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学校に行かないという選択。「ガトーショコラと経験泥棒。」

眠りに就く前に、長男が言う。

「明日、ケーキ焼くの忘れずに言って。」
「冷蔵庫のホワイトボードに書いておいたら?」
「あぁ、そうだね。そしたらお母さんが忘れないもんね。」

忘れないようにするのは、あくまで私なのか?と笑ってしまった。

長男が、ケーキを焼く。
彼が初めてひとりでケーキを焼いたのは、いつだっただろうか。

我が家では、自分の誕生日には、自分でスポンジにデコレーションをする。
長男が4歳の頃からか、なんとなくそんな流れになり、長男がやるから二男も。二男がやるから末娘も、と、自分の誕生日にはケーキを飾り付ける。

ケーキのスポンジだけ、私が焼き、豆腐クリームも作り、苺などを用意しておけば、子どもたちは自分の好きなようにデコレーションする。その際に「こうしたらいいんじゃない?」といった口出しは一切しない。

絵を描くように、思い思いにデコレーションしていく様子は興味深いし、三人三様のケーキが出来上がるのが楽しみでもある。

「マフィンのレシピを教えて」

そう長男から言われたのは、小学生1年生の時だっただろうか。
自分のレシピブックをつくって、私のレシピをひらがなでメモしていた。
今、見てみると、「これはどういう意味だろう?」というメモもあるが、それはそれで、クスッと笑ってしまう。

そこから、いつの間にか、チャーハンをご飯8合分作ったり、気が向けば夕飯の支度をしてくれたり、おやつにパンケーキを焼いて、幼稚園から帰ってくる私や末娘を迎えてくれるようになった。

さらに、自分でスポンジを焼けるようになり、豆腐クリームも自分で作ることができるようになり、去年は、「友達の誕生日にプレゼントしたいから、自分でガトーショコラを焼いてみたいから教えて。」というので、最小限だがサポートしつつ作ることになった。

そして、今回は、ひとりでガトーショコラを焼く。
友人宅に持っていくのは夕方。それまでに焼かなくてはならない。

焼き立てだと、崩れやすいだろうなぁ、そろそろ焼き始めないと間に合わないんじゃないかなぁ・・・時計が気になる。

その気持ちが湧き上がるのは、ただ単に私が今まで、たくさんのケーキを焼き、かかる時間や手間、焼いた後のケーキの状態を〈自分の経験〉として、知っているからだ。

私に出来るのは、何も言わず、黙っていること。

もし、間に合わないことがあっても、それは失敗ではなく、学び。
私が口を出して、彼の学びを奪ってはならないのだ。

大人は、自分が経験しているが故に、子どもの経験を奪ってしまいがちなのだと思う。

長男が5歳くらいのときだったか、夫が何かを手伝おうとしたら、「経験泥棒しないで!」と言ったことがあった。


そう、子どもの経験泥棒と時間泥棒は重罪なのだ。

長男は、自分のペースで午前中には、勉強や生き物の世話をしているようだった。そして、お昼過ぎた頃、「そろそろケーキ焼かないと間に合わないかなぁ。」と時計とにらめっこし、ケーキを焼く準備を始めた。

レシピを見ながら、わからないことがあると聞いてくるが、その時以外は、私は私で他のことに手と頭を動かす。敢えてキッチンには立たない。

材料を混ぜ合わせ、型に流し込み、オーブンに入れると、ささっと使ったものを洗って片付ける。「焼き上がったら教えて。」そういって、2階の自室に戻っていく長男。

リビンクは、時間が経つにつれ、カカオの甘い香りに包まれていく。

末娘は、「いい匂い!食べたい!食べたい!」を連呼している。「トモダチのプレゼントのケーキだからねぇ。みんなの分はあるかなぁ。」という会話を何度も繰り返しているうちに、ケーキは焼き上がった。

オーブンを覗いて、長男に焼き上がりを知らせる。
ふんわりといい感じ。

焼き上がったケーキは、2台。
「これは、私も食べていいやつ?!」と目を輝かせて長男に尋ねる末娘。
ニヤニヤしながら、「違うよ~両方もっていくんだから。」とツンデレ長男。

「どうせ焼くなら、みんなも食べるでしょ。」と倍量で作っていたのを、母は知っている。

甘い香りに包まれながら、経験泥棒しなかっただろうか?と自分の言動をなぞり、小さく息を吐く私だった。

長男の焼いたガトーショコラ。

ヘッダーは、みんなのフォトギャラリー・えいみさんの水彩画をお借りしました♪ありがとうございます♪

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