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「コンビニ人間」村田沙耶香著を読んで。

コンビニ人間はハッピーエンドだ。
読んだ人によって意見は分かれる作品だろうが、わたしは完全無欠なほどにハッピーエンドだと思った。

映画「スパイダーマン」の冒頭でこんな台詞がある。
「あらゆる物語のテーマは『自分は誰なのか』である」

初めて映画を見てから数年、あのセリフをこれ以上ないほど体現した作品だと思う。

この話は、人間に擬態しようと苦労しているコンビニ店員の物語だ。彼女をサイコパスと呼ぶかソシオパスと呼ぶか、はたまたそれ以外の適切な呼び方があるのかはわからない。

ただ、彼女の不幸は、そういった名称を適切に付け、生きやすい道標を教えてくれる誰かがいなかったことだろう。

主人公は、コンビニ店員としての才能に呪われ祝福されてるお姉さんである。

途中から出てくる男キャラの白羽さんは、清々しいまでのクズでいっそ清涼感すら感じられた。ここまで突き抜けていると、逆に不快感を感じにくいのだな、という事実には目から鱗が落ちるようだった。

主人公はぶっ飛んでいる。
主人公は人間がわからない。
主人公は多分自分のこともよくわからない。
自分を不幸だと思ってはいないが、いかんせん周囲のノイズがとても大きい世界に生きている。生きざるを得ない。
案外無人島一人きりであったのなら、彼女はここまで生きづらさを感じていなかっただろう。

冒頭のエピソードでこんなものがある。
主人公は、道端に落ちている雀の死骸を母親のところに持っていき「焼いて食べよう」と言った。
父が焼き鳥を美味しそうに食べているのを知っていたからだ。
しかし彼女の母は、娘の言動にギョッとしつつ、「お墓を作ってあげようね」と提案する。

そのこと自体はまだ分かるけれど、主人公はその後、お墓を作った事に疑問を持つ。

「焼き鳥は良くて雀の死骸を埋葬するのは何故か。そのくせ墓に備えるためにわざわざ生きている花々を摘んで殺すのは何故か」

憤りや悲しみを覚えたわけではなく、ただただ主人公は疑問なのだ。なぜなのか。
わたしも書いていて思ったが、その疑問の答えを言語化して説明するのはとても難しいことだなと思った。

主人公は問いかけ続ける。

「なぜ?」
「なぜ?」
「なぜ?」

怒っているわけではない。
本当に、わからないからたずねる。

「なぜ?」と。

しかし彼女に答えてくれる人は少ない。
答えをくれる人もいるにはいるが、どいつもこいつも実に強烈な答えをぶちかましてくる。っょぃ。つよつよだ。

けれど、主人公は最後に自ら答えを見つけ出す。
ずっとわからずに彷徨い続けた彼女は、答えを得るのだ。

だからきっと、彼女はこれから先、ずっと幸福な夜を得続けるだろう。

だから私は、これ以上ないハッピーエンドだなと思ったのだ。


最高にサイコで読後感がすごくてすごいので読んで欲しい。すごいから。すごいからすごいんです。

例えて言うならなんでその新商品出しちゃったんですかって問い詰めたくなるコンビニ新商品を試食した後のような気分になる。


そんなパンチの効いている小説だけど物凄く読みやすい文体だったので2時間くらいで読める。
おすすめである。

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