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短編小説Vol.27「善魔とは」

宗太と優吾は2年生になって、初めて同じクラスになり、それまで共通の友達は居たものの、話したことはほとんどなく、お互い印象は薄いものであった。

2年生の清水寺への遠足。2人は、たまたま同じ班になって、寺を回ることになる。これと言って興味があるわけではなさそうな、優吾は
「ここからの眺め綺麗だね」「落ちら死ぬかな」
と、通り一遍な感想を宗太に話した。

そこまでは全く違和感がなかった。

が、その遠足をきっかけに2人の距離が近くなるにつれて、宗太は優吾に対して、自分とは毛色が違う人間だなと感じるようになる。

優吾の考え方、金銭感覚、人への接し方、思想など、宗太のそれとは全く異なるものであった。

ある日、宗太と優吾は他の友達数人と河原町で遊ぶために昼過ぎに集合する約束をする。
宗太は、気っきりした性格からか、集合時間の10分前に着き、優吾を待っていた。
が、集合時間になっても優吾は、現れない。さらに待てども、なかなか現れないので電話をかけてみたが、一向に出ない。
30分以上待つ寛容性を持ち合わせていなかった宗太は、優吾との待合場所を離れて、他の仲間たちが集まっているビリヤード場へと足を向けた。
約束を簡単に破る人間がつくづく嫌いであり、前々から優吾に対して、良い感情を持っていなかった宗太の心の中は、決して穏やかなものでは有り無しかった。

いつものビリヤード場へ着くと、すでに仲間が3人集まり、無駄に大きな声で騒ぎながら、球を打っていた。
3人は宗太が現れたことを見つけると、慌ててゲームを辞め、宗太も含めた新しいゲームを始めた。そのことを宗太は全くの違和感を覚えることもなく、ただ無意識に当たり前の心地のよいものとして受け取った。

それから3ゲーム程を終えた後、優吾が肩で息をしながら現れて、宗太に全力で謝罪した。が、一方の宗太は、長時間待たされたことへの怒りを全く消化できておらず、それを全力で優吾にぶつけた。ただ側から見ていると、宗太が言っていることには理があり、優吾の行動は間違っていように見えた。
他の3人は必要以上に険しい宗太の態度をただ優しく宥め続けて、ようやく2人のいざこざは収まったように見えた。

それから5人はすぐに解散し、それ以降2人は全く一言も話をしなくなった。

ただ注釈を一つ加えておくとするならば、優吾が遅刻したのは、寝坊や電車の遅延などではなく、持病が悪化し、その診断が思いの外長引いたためであった。また携帯も診断中のため使うことができなかったのである。

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