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『PSYCHO-PASS PROVIDENCE』感想 陳腐化に繋がった原点回帰と常守朱の魅力

【ネタバレあり】

つらつらと不満点

『劇場版PSYCHO-PASS PROVIDENCE』(以下、本作)は、『PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に』とTVシリーズ3期の空白を埋める物語であり、まずその点ではしっかりと穴埋め作業は行われていたと思う。

ただ、物語の整合性が作品の面白さに繋がるわけではなく、むしろその後の展開がわかっているだけに驚きや緊張感が欠けてしまう部分があった。

また、3期に思い入れがない人間からすると、慎導たちが物語に絡むとノイズに感じる。おそらくだが、慎導たちのシーンをまるっと削除しても映画の大筋には影響ないと思う。「『恩讐の彼方に』後の常守たちの物語」として観ていると、本筋に関わっているとはいえ、3期への繋ぎというこじつけ感が拭えなかった。

「刑事物」になっていないのもマイナスだ。『PSYCHO-PASS』はなんだかんだ「刑事物」であり、捜査のプロセスと人間ドラマが魅力だと思う。

その点で本作はただ状況に翻弄されるがままで、最後に「なんやかんやアジトを見つけたらから、カチコミや!」と乱暴にまとめる。かといって「ミリタリー物」として見ても、敵勢力のピースブレイカーに全く魅力がないため、高揚感に欠ける。

『PSYCHO-PASS』では槇島というアニメ史にも残るようなキャラを生み出してしまったがゆえに、その後の敵がすべて槇島と比較される問題があるが、それでも劇場シリーズでは信念や悲哀を持った敵勢力が登場していた。しかしピースブレイカーの行動理念はどうにも曖昧で、最後には「AIに管理されればいい」とありきたりなことを言い出す。

本作は「AIと人間社会」というテーマについて原点回帰になっていると言うが、AIで10年前のことに回帰したら陳腐になるだけだ。

SFの魅力のひとつは、先の未来を見通す気付きが得られること。TVシリーズ1期はディストピアの雰囲気を纏いつつ、システム管理下の正義と犯罪を考えさせる傑作だった。

そして10年が経ち、専門家ですら予期しないスピードでAIが進化する現在、今どき中学生でも言えるような「AIに任せるのではなく共存していくのが大切」というメッセージを飛ばされても……陳腐としか言えない。

常守朱が収監された理由に痺れた

良かった点は、常守朱だろう。近年は感情の起伏が少なく、色相も曇らないことからジョーカー的な立場になっていたが、久しぶりに人間らしく喜怒哀楽を見せてくれた。

また、これまでシビュラ統治下で裁けない者たちと相対してきたからこそ法律の維持を訴える姿勢は、道理と説得感を感じさせる。

大人な登場人物が多い『PSYCHO-PASS』にあって、確かな成長を感じさせる貴重な描写だ。

そして「法律撤廃」の問題は、物語のオチである「収監の理由」に繋がる。壇上での銃撃シーンは、まさにハイライトだった。

これまで免罪体質やそれに準ずる者たちは、シビュラシステムの否定のために罪を犯してきた。常守はそれに近しい体質を持ちながら正義のために戦い続けた末、「シビュラとの共存」のために犯罪に手を染める。

この印象的な対比は、これまで10年かけて描かれてきた物語があってこそで、まだ『PSYCHO-PASS』は続いていくと感じさせてくれた。

砺波が銃口を突きつけつつ、常守を「シビュラシステムを崩壊させる魔女」と評したが、それこそ多くのファンが1期からずっと待ち望んでいる展開ではないだろうか。
※とはいえ、10年前と現代ではAIとの距離感が全く異なり、「システムからの脱却」というSF的王道展開はそれこそ陳腐化しかねない。だからこそ、システムによる統治が完全悪ではない世界を描き続けた『PSYCHO-PASS』にこそ、AIに対する全く新しいアンサーを出してほしいのだ。


これだけ深夜アニメが作り続けられるなかで、オリジナル作品として10年もコンスタントに新作を出している作品は『PSYCHO-PASS』くらいだろう。
※細く言うと『シンフォギア』『ガルパン』くらい?

作画・音響のクオリティもさすがのProduction I.Gだっただけに、4期での巻き返しを期待したいが……。とりあえず、冲方丁が絡むと明らかにクオリティが下がるので、塩谷監督・深見真脚本で統一してほしい。っていうか、本広総監督はどこいったの?

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