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学校に行かないという選択。「リカバリーする力が、失敗を経験へと書き換えていく。」

この所のまとまった降雪で、子どもたちの雪あそびが本格的に盛り上がっている。

一方、雪があまり積もらず、気温が低い時には、子どもたちの雪あそびへの情熱に、なかなか火が点かないこともある。二男が、冬休み前に学校からいただいた教材の中に「版画」があることを思い出したのは、そんな日のことだった。 

「版画、やろうかな~」と画材を探し始めた。

私が子どもの頃の紙版画と言えば、厚紙を切り、台紙に貼り付け、黒いインクを乗せ、ローラーで均一に伸ばしてから、紙を重ねてバレンでそっとこすって写し取る、というやり方だった。

インクは伸びないし、着け過ぎると紙が切れたり、うまく版が写し取れず、何度も調整した記憶がある。

手や洋服に付いたインクはなかなか取れず、工作の授業が終わる頃には、私だけでなく、周りのクラスメイトも手を真っ黒にしていた。

多色刷りするには、いつも版を作って重ねて行かなくてはならない。私が多色刷りを経験したのは、自分で「プリントゴッコ」という年賀状やポストカードを作ることができる家庭用シルクスクリーンのセットを購入した時だったと思う。

しかし、時は流れ、学校ではこのような紙版画が使われていると知って、驚いた。

学校からいただいた版画教材。「8色タックしき はんが」

8色インクが乗っている、折り紙のようなシール式の「いろタック」なるシール式の色紙が入っている。多色刷りが一回でできてしまうのだ。凄い。
自分でどんなデザインにするかを考え、シールの裏に下書きし、切り取って貼る。色を重ねても混ざらないようだ。

二男は、タックシールの裏に下書きをし、版画にするレイアウトを感がえていろようだった。念の為、〈版画は左右対称になる〉ということだけ、話すと、「知ってるから、大丈夫だよ。」とのこと。

そうして、パーツを色々切り取り、台紙に並べる段階になって、

「ああああぁ~!!!!!!」

という声がした。何が起きたのだろうかと、二男の方に視線を向けると、しょんぼりした様子。

「どうしたの?」と尋ねると、
「向きを間違えた・・・ティラノサウルスとステゴサウルスを向かい合うようにしたかったのに、同じ方向になっちゃった・・・」

なるほど。彼の中では、向い合せのデザインのイメージをしていたのに、おそらく描きやすい方向で無意識に描いているので、2頭の恐竜は同じ方向を向いてしまったのだろう。

「う~・・・・」と唸る二男。

こんな時、あまりアドバイスをすると、余計な事と感じることもある。二男は特に、その手のアドバイスを好まない。自分の好きな様にしたいという気持ちが大きいようだ。

「手伝えることがあったら、言ってね。」とだけ言って様子を見る。

二男は、暫くの間、溜息をついたり、唸ったりしていたが、急に、「あ!そうだ!」と叫ぶと、作業を再開した。漫画などで描かれる、頭の中にピカッと「!(エクスクラメーションマーク)」が浮かびあがったのだろう。

その後、黙々と作業を続け、
「お母さん、出来たから、印刷する~」と版が出来上がったものを見せてくれた。

彼は、ステゴサウルスの方向をティラノサウルスと向かい合わせる為に、どの様にしたのだろうか。

版を見せてもらうと、ステゴサウルスの身体の向きはそのままで、首だけが、ティラノサウルスの方向を向いていた。

そういうやり方もあるんだ!

私は驚いた。自分であれば、おそらく、向きを変えて一から作り直しただろう。そして、「あ~あ。失敗しちゃったから、またやり直しだ。」と思っていたと思う。

二男に、「どうやってこういう向きにしたの?」と尋ねると、
「あのね、ステゴサウルスの首のところをきって、上と下を逆さまにして、目を貼り直した。それで、ちょっとずらして、振り返っているみたいにしてみたんだ。」

紙のインクが付いている面は片面だけなので、首を折り曲げて、振り返るようにしてしまったら、インクの乗っていない面が表になってしまう。そこで、切り取ったらしいのだ。

なかなか大胆なやり方だ。

私であれば、向きを間違えたことは「失敗」としていただろう。

しかし、二男は、同じ物を作り直すのが嫌だったのかもしれないが、「どうしたら、自分の思った構図に近づけることができるだろうか」と懸命に考えたのだと思う。

これは、失敗ではない。

二男のリカバリーする力が、思いがけなく起きた出来事を失敗ではなく、「経験」に変えたのだ。

印刷する紙に水を通し、余計な水分を新聞紙で吸い取り、版にそっと乗せる。〈ばれん〉は家には無いので、二男の手に持ちやすい大きさの木片に手ぬぐいを巻きつけて、〈ばれん〉の代わりにした。

木片と手ぬぐいの〈ばれん〉で、
丁寧に擦ってうつしとる。


力を入れ過ぎず、でも、しっかりと版を写し取るのは難しい。でも、それも、何度もやってみてわかるってくることだろう。

二男は、紙が破れないように優しく、でも、インクがしっかりうつるように気を付けながら、隅々を木片で撫でていた。版が剥がれない様に、そっとそっと印刷した紙を剥がしていく。

版をうつしとった紙をそっと離していきます。

こうして、二男の版画は完成したのだった。



リカバリーされたステゴサウルスの首は、振り返った感じが出ていると思う。

二男本人は、「あれ?ここ、思ったより薄かったな。」など、自分の想像とは違った仕上がりの部分もあったようだが、そこが版画の面白さではないだろうか。

子どもたちは、問題が起きた時に、どうしたらリカバリー出来るかを考え、試行錯誤し、工夫を重ね、その経験を本当の意味で〈自分のもの〉としていくことが出来るのだと思う。

そして思う。

私にできることは、彼らの学びの邪魔をしないことだけなのだと。









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