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髪からコーヒーのにおいがした

音楽を聴いて蘇る思い出があるように、匂いで、香りで思い出すシーンもある。

気が付いたらそこにいた的な感じで行ってしまうのが、そのカフェだった。コーヒーの香りが、二階のホコリっぽい隅っこにまで染みついている。昼間は学生で若く明るく、夜はまばらに暗く暖かく。そんなカフェ。

そのカフェに出向いた夜のシャワーは、いつだってコーヒーの匂いがしていた。

頑張ってみた証、好きな時間を過ごした証にその匂いを感じた夜は、心なしかぐっすり眠れた。いつかそのカフェでうたた寝してしまった気持ちの良い5分間みたいぐっすり。

小さな幸せを見つけては日記の見開きに留めておいた。その中にあった「髪からコーヒーのにおいがした」という数か月前の自分からの報告。

たった一文で思い出す匂いと景色。

わくわくしながら渡る店の前の横断歩道。

時間帯によって変わって見えるような外から見える店内。

顔見知りのアメリカンな店員さん。

トイレの前に空いてた穴。

人の目を気にしながら踏んだ、軋みすぎる階段。

地元アーティストの歌にのせて横に揺れる客たち。

テスト期間に溢れる学生。

「クローズ作業中だけど居ていいよ」と、店員さんの言葉。

帰り道の満足気な私。

学生の町メノモニーの人気カフェ。留学生活の私は苦いコーヒーに甘やかされて、甘えていた。なんとなく、そこに行けば大丈夫な気がしていた。

だからだろうか。今でもスタバで長居した日に髪からコーヒーの匂いがすると、なんか大丈夫な気がしてくる。


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