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タバコ喫茶と店主の付け合せ

初めて行く喫茶店。お店に入った理由はごくごく普通。「お腹空いたな」「美味しそうなとこ見つけた」そんな感じ。

入店したら店内満席ですと言われた。カウンターでよければどうぞとの事で、わざとかのようにお洒落に少し散らかったカウンターに陣取った。店主とお姐さん2人で満席の店をまわし忙しそうだったので、オーダーせずに待っていた。すると、

店主「メシ食うか?」「ハンバーグやろ?」

え!?

「メシ食うか?」のその常連相手な感じに驚いた。また、ハンバーグ狙いの心の内を読まれたようで「ハンバーグやろ?」にもさらに驚いた。

お手隙の時、店主とひとことふたこと話した内容から何となく思った。

店主、おそらくお客さんが携帯触るの苦手だ。店主、おそらくインスタ映え苦手だ。店主、おそらく若者たちがコーヒーも飲まずにずっとお喋りしてるの苦手だ。

だから、携帯でハンバーグセットの写真を撮った私と店の雰囲気を撮った私と若者な私は、今のとこ苦手だろうと緊張した。

撮って「しまった」ハンバーグセット

途中新聞社の方が来店し、店主と会話した後にすぐ帰っていった。それが起承転結の「起」となり、話の流れで新聞の話になった。過去に店主がスクラップした新聞たちを見せてくれた。いきなり目の前にスっと置いてもちろん補足説明は無し。なので、数行読み慣れるまではまた緊張した。

なるべく理解したかった。合計で5つの短い記事を読んだ。(目の前に並べてるある皿の上に次々に新聞のスクラップを出してくる店主)

1つ目は店主のお知り合いの方がアメリカ政権について書いた記事。店主は実際に足を運んだ記事とそうでない記事は全然目線が違う とコメントを残した。

2つ目は建築家 安藤忠雄氏の記事。小見出ししか覚えてない訳は、小見出しが「若者はSNSを使い過ぎだ」みたいな感じだったから。

ほら!!やっぱ苦手やん!嫌いやん!すみません!!!

と猛省。安藤氏からのアドバイスは、「携帯を使うことを半分にしろ」といった感じだった。(こんなに強い言い方では無い)つまり、調べたりなんだりに携帯を使う時間を半分にして、いつもの半分は自分でどうにかしろ!と言っていた。(こんなに強い言い方では無い)

読み終えた私に店主がやっと補足説明をしてくれた。建築家 安藤忠雄が手がけたた美術館の裏話など。そんな美術館を人目見に行ってみたいんだと言っていた。私もそんなとこに行ってみたいと思わされるプレゼンを聞いたみたいだった。

SNSには触れてこなくて安心した自分がいた(笑)

ここら辺で、言葉の端々から考えて、店主はおそらく相当な知識人だと思い始めた。

3つ目の記事はたしか「男の絆」について書かれており、離れるべき友達・離れてはならない友達について昔のかたい言葉で書かれていた。

ほぼ忘れた。読み終えたあと「難しい、、、」と言葉を添えて店主に返した。「なんが難しいか」と真剣なコメントをくれた。あ、1つ思い出した。「ものをくれる友だち」は離れてはならない友達らしい。なんとなく深そうだが、理解しようとはしなかった。

4つ目と5つ目の記事はガザの人が書いた日記だった。

ここで私が1月に池上彰氏の公演に行って聞いたことを少し話したことから、話は店主ご自身の話に転んだ。店主はジャーナリズムの道に進みたかったという話をしてくれた。

やはりそうか、知識人。

そこからの話はもう全くお堅いものではなく、狭い範囲での同郷だったり、他にも共通項があったので楽しい話で盛り上がった。店主もやっと笑顔が見えてきて緊張はいよいよとけはじめた。

そうそう、ハンバーグを食べ終わったあたりでセットのコーヒーを出してくれた。

店主「砂糖いれる?」
私「ブラックで(ニコッ)」
店主「おー、大人かこんにゃろ」
(コーヒーを出してくれる)
店主「砂糖10本くらいはいれると思ったよ」

こんにゃろ??こんにゃろ?だと?

22年と1ヶ月くらい生きて初めて言われた台詞。そして、なんか言われてみたかったかもしれない台詞。そしてそして、実際言われてみてなんか嬉しい台詞。

「コノヤロー」ではなく、「こんにゃろ」はドラマ用の台詞だと思ってたので、現実にあるととにかくイケてた。

※店主イケおじだったし

その後、店は一段落した。店主は40、50代のお姐さんに「水曜なのに忙しかったな〜今日は。休め」と労りの言葉をかけた。「一服せんか」とまた喫煙者には最高であろう労りの言葉をかけた。

店主「この人はね、一服させんとカウンターの下で見えんところで蹴るとやけんね」
お姐さん「しませんよそんなことー」

ほんとうにそんなことをするような人では確実に無いお姐さんなので、3人で笑った。

私の席とひとつとばしでカウンターに並び、お姐さんはタバコを吸い始めた。そんなお姐さんに店主は、いつ準備したのか分からないサイフォン式コーヒーを今日イチかっこよく出した。お姐さんも今日イチ幸せそうな「ありがとうございます」を返した。

店主がカウンターを離れた時、お姐さんと少し話した。
お姐さん「すごいやろ?」(遠くの店主の方見てヒソヒソと)
私「すごいです」
お姐さん「私も言えないようなことをお客さんに言うとよ」
私「私もこんにゃろって言われました」「でも愛がありますよね」
お姐さん「そう、あるよね、愛があるよね。分かる」
初対面・初会話で初対面店主について意気投合した不思議な午後2時だった。

昼だったけど、朝ドラかよ。

私のこれまでやこれからの話をした時、教育の話から「educationの語源知っとるか」と聞かれた。恥ずかしながら分かりませんと答えた私に「次までの宿題や」と言った。

これも、なんかドラマの台詞みたいで嬉しかった。

そろそろ電車の時間があるので、、、と1000円を渡して「また来ます」と残して帰ろうとした時、

店主「9月までおるんやろ?あと1回は来んばたい」
私「いや、何回も来ますよ!」
店主「それは困る」(笑顔)

すき、幸せな会話。

ドアを開けて店を出ようとした瞬間、「ちょっとまて」とこれまた渋い感じで言われた。「うちのドリップコーヒー」「お父さんにお湯を注ぐだけで飲めますって言わんね」とドリップコーヒーをくれた。

なんだその追伸、やっぱりイケてるな。

店を出て街を歩く。どう考えてもあの78歳だという店主は愛があった。

あの表情と言葉と行動の裏に愛があった。いや、もはや表が愛なのかもしれない。

階段に電気工事が入りしばらく電気がつかないと業者が伝えにきた。私にしか聞こえない声で「はよ言え」と呟いたが、その後帰っていく全てのお客さんに「ごめんけど階段暗いけん気をつけて」と言っていた。

入口に立て掛けられた傘には、
『急な雨の時に 使って下さい.』と2行の張り紙。お世辞にも綺麗とは言えない字。

愛愛傘

ハンバーグについてきたスープ(これ最高に美味い)と白ご飯のお椀が空になると店長によってそそくさとさげられた。食後に出されるコーヒーを用意するためだと分かる。それでもひとこと「ごめんね 慌ただしくして ゆっくりしてね」と添えた。

「ブラックで」とカッコつけたようになってしまい「何も要りません」と答えればよかったと小さな後悔をした私にも「こんにゃろ」と言ってくれた(笑)

お姐さんのタバコ休憩だって、自分のひと息休憩は棚に上げている。

今日は若い女性が長く滞在すると少し不満げに教えてくれた店主は「(昼の時間は席を空けて)夜8時近くまで働く銀行員にいっぱい食わせてやりたいんだ」と言った。

愛だ。

ハンバーグセットの付け合せのごぼうサラダときゅうりの漬物はもはやメインに劣らない旨さがあった。

それは、愛のある店主が作った付け合せ感が満載だった。


※一言一句その通りではありませんが、記憶の中の店主は数時間前そう言ってました

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