<内容>
これまでのアメリカの政治学は利益関心をどのように実現するかを議論されてきたが、同性婚は権利及び価値と尊厳を巡る妥協困難なアイデンティティを求めたものでこれまでとは異なる。世論は、日本と同様若い世代の方が賛成の割合が高い。人種では黒人に反対派が多く、学歴では高い人が賛成する傾向がある。また共和党保守派と民主党リベラル派では、同性婚に好意的な立場をとる人よりも、批判的な立場をとる人の方が、同性婚を重要な争点と考える傾向が強い。また近年、アメリカの有権者の中でイデオロギー的分極化が進展しており、大統領が中道を狙い、世論を糾合して政策目標を実現するという戦術が採りにくくなっている。議会でも同様に二分化されている。保守派は同性婚反対の意向を明確に示して、団結して行動しているのに対し、リベラル派は同性婚賛成の意向を必ずしも明確に示すことをせず、また、同性婚推進派団体以外のリベラル派団体は同性婚実現に向けて積極的に協力するわけではない状況にある。そこからこの文献では世論の動向、利益団体政治の在り方、政党政治の在り方を考えると、連邦議会を通して同性婚を認めさせるのは困難である。このような状況では、裁判所を介してその目的を達成するのが、賢明な策と考えられた。日本では、裁判所は政治的対立とは距離を置いた、中立的立場から正義を実現するところという認識が強く、裁判所には法令上の非合理を正すことは期待できても、国論を二分するようなまた、社会変革につながるようなことは国権の最高機関である国会で決めるのが当然だとの認識が強くなっている。一方アメリカでは裁判所も統治機構の一つとして政治的役割を担っている。同性婚をめぐる州レベルの訴訟について研究を行ったジェイソン・ピアースソンによれば、州レベルにおける一連の訴訟が同性婚という争点の存在を知らしめ、その是非をめぐる議論を巻き起こした。訴訟に勝利した場合には、判決によってその権利要求が正当なものだとの議論が積み重ねられ、敗訴した場合には、同性婚を求める人々による政治的、法的動員が進む結果をもたらした。それを別の論者は「敗北による勝利」と呼んでいる州レベルでの一連の訴訟は、たとえ敗北に終わった場合でも、連邦最高裁判所が同性婚を合憲と判断するための前提条件を作るうえで重要な役割を果たすと語った。

<総評>
日本とアメリカではなぜ同性婚に対する法的保障の差があるのかと考えていたが、裁判所の在り方の違いが分かった。しかし、世論に関しては日本と近いものが多く、また社会情勢でその流れが目まぐるしく変わることも理解できる。さらに政治的な問題の調査を行う。

2023年4月20日

横尾俊成(2019)「地方自治体の政策転換におけるSNS を用いた社会運動のフレーミング効果-渋谷区「同性パートナーシップ条例」の制定過程を事例に-」『関西学院大学先端社会研究所紀要』16巻p1-16

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、今回の統一地方選挙で港区議会議員を引退した横尾俊成氏がSNSを通じた社会運動を行い、それらが実を結んだ事例を寄稿したものとなっている。日本では同性婚の合法化、国会での審議は行われていないため、過程を見ることはできない。しかし、市町村議会にはパートナーシップという形で法律には劣るものの、一部条例でカバーしており、議論過程を参考にしようと考える。

<内容>
「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」の成立背景としては、SNSを用いた社会運動の影響が考えられる。9回開かれた検討会の中で同性パートナーシップ証明書を発行する方向で話がまとまり、2015年2月12日に平成 27 年度の当初予算に関するプレスリリースが出された。(通常渋谷区では通常、条例案は委員会に報告され、定例会に提出される。しかし、今回はそのような手続きを行っていなかったため、ニュースで初めて知った区議も多かった。)そのため。定例会に提出された後も、一部の議員から手続きの正当性や拙速性についての意見が繰り返し出された。その後、SNSでは保守派(反対派)が日本の伝統的な家族観を脅かすという主張がなされた一方、Twitterでは対抗して、賛成派が「#渋谷区の同性パートナーシップ条例を支持します。」というハッシュタグ運動が行われた。結果として反対の投稿数を上回る。もちろんネット上の意見と実際の世論は、しばしば異なるなど、またこれらはデータとして不適当なことがあることは否めない。しかし、職員にとっては、条例に賛同する人が実際に日本に多数いるのだということを反対派に対して示す説得材料となったのである。その後、条例可決された後、運用する際の区規則の策定については、別の会議で行われ、区長はパートナーシップに関する証明をすることができる内容となった。その要因としては議会でのパートナーシップ提案者である長谷部健氏が区長に後継者指名され、当選したことにある。元来長谷部自身が保守系議員とうまく付き合っており、選挙で支持されたことを受けて、協力体制をさらに築くことができたとしている。

<総評>
社会運動による動員は、一般に政治闘争を引き起こしやすく、少数派の政策実現に結びつきにくいと言われている。自民党は反対をしていたが、これら活動に反対することは自民党にとってLGBT の問題、男女共同参画の問題、女性の権利の問題は本来別々のものであるが、「ダイバーシティ」として一つにくくられ、長年培ってきた男女平等参画の活動をないものにしてしまうものであった。そのことはつまり、幅広い支持を失うことを意識したため、消極的反対として、目立った反対活動を行うことが難しかった背景が分かった。

2023年4月27日

堀江孝司(2017)「安倍政権の女性政策」『大原社会問題研究所雑誌』700巻p38-44

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、安倍政権の女性政策という法政大学に属する社会・労働学の研究所の文献である。普段私は同性婚と保守政権の関係を調べているが、今回は同性婚政策同様リベラルに分類される女性政策であるが、保守政権の代表格である安倍政権がなぜ女性政策に力を入れたのかに着目したいことから文献を選んだ。そこから同性婚政策はなぜ日本で進まないのかを理解するのに役立てることを目標とする。

<内容>
盤石な支持基盤を保守層に持つ安倍政権は経済政策の一環として女性政策を行っているとしている。一つは労働供給を増やす必要性、二つ目は社会保障制度を維持するために、潜在的労働力を探す必要性があったということだ。そこで焦点があてられたのが女性であり、女性が社会で労働することにより、生産性の向上だけでなく、収入増からの消費拡大、新しい価値観の創出等成長戦略としてこの上ない。また同時に規制緩和(企業主導型保育事業)、雇用流動化策(女性が再就職しやすくする)を行う。通常保守政権は女性を家に留めておく伝統的な家族観を持つ。その為一時期政権は育休3年・3世代同居支援税制等、女性の就労促進とは真反対の政策であった。しかし、少子高齢化が進んでおり、社会保障を維持するのが難しいと考えたからか、伝統的な家族観に反してしまう配偶者控除と国民年金第3号被保険者制度の存廃を政権は試みようとした。政権は、労働供給増が見込めそうな配偶者控除や第 3 号制度の廃止は検討したが,そうした効果が見込めそうもない夫婦別姓に,保守層の反発を買ってまで取り組む気配はない。一方、安倍政権の女性政策は単なる経済政策ではなく、マイノリティや弱者保護の社会政策化してきたとする意見もある。筆者は野党の争点潰し・規制強化規制緩和のセットの提案・女性就労促進のためが挙げられる。そのため結果として、やはり成長戦略・経済政策の一環として女性政策は使われていたとしている。

<総評>
今回、安倍政権の女性政策に着目したが、政権運営をするにあたって支持者と政策の間を保つバランスが必要であることが分かる。ここから考えると、同性婚合法化の実現は経済的側面等、政権にとってプラスとなる内容にしなければならない。自民党にとってはただ同性婚合法化を行うと、その反動で保守地盤が揺らいでしまう。だからこそ、人権と経済を結び付けるのは不本意であるが、保守政権の上で同性婚政策を実現するには何か経済的側面を見つける必要がある。

2023年5月18日

三浦まり(2017)「1.政治分野におけるクオータ制導入の意義」『国際女性』31巻1号p111-115

<内容総括・選択理由>
保守政権と同性婚政策の発表を行った際、女性差別につながっていることの方が問題ではないかと指摘された。事実LGBT理解増進法案は性自認の文言に関しては、一部議員は、それは訴訟の多発につながらないと言っているものの、トランス女性と自称して女性トイレに入る犯罪面での危険性や、またマイノリティーを認めなかった場合訴訟が引き起こされる可能性は否定できない。そこで私は、女性や当事者の意見や代弁者の不足がこの問題を引き起こしていると考え、それを解消するには政治面でのクオータ制導入が必要不可欠であり、今回全体把握を目的とする。  

<内容>
三浦はクオータ制がなぜ必要か、それは女性が議員になるためには様々な障壁が存在し,それを一つひとつ取り除くのにはあまりに時間がかかることがあるからと述べる。障壁の一つは性別役割分業・第二に政党、第三に女性のなり手の少なさを挙げている。女性はジェンダー社会化の過程で,競争社会で勝ち抜くことよりも,協調性や共感が推奨されていることから、政治が権力闘争であればあるほど遠ざかる。これらを解消するための即効性が高いものとしてクオータ制を挙げている。しかし、男性への逆差別等多くの批判にさらされている。特に多い反対意見としては、能力に関する意見である。「能力のある女性はすでに議員になっている」それは確かとしても、男性はさほどの能力がなくても議員になれることとの衡平をどのように図るのかという視点が必要である。議員には異なるキャリアを経てから就くことが多く,クオータは他の分野で才能を発揮してきた女性が政治分野に参入することを促す効果を持つ。能力主義による批判は懸念に過ぎないといえる。能力議論はもっぱら新規参入する側の女性に焦点が当てられるが,男性に関していえば,クオータは当選する男性の能力を引き上げる効果を持つ点にも注目すべきである。それにより議員全体の質を上げることができる。実際日本の国政に導入する場合、法的クオータは違憲になりかねないという懸念があるため、強制力が強いほど政党の自由を制限するため違憲の可能性は高まる。だからこそ、三浦は民主主義と男女共同参画の理念からは候補者の選抜基準に性別均等を含めることが要請されることから、衆参比例代表部分にのみクオータ制を置くことは合憲であると解される可能性が高い。上記の案も完全とは言えないがそもそも日本で効果的なクオータが導入されるためには,女性が政治から排除される権力過程が理解されることが先決である。

<総評>
能力に対して懐疑心が昔あったが、私自身一度クオータ制を導入することである程度社会全体の女性参加数値が高まった段階で法律は廃案として、それが真の男女共同参画社会であると考える。そのため実践的に考えていくべきである。

2023年5月25日

行田邦子(2017)「「政治分野における男女共同参画推進法」制定を目指して」『学術の動向』22巻p61-67

<内容総括・選択理由>
同性婚・LGBTQ問題にこれまで焦点を当ててきたが、現状の法整備を行うことにより女性の権利がより狭まれるものとなってしまう可能性がある。そこの理由として自分は男性社会・視点からの物事の思案がこのような背景を生んでいると考える。ジェンダー平等政策により幅広く人を守っていきたいと感じるのであれば、私はクオータ制を導入することにより、政策の視点を多角的にしていき、そのことが差別解消のための法律において生み出された新たな差別を減らすことができると考える。

<内容>
政府は衆議院議員、参議院議員の候補者に占める女性の割合を平成 32年(2020)までに 30%とする「政治分野における 202030」を示したがクリアはできていない。衆院は2017年17.8%、参院は2022年33.2%が女性候補者の数が最高であった。しかし、2017年当時衆院の女性比率9.3%はOECDの中で最下位であった。OECD加盟国35か国中29か国がクオータ制を導入している。またクオータ制の形態は法制化の有無と規制の対象という二つの基準により分類することが出来、諸外国の実際の事例は 3類型に大別される。➀「法律型議席割当クオータ」特定の性別に対し、あらかじめ一定の議席割合を確保することを憲法や法律に定める。➁「法律型候補者クオータ」各政党が擁立する公認候補者の性別比率をあらかじめ定めることを法律で規定する。➂「政党型クオータ」候補者における性別比率について、法制化はされていないが、政党等の規約類において自発的に定められている。日本において、立法の目指すところは、法律で政党等にクオータ制などポジティブ・アクションを義務付けるものではなく、女性の候補者擁立など政党等による自発的な活動を促すための環境整備であることや、憲法の整合性、国政選挙における性差別の禁止(44条)、性別による差別の禁止の解釈の一つとして、男性候補者への立候補権侵害・逆差別、女性候補者・当選者のスティグマ(14条 1項)、政党の自律権、結社の自由の侵害(21条 1項)等、最終的には全会一致を目指し議連が立法に努めている。また行田は「政治分野における女性の参画と活躍の推進は、社会全体で取り組まなければ実現しない。」と述べている。日本における女性議員比率の低い原因としては女性の資金面、体力面、人材面の不足を挙げており、そのうち資金面においては、女性の経済力向上はもとより、政党その他による経済支援制度の充実が解決策の一つとなる。また体力面においては、そもそも政治家や候補者が有権者に求められる活動内容について、社会慣習の問題として考える必要があり、このことは選挙制度とも関係するとしている。人材面においては有力な人材源である地方議員や官僚に女性が少ないことも指摘している。結果として国権の最高機関である国会において、国民の多様な意思が的確に反映されるよう、立法府はもとより社会全体での取組みが求められる。

<総評>
著者が国会議員であったため、今の日本にあった法律制定・現実的な軸・指針が分かりやすく記されていた。しかし、憲法上強制力のあるクオータ制の実現は難しく、やはり政治分野だけでなく社会全体が積極的に女性登用に取り組む必要がある。

2023年6月1日

湯淺墾道(2009)「クォータ制と新たな政治秩序の形成」『社会文化研究所紀要』63巻p1-18

<内容総括・選択理由>
前回までは同性婚を調べることで、その政治過程において民主政治が行われている中でマイノリティの意見はある程度少なくなるのは許容の範囲であるが、同性婚は国民支持率6割以上の中で実行が遅々として進まない。これは代弁者が少ないためであり、LGBT法案などによりそれ以前に政治面では女性の意見が伝わらない現状が予見される。そのためにクォータ制が必要であり、能力面や政策の多角化多くのメリットがある中、日本特有の理由が分かった。今回はこの説得力を増すための準備である。

<内容>
ここではクォータ制は政党の比例代表名簿に一定割合以上の女性候補者の搭載を義務付けたものとしている。まず韓国の事例が記載されていた。2000年にクォータ制が国会議員・道議会議員選挙で導入され最低30%の女性登載を義務付けた。また2002年には道議会議員選挙では50%の女性登載が義務付けられ政治資金法により30%以上の女性候補者擁立西欧に優遇措置が行われた。2004年には国会議員でも50%義務となり、そのことから小選挙区でも30%以上が女性候補となった。2005年には制度上の問題であった比例名簿において女性を下位とする政党を防ぐために、男女交互に登載することを必須として、守らない場合は議席没収などの改正が行われた。そのことにより1992年は2.7%であった女性議員の割合は13%と2004年には増加した。このような背景としては、儒教的慣習である男尊女卑的傾向を制度改革による変革運動や盧武鉉大統領になったことで参与政治へ変化し、民主化の風潮が女性を後押ししたと言われる。さらに若い世代では男女間意識の変化も上げられる。日本の女性議員が進出した例としては、損後初めて行われた衆院選であり、女性に選挙権・被選挙権が認められた初めての選挙であった。39名当選し、平均年齢46歳半数は無職であった。また1989年は土井たか子の日本社会党が引き起こしたマドンナ旋風により女性であることを武器にした選挙が行われる。さらに2005年の郵政選挙時に小泉により送り込まれた刺客の中に多くの女性が含まれていた。日本における女性議員の少なさの背景として1つは政治文化(性的役割分業意識・世襲)2つ目には男女間の社会経済格差(ライフスタイル)、3つ目は制度的問題である。制度的問題に関しては日本においては女性の方が投票を義務と感じるからか男性よりも女性の方の投票率が高い。これは多くの女性有権者が男性候補者に投票していることが分かる。日本の2007年の参院選結果分析では女性候補者を数多く立てれば女性候補者や政党に多く集まるとは限らないことが分かった。ここから論文は日本の男女共同参画に関する意識の現状の投影に他ならないとし、意識を変えれば女性議員が増えるようになるから意識変革を先にするか、それとも意識変革するにはクォータ制を導入し、人為的に女性議員を増やすのかに対する答えを出すのは難しいと結論付けた。

<総評>
クオータ制を導入することで多くの議員の誕生につながるとは必ずしも結びつかない。また政策効果についても増えたことはわかったがそれにより何が得られたのか分からなかった。次回は、クオータ制の政策効果これを中心に調査したい。

2023年6月8日

戸田真紀子 フォーチュネ・バイセンゲ(2020)「女性の政治参加と家父長制社会の変容 ルワンダと日本との比較」『現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科紀要』14号p29-43

<内容総括・選択理由>
政策を提案していくにあたって、その政策から得られるメリットや根拠を示す必要があると考えた。私はクオータ制を導入することで、女性視点の政策立案が行われるようになるようになり、これまで盲目となってきた部分の解明が可能となるから導入が必要と考える。日本では政治面でまだ実施されていないため、国内事例をもとに根拠を示すことは難しい。そのため、今回開発独裁国家でありながら、女性議員比率が最も高いルワンダ(61.2%)の政策効果を中心に紹介する。

<内容>
ルワンダは長く家父長制社会であり、現在でも DVなどの課題を抱えている。しかし、クオータ制が導入され女性議員比率が高まるにつれ、家父長制社会の変化が指摘されてきている。戸田はここでは、ルワンダにおいては家父長制社会が解消され、男女平等の意識が社会で高まったから、女性議員の数が増えたのではないとしている。そして2003年に制定されたクオータ制の導入が党派を超えた女性議員の連帯により女性の権利を守る法律が制定されていることに繋がっているとしている。ただルワンダは植民地化以前のルワンダ王国における Queen Mother(多くの場合、王の実母)の地位、及び家庭における伝統的な女性の地位が高かった歴史のあることから導入に反感は少なかったと指摘される。ジェノサイド後の1994年に移行政府(GNU)が誕生しクオータ制が導入された。女性議員が増加したことにより、ルワンダの女性議員たちは、女性と子どもに関わる分野に関心を持つ。(日本の男性議員は外交安全保障に興味を持つ傾向がある。)導入以前1996年に「ルワンダ女性議員フォーラムFFRP」の超党派議連が女性(一夫多妻制の禁止)や子どもの権利(虐待)を守る法律の制定に貢献した。そして導入後、ジェンダーに基づく暴力の防止と処罰に関する法律」の制定(2006)・民法・土地法・労働法の多くの規定が修正される。1988年制定の民法第 206条(夫は家族の長であることを規定)は、人と家族を規定する法律の第206条(夫婦の平等を規定)に置き換えられている。2005年の土地法は2013年に修正され、土地と財産に対する権利について夫と妻の平等が強調されている。産前産後 休業期間中の給与支払いに関する2009年の労働法を補うために、産前産後休業給付制度を制定した法律も制定されている。この法律ができたことにより、女性は土地をはじめ財産を相続できず、所有権は父から息子に移譲された。離婚の場合、女性には夫の土地に対していかなる権利もなく、子どもがいない寡婦は、亡夫の兄弟と結婚した場合のみ亡夫の土地の使用権を主張できるだけであった。その結果女性の意思決定参加割合が増えたとされる。また女性が財産を得やすくなったことにより、子どもの授業料や家族の医療保険が払いやすくなったこと、HIV/ エイズがもたらす様々な影響にも対処できるようになったとしている。しかし慣習面では文化と宗教が法律の実施を妨げていることが明らかにされている。

<総評>
本当に国民にとって必要な政策が議論されることに繋がると感じ、そのことが国民全体の幸福になると考える。ただ背景面が少し日本と違ったため、近い場面や地方議会の事例など調査したい。

2023年6月15日

大澤貴美子(2016)「韓国:政治代表の男女不平等を是正するためのクォータ制度」『法政論叢』52巻2号p203-215

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、隣国である韓国のクォータ制に関する文献である。日本と文化面での接点の多さや、男尊女卑が根強い文化に残っていながら、女性大統領の輩出などが行われ、進んでいる面も垣間見れる。また前回はウガンダを取り上げ、制度効果を中心的に見た。制度効果をさらに合理化するため、海外事例は背景が異なるため日本で導入する場合と異なる可能性となることは高いが、政策効果面では同様の成果が得られると考える。

<内容>
ジェンダーギャップ指数で見る限り、日本も韓国も、男女平等の状況については大差がない。それでは、なぜ韓国でクォータ制が導入されるに至ったのか。その要因として、「女性団体の運動」および「政治環境」の2つが要因として指摘されている。女性団体の運動としては80年代の民主化運動の過程で誕生した女性団体が女性の政治参加の問題へ関心を寄せ始めたことの影響が大きい。2000年にもクォータ制を導入後も、改正を求め続けた。そして政治環境では韓国の大統領制は、大統領に大きな政治指導力を付与しているが、比較的女性政策に関心の高い金大中が大統領になることによりクォータ制導入への道が開け、政治改革の必要性も同時に訴えられていたことも要因である。続いて効果と限界を見る。女性議員の数あるいは比率の変化を問うものである記述的評価としてはクォータ制導入の結果、女性議員の数・比率が増えているのは明らかであるとしている。特に比例代表選出部分において2004年以来女性割合は50%を超えている。これは罰則規定がないにも関わらず、このような状況が生まれている原因としては、①クォータ制の法的規定がより明確であること、②女性団体をはじめとする「市民団体によるモニタリング」があったこと、③「韓国で比例代表名簿は政党の民主主義に対するバロメーターの意味を持ち、法律違反の負担が相当高い」こと、④議会全体に占める比例議席の少なさに加えて比例選出議員は再選を目指さないという原則があることから男性現職議員の既得権益が弱いことなどがあげられる。しかし比例選出の議席が議会全体に占める割合は18%に過ぎないため、 議会全体における女性の割合はいまだ低いままである。ただ比例代表で議員を務めた女性が既得権の根強い小選挙区に挑戦するケースも多く女性候補者を増やすメカニズムとして機能している。そして実質的評価としては女性関連法案の数の増加であり、ウガンダと同様2005年の家族法改正による戸主制度および戸籍の廃止が行われた。また女性議員は男性議員に比べて活発な立法者であり、2004年4月から2006年9月の間、また2004年から2008年の第17回国会において、女性議員の議案発案数は男性議員を上回っており、議員としての女性の有効性が示唆されている。女性の視点や利益への関心が高まったのみならず、立法活動そのものの活性化にもつながっている。そして法律型クォータ制導入が難しい現在の日本においては、制度の導入を推進しながらも、同時に、「そもそもなぜ女性議員を増やす必要があるのかに関して、民主主義の観点から議論を深めていく作業が不可欠」ではないかとしている。政治代表におけるさらなる男女平等の必要性が認識されれば、クォータ制導入自体の可能性も、導入後に政党がクォータを遵守する可能性も高まるであろうことが予想される。また、有権者の多くが政治における数的男女平等を求めることになれば、そのような有権者にアピールしようとする政党が、独自に政党レベルでのクォータ制を導入する契機につながる可能性も ある。

<総評>
クォータ制を導入した場合でも、効果を発揮しにくい場合があり政党が遵法していくことを国民が見ていく必要がある。韓国ではまだまだ小選挙区で男性が強いが、確実に政治面では日本より進んでいると言える。

2023年6月22日

田中聖華(2020)「日本企業における女性活躍推進の課題~日本社会における性別役割分業観の歴史的視点から~」『横浜商大論集』53巻2号p51-67

<内容総括・選択理由>
2023年6月13日政府は「女性版骨太の方針」を決定し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指し、2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促すことを決めた。しかしニュースのコメント欄を閲覧すると、逆差別などの意見が多数を占めていた。政府は女性がリーダーを目指すことのできる環境づくりの構築に勤しんでいるが、反対も根強いと見れる。そのため、クオータ制導入は女性活躍推進に当たるのだが、政治面と共に企業にも流れを波及させる必要がある。今回は企業の視点で考える。

<内容>
女性管理職の数は増加しているが、そのほとんどは係長あるいは課長といったクラスであり、全社的な意思決定に直接影響を及ぼす上級管理職や経営者層(役員層)には少ない。これは人事制度の仕組みに密接に関係している。均等法は、労働市場あるいは企業に雇用される場合における女性の地位を改善するために設けられた法律であり、育児介護休業法は、男女ともに小さい子供がいても働き続けられる、つまり仕事と育児の両立を図るために設けられた法律である。男性中心社会は労働市場に遅れて参入してきた女性に、均等に扱われるためには、男性と同様の働き方、いわゆる滅私奉公型働き方で働くことを要求した。現代ではライフスタイルは変化しているが、男性労働者にはいざとなれば滅私奉公を可能にする状況(女性を頼る)が整っている。しかし、その選択肢どころか実際は平成 28 年における 6歳未満の子どもがいる共働き家庭の妻の1日の家事時間160分、育児時間 167分であるのに対し、夫の家事時間20分、育児時間47分(総務省社会生活基本調査)であり、家庭生活における役割を分担しようという意識があっても、現実にはしていない、あるいはできないのである。企業も同様の考え方が残っており、女性が家庭の事情で残業を断ったり仕事の軽減を申し出たりした場合、男性上司はやむを得ないと思うことが多い が、男性が同じことを申し出ると良い顔はされない。それが最も顕著に表れるのは、育児休業取得時(男性の育児休業取得率は変わっていない)においてである。これは男性が育児休暇を取る際の職場体制(上司の考え方も含めて)が整っていないからである。企業は、従業員の単一性を求めるのではなく個々人のダイバ―シティを認め、育成をはじめとする人材活用のためのコストをかけるべきである。また女性はデータ上、管理職になりたがらないと結果が出ており、主な理由は仕事と家庭の両立が困難になるが大半を占める。これは労使双方が長時間労働を極めて例外的なことと認識する必要がある。職場のメンバーの超過勤務を皆で協力して行うのではなく、超過勤務自体をなくす方法を協力して考え実行したほうが、ワークライフバランスのためには効果的である。企業は従業員の働き方の多様性を認めた管理方法を実行すべきである。性別で見方を変えるのではなく、一人一人の個性を最大限に生かせる管理をすることが重要である。女性は早く辞めるから育成に手をかけず、重要な役割体験をさせないのではなく、辞めずに働き続けたいと思える能力開発や役割体験をさせ、自己効力感を育てることが必要だ。

<総評>
日本における長時間労働が求められる現状や、価値観が企業においても、政治面とはまた違った形で男女での差がつけられていることが分かった。政治・企業どちらも長く続けることのできる女性の人材育成環境を整えることが必要不可欠である。

2023年6月29日

砂原庸介 芦谷圭祐(2019)「女性の代表と民主政治の活性化」『連合総研レポート』32巻10号p12-15

<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、政治学者の方々から書かれた女性代表(議員)の必要性である。これまでの文献の多くはフェミニスト中心であり、違った見方が必要であると考えた。また海外事例が中心となっていたため、国内・地方にも目を向けていきたい。

<内容>
日本では、性別役割分業を基本とした福祉国家の発展を背景に、特定の家族像を前提として家族・女性政策が形成されてきた。女性の社会進出を促進しうる子育て支援政策は十分でなく、待機児童問題は都心部を中心に深刻化している。保育園に入園できない場合には女性が離職するケースも珍しくない。そのため共働き世帯が増加しても、女性の就労形態は非正規雇用であることが多く、男女間の賃金格差は依然として根深い。キャリアの中断を免れたとしても、女性は暗黙に設定された「ガラスの天井」に遮られ、それ以上の昇進が叶わなくなる傾向が強い。議会には、このような問題の解決が期待されているが、国会議員の女性比率は低く、地方議員における女性議員の少なさはさらに深刻であり、町村議会では女性議員が一人だけの議会や、一人もいない議会は珍しくない。社会問題の解決が期待されるはずの議会において、女性議員の少なさはそれ自体が問題である。女性議員比率が低いということは、議員候補を選びだす広義のリクルート過程のどこかに体系的なジェンダーバイアスがあることを意味している。例としては男女間の賃金格差も影響して、立候補に必要な金銭的資源も乏しい。また男性に比べて家事労働の負担も大きく、家族からの協力も得られにくいことである。そこから女性議員が増加すれば、女性にとって好ましいように政治や政策が変化するということは、素朴に期待されやすいが議会において女性がどの程度増えれば政治が変化するのかについては議論がある。現在の日本の少なくない地方議会のように、女性議員が存在するとしても極めて少ない状況では、女性議員はお飾りとしての地位を受け入れることを求められがちで、政策過程に影響を及ぼすことが難しい。したがって女性の利益が代表されるためには、一人や二人の女性議員が参入するだけでは十分でなく、女性議員比率が一定の水準を超えなければならないと主張されてきた。しかしこれは女性の利益を無批判に想定していることが批判につながっている。仕事と家庭の両立を求める女性団体は登場しにくく、大規模な女性団体の構成メンバーはほとんどが専業主婦であるため、独身女性の利益を代表する団体も存在しにくい。利益の多様性と組織力の弱さは政治的影響力の弱さに直結し、仮に女性の代表に積極的な女性議員が存在しても、「女性の利益」はまとまった利益として委任されにくい。そのため女性議員も選好や党派性において多様性を増している。女性に影響を与える政策の多くが、福祉国家や福祉レジームの中に埋め込まれ、簡単には変更しにくくなっている。歴史的に、税制や年金制度、保育政策などが、男性稼ぎ主を中心とする家族形態を支援してきた。このような福祉国家の形成と展開には、経路依存や制度的補完性がはたらく。現行制度は一定の合理性を有しているがゆえに定着しており、すでに多くの受益層が存在するため、そもそも変化しにくいのである。したがって、議員個人の選好や行動が福祉国家を変容させるということは、理論的に想定することも難しい。女性議員の限界的な増加が福祉国家体制を変容させ、女性の利益の実現につながるという単純な仮説は成立しにくい。そのうえ女性政策の形成に貢献をしているのは女性議員だけでなく官僚や理解ある有力な男性議員などもその一人である。具体的な政策に着目するのではなく、まずは女性議員の増加は政治の活性化につながることを期待すべきである。

<総評>
女性議員の増加が必ずしも政策実現にはつながらない一方でアメリカにおける上院議員が女性の州は地方議会で女性が増加する例の通り、活性化には間違いなくつながると感じた。


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