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『囁き記』試し読み

『囁き記』とは、武田ひか・石村まいがふたりで作った本の名前です。

私が東京に引っ越してきた四月、石村さんは神奈川での二年間の労働を終えて兵庫県に移住する準備をしていました。そういった誰にでもあるような新生活の、けれども私たちのごく個人的で、紛れもなく唯一無二の会話や時間がこの本の形をとりました。二人あわせて短歌が160首、異なる場所での生活の記録としての日記も載せています。

短歌を抜粋して試し読みをつくりました。気になった方は、手に取っていただけると幸いです。


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石村まい

石村まい自薦五首

やさしさを貸して わたしは雑草と花のつぼみを見分けられない

ノックしてもしなくてもいい扉たちをたくさんつくってきみと暮らそう

ワンピース脱ぎ捨てるときいきものの骨格あらわなる一人部屋

ゆびを見るだけでなみだがでてくるのナンをちぎれるゆびであるのに

会社では出したことない声量で頼む味噌ラーメンの替玉

武田ひかより、石村まい作品から二首

端正なものから失われる町にみんなの墓がどうしてもある

窓口で紙を渡してくれるひとののびないチーズみたいな表情


武田ひか

武田ひか自薦五首

かがやきの必要がない記憶あり白い葡萄のように置かれて

前夜祭抜けてしまえば狂うまであかるい永遠の盆踊り

朝の光も夜の光も一対の硝子の奥の眼におとずれる

折り鶴はどこに飛べるの 災いを思い出さずに過ごして長い

声変わりむかえる前の喉笛の線もうすでに悪を許さず

石村まいより、武田ひか作品から二首

きみとしか行けない場所はないけれど秋という花々の自由詩

ひとことで鎖を外す ふくらはぎ膨らむようなお昼があった


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