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道を作った!オムライスの王様@銀座 煉瓦亭

世の中の大半の料理には、色々な流派がある。
サンドイッチなら三角に切るか四角に切るか。
目玉焼きにはソースか醤油か。
卵焼きは甘いかしょっぱいか。

中でもオムライスは、まず卵で包むか卵を乗せるかで分かれる。
その後、何味のソースをかけるかで、大抵はケチャップかデミグラスの2択。
この2×2の4通りで、世の中のオムライスの8割ぐらいをカバーしているのではないでしょうか。(チキンライスの作り方は無限通りありそうなので一旦忘れる)
中でも王道と言われるのは、包む×ケチャップのパターン。

これが王道というのであれば、王の道を作った張本人、王様がいるはず。
そんな王様は、どうやら銀座にいるらしい。
そう知ったのはもう何年も前だった。
けれど、なかなか足を運ぶ機会がなかった。


先日、とあるきっかけをいただいたので、このお店のオムライスをエピソードにしたいと思い、ついに1人での訪問を決意。
仕事を終えて銀座に直行。
いや、終わりの2時間ぐらいは、正直言って私はオムライスのことしか考えていなかったので、「終えた」のではなく「終わったことにした」というのが正しい。


向かったのは、銀座にある「煉瓦亭」という洋食屋さん。
銀座の大通りの1本裏にある、レトロな雰囲気溢れる外観。
中の様子がほぼ見えないので、1人で入るのにはちょっと勇気がいる。
いつも通りなら多分、全然そのお店が目的地じゃないフリをしながら2、3回そのお店の前を通って、「ヨシ!」と決意して入っていただろう。
でも、この日は堂々と1人でドアを開けざるを得なかった。
なぜなら、店先には先にお1人で並んでいるサラリーマンの方がいたから。

「仕事終わりに1人で来るぐらいだから、きっと食いしん坊仲間に違いない!」と勝手にそのおじさんと私との心の距離を詰め、意気揚々と後ろに並んでいたのですが、そのおじさんは優しくこう声をかけてくれました。
「お一人ですか?僕、待ち合わせしているので、お先にどうぞ。お一人なら、多分すぐ入れると思います。」
なんと。
「ご親切にありがとうございます。」
そう落ち着きはらってお礼をしたものの、心の中はこの急展開にドキドキしてきた。お店の列に並んでいて店員さんに招き入れられるのと、入ったことのない空間に自分で足を踏み入れるのとでは、緊張感が全く違うというものである。
ずーっと来たかったお店。高鳴る胸の鼓動を抑え、落ち着いた仕事帰り中堅OLのフリをしながらその扉を開けた。

店員さんから、「お一人ですか?2階へどうぞ」と案内される。
昭和の建物ってすごく階段が急だと思うのですが、このお店も例に漏れず、祖父母の家を彷彿とさせる急角度。
よっこらしょと登った先には、それこそ祖父母の家のような、どこか懐かしい温かみのある空間が広がっていた。
白いクロスとビニールのかかったテーブルに、木の椅子。
クリーム色にくすんだ大きなエアコンもある。
そして、スーツ姿のおじいさんやご年配の夫婦など、店内の平均年齢は高めで非常に落ち着いている。この空気感が最高だ。

席に案内されて、メニューを眺める。
実は、このお店にはオムライスが2種類ある。
「元祖オムライス」と、「明治誕生オムライス」で、オムライスの原型と言えるのは「元祖オムライス」。今回のお目当ては、「明治誕生オムライス」
元祖の方は、簡単に言えばご飯入りオムレツ。
元々は賄いとして練習を兼ねてオムレツを作り、ご飯と一緒に食べていたことから、一緒にしては?ということで誕生したメニューだそう。
そしてその一年ほど後にできたのが、「明治誕生オムライス」。
初代の方が、仲の良い何軒かの洋食屋さんの店主たちと‟銀座らしいオリジナルメニューを作りたい!”と、夢を語ったことで生まれたメニューのよう。

この煉瓦亭さんは、オムライス以外にも、ポークカツレツも発祥。
どちらも注文したい欲に駆られたものの、明治誕生オムライスを単品でオーダー。私が井の頭五郎さんなら、散々迷った挙句に「えぇ〜〜い、!」と両方注文していたに違いない。
今度は友達を引き連れてこよう。

1人でレストランへ行くと、料理を待っている間は大抵は考え事をしているけれど、他のテーブルの会話や注文がどうしても耳に入る。
オムライスとポークカツレツがやっぱり圧倒的人気なんだなぁと思ったり、「そんなメニューもあるの!」「うわぁ、その組み合わせは最高すぎる」などと考えていたら、待ちに待ったオムライスがついに到着した。

惚れ惚れするように滑らかで美しいビジュアル。
後に王道オムライスと呼ばれるこのスタイルを最初に生み出した、まさにKing of オムライスがこの、オムライス。
真ん中のトマトソースの赤色が、とても鮮やかでこちらの食欲をそそる。

スプーンを入れると、外側はしっかりしていて、スプーン入れた時にぱりっと卵が割れる。中は言わずもがなふわふわとろり。外側のシンプルな装いからは想像がつかないほどに、魅惑的な黄金色の輝きを放っている。
私はオムライスを食べる瞬間の中で、この、最初のスプーンを入れる瞬間がとにかく好きだ。
お皿の上に張り詰めた緊張が、パッと解ける感じがする。
必ず端の卵だけゾーンから割って食べ始めて、卵の美しさを楽しむのが私流の食べ方。
料理が到着するや否や、オムライスのことはろくに見つめず、ずぶっとスプーンを入刀してパクパク食べ始める人を前にすると、「この美しさちゃんと見た!?もっと楽しんで!」と余計なお節介をかけたくなるほど。
料理が冷めないのであれば、この断面をしばらくは眺めていたい。
この美しい断面を眺めれば、私はオムライスにより得られる癒し効果の大半を既に獲得したも同然だ。

卵の味わい自体は、バターが強すぎず、卵のまろやかなコクを感じる優しい味わい。オムだけでも既に十分美味しいのだけれど、卵だけの端を楽しんだ後はいよいよオム+ライス。ここではチキンライスではなく、挽肉・玉ねぎ・マッシュルームを炒めたもので、味付けのベースもお醤油だとか。
和風のケチャップライスは、ホッとする味わい。
卵もご飯もすごく優しい味わいだからこそ、真ん中のトマトソースがとても際立つ。しっかりと酸味が効いていて、濃いトマトの味わいがあるパキっとした味のケチャップだ。
卵たっぷりめにしてみたり、ソースをスプーンの先にたっぷり乗せたり、卵の表面に塗ってから口に入れてみたり、、、。
ケチャップの酸味と鼻を抜ける香り、コクのあるまろやかでとろふわな卵、そしてあまじょっぱいライスというこの3つのパーツを、自分の好みの配分にして食べるのが堪らなく楽しい。

気がついたらあっという間に最後の一口に。
食べるのが惜しいと思いつつ、口に運んでゆっくりとその余韻を味わった。
このオムライスを食べた人は皆虜になってしまうのは間違いないだろう。
オムライスがどこでも食べれるものではなかった時代にはなおさら。

私たちが日頃王道オムライスと思うオムライスはこのお店から始まり、色々な作り方・流派はあれど、1つの正解・目指すべき姿を世に示し続けてきたのがこのお店。
全ての道はローマに通ず、という諺があるように、全てのオムライスは(実は)煉瓦亭に通ず。ということで。
今度は他にもたくさん食べたいので複数人で行こうかと思いつつ、1人で味に集中できる時間も悪くないから、1品ずつ制覇していくのも楽しそうだな。


とても美味しかったです。ご馳走様でした。

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