シュークリーム活動

いつものように、知らないマンションのエントランスでサムギョプサル女子会をしていたところ、桜子が「実は私、、、先月彼氏できました!」と絶叫した。不倫したことがある政治家縛りのしりとりが盛り上がってきたところだったのに邪魔しやがって、と思ったが私以外のみんなが「おめでとう〜!」と呼応した。これで女子会メンバー5人のうち、彼氏がいないのは私だけになってしまった。

家に帰ってすぐにマッチングアプリに登録した。職場や大学の友達の繋がりで出会いはあったのでいつかは彼氏ができると思っていたが、そろそろ自分から行動する時が来たようだ。プロフィールを入力し、どんな人がタイプかを入力しながら、好きな男性のタイプが自分でもよく分からないなと気付いた。もしマッチングしてデートしたとして、付き合う基準はなんだろう。

言葉遣い、最低限の清潔感、店員への態度、、、いろいろあるが私が重視したいのは「最低限の会話のセンス」だった。それを確かめるために、私は趣味を聞かれた際に「シュークリームの食べ歩き、シュークリーム活動です!」と言うことにした。もし、相手の男性が「シュー活ですね」などと言ったらその人と今後会うことはない。「婚活」「ヌン活」「就活」「終活」という言葉が世の中にすでにあると言うのにそれに引っ張られて「シュー活」などと言うようなセンスのない男性と一緒にいてもつまらないからだ。

7月上旬、初めて男性とマッチングしカフェに行った。私が「趣味はシュークリームの食べ歩き、シュークリーム活動です!」と言うと、男性はドヤ顔で「それ、シュー活じゃん」と言った。上手いこと言った俺天才、とでもいいたげな顔で腹が立つ。「略さないでください、シュークリーム活動です。」と言い残して帰宅した。ああいうドヤ顔野郎は他責思考がデフォルトなので何しても傷つかないだろう。次の男行ってみよう!

7月下旬、2人目の男性は雑学をベラベラ喋ってくるタイプの人だった。私が「趣味はシュークリームの食べ歩き、シュークリーム活動です!」と言うと、「じゃあロールキャベツとかも好きなんですか?あ、シュークリームのシューっていうのはフランス語でキャベツって意味なんです。」と男性は返してきた。自分の知識を喋りたいだけの人だな、と思ったので「知っとるわい。」と言い残して帰宅した。

8月上旬、3人目の男性は寡黙な人だった。趣味を聞いてこなかったので自分から、「私ね、趣味はシュークリームの食べ歩き、シュークリーム活動なんです!」と言うと、男性は「シュークリームとかけまして、、、」と言った後、80秒ほど沈黙し、「あ、じゃあ、ええと、あの、花火とときます。その心は、どちらもカワ(皮・川)がつきものです。」と言った。私は「お後がよろしいようで。」と言い残して帰宅した。

8月下旬、4人目の男性はクセのない人だった。私が「趣味はシュークリームの食べ歩き、シュークリーム活動です!」と言うと、「いいですね!ぜひともご一緒したいです!」と言われた。頭では求めていた返答のような気がするのに、内心では「あぁ、なんか物足りないな」と思ってしまった。私は何を求めてこの会話をしているのだろう。本当はエクレアの方が好きなのに。とりあえず「本当はエクレア派なんです。」と言い残して帰宅した。

帰宅したら涙が止まらなかった。私は頭の中でこんなに会話のことを考えているのに、自分の口から出る言葉はこんなにセンスがなかったのか、と絶望した。面白いことなんて言えなくていい、誰かと喋りたい。
いつもの女子会メンバーにチャットを投げた。「今日の夜、話せないかな?甲子園でサヨナラ負けした高校名しりとりでもしない?」
すると桜子から「いいよ!私の家から歩いて10分のところにめっちゃ綺麗なマンション見つけたからそこ集合で!ホットプレート持って行くね〜!」と返信が来た。
言葉を投げると言葉が返ってくる。これほど嬉しいことはない。どれだけ浅くても意味がなくてもいいのだ。それはまるでシュークリームの生地とクリームのように、いや、カスタードとホイップのように、いや、なんていうかその「軽くても大丈夫」的なことを言いたかったんだけど、まあそんなのは言えなくてもいいと言うことを言いたかったので問題ない。私は問題ない!




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