岡崎祐大

22歳。

岡崎祐大

22歳。

最近の記事

短編小説Vol.30「残された光」

春の光が公園を温かく照らす中、悠真はベンチに座り、心臓の鼓動を感じながら彩芽を待っていた。 公園は二人にとって特別な場所で、幼い頃から数え切れないほどの思い出が詰まっていた。 今日、悠真はこれまでの友情を超える新たな一歩を踏み出そうとしていた。 「彩芽にどう伝えようか…」悠真は緊張で何度も言葉を繰り返していた。 彼女に対する気持ちは日に日に強くなり、もはや隠し続けることはできないと感じていた。 だが、その重要な瞬間の直前に、運命は残酷ないたずらを仕掛けた。 悠真が彩芽を待

    • 短編小説Vol.29「校長挨拶」

      死に物狂いでぶつかった受験戦争も終わりを告げ、その頃とは打って変わって全く何にもやる気が起きなくなかった圭介の姿が、大学の講堂入り口にあった。周りを見渡しても知る人は全く居らず、一抹の不安を抱きつつながら、中へと進んでいった。 適当な席を見つけて、着席し暫くすると校長先生からの言葉で式は始まった。これまでの経験からして退屈であることがほとんどであった校長挨拶であるが、今回のそれは全く異なるものであった。 「青年が1人の社会人と生きるには全く別個の現実がある。それは現在青年の

      • 短編小説Vol.28「苦い花火」

        圭吾のさくらに対する感情は、台所に放置された果物のように少しずつ腐敗を進め、決して頂けるものではなくなっていた。 それは、さくらの感情にも感染して腐敗をもたらし始め、2人の関係は修復不可能なものになる寸前のところまで来ていたのである。さくらの感情も腐敗し始めたのは、圭吾がその感情を心の中にだけ留めておくのをやめて、全くの躊躇なくさくらに漏らしてしまった、8月の花火大会の日のことであった。 その日は待ちに待った花火大会であり、夏休みに入ったばかりの2人が久しぶりに再開する日で

        • 短編小説Vol.27「善魔とは」

          宗太と優吾は2年生になって、初めて同じクラスになり、それまで共通の友達は居たものの、話したことはほとんどなく、お互い印象は薄いものであった。 2年生の清水寺への遠足。2人は、たまたま同じ班になって、寺を回ることになる。これと言って興味があるわけではなさそうな、優吾は 「ここからの眺め綺麗だね」「落ちら死ぬかな」 と、通り一遍な感想を宗太に話した。 そこまでは全く違和感がなかった。 が、その遠足をきっかけに2人の距離が近くなるにつれて、宗太は優吾に対して、自分とは毛色が違

        短編小説Vol.30「残された光」

          短編小説Vol.26「こんな世の中でこそ、反戦を謳わない」

          去年の苦い思い出を掻き立てるように蝉が騒ぎ始めた頃、1年前と変わったことは、俺たちの聖域を我が物顔で畜生が闊歩し始めたことと、他人の価値基準でしか生きられないと証明された大人が跋扈し始めたくらいであった。 去年の悪夢の真夏に、典彦の中にいた神は観念的に殺された。 神は国民を熱狂させ、一人一人に生を強烈に印象付ける大変ありがたい存在であった。 それがたったの1日で変質し、神は存在しないのだと人々はどこには存在しない誰かに迎合し始めた。 「私たちが行ってきたことは間違いだった」「

          短編小説Vol.26「こんな世の中でこそ、反戦を謳わない」

          短編小説Vol.25「仮染しかない世の中で」

          ある年の9月、進は約1ヶ月ぶりに学校を訪れた。ここ1ヶ月は敗戦のせいで学校どころではなく、久しぶりに学校に行けることが嬉しかった。 校門、校庭と通り、下駄箱で靴を脱いで、教室がある2階へと上がった。久しぶりに訪れた校舎はどこか小さいように感じられ、これまでに見ていたそれとは全く異なるもののようにさえ感じられた。 鐘が鳴り、先生が教室に入ってきた。手には何ももっておらず、開口一番「今日は授業はしない!官僚になるために自習に励みなさい」とだけ言って、教室を出ていた。 進は唖然

          短編小説Vol.25「仮染しかない世の中で」

          短編小説Vol.24「温泉街の一族」

          大学の卒業式も終わり、新卒入社があと1週間に迫った勇真は、貯めていたお金もほとんど底をつき、派手に遊ぶことも出来なくなったので、電車で1時間半ほどの温泉街でゆっくりしようと思い立った。 早速その日に予約を取り、荷造りをして1人で温泉街へと向かう。山手線に乗り込み、東海道本線に乗り換えて、電車に揺られること1時間半、案外すぐに目的地に着いた。 勇真がそこに着いてまず思ったことは、妙に人が少ないということだった。そこそこ有名な温泉街なので、賑わっていてもよいものだが、人影は疎であ

          短編小説Vol.24「温泉街の一族」

          短編小説Vol.23「遊戯の教室」

          午後2時ちょうど。 退屈な授業中、昼ご飯を食べたばかりで眠くなった鹿島は眠気覚ましに、園田へちょっかいをかけ始めた。 「おい!園田!園田!」 先生にバレないように、低い声で呼びかける。 園田も眠かったのだろう、なかなか鹿島の声に気づかない。 鹿島は下に置いていた、美術で使うエプロンを丸めて園田に向けて投げた。 園田はゆっくり鹿島の方を振り向いて、 「何だよ?」 と冷静に言った。 園田は、退屈な授業の際は必ずと言っていいほど毎回、校庭を見て物思いに耽っていた。 それを邪魔され

          短編小説Vol.23「遊戯の教室」

          短編小説Vol.22「夏の街に反射して」

          圭吾は何を考えるでもなく、別荘の2階から眼下に広がる濡れた街を眺めていた。 そして、頭の中に流れ始めた”詩”を紙に刻み込んだ。 もうじき又夏がやってくる 君の温もり 君の香り 君の表情 君の涙が はっきりと目の前に蘇る 君は十七回夏を知っただけだった 僕はもう二十二回の夏を知っている そして今僕は自分の夏や、又自分のではない色々の夏に思いを馳せている 海の夏 放埒の夏 雨の夏 37度の夏 君の夏 そして僕は考える 人間は何回位の夏を知っているのだろうかと 君 もうじき

          短編小説Vol.22「夏の街に反射して」

          短編小説Vol.21「自由への道程」

          大学卒業式を迎えた慎吾は、式典に参加しながら将来への不安と焦燥感に苛まれていた。 そして、自分が真に求めるものが何かを見つけられずにいた。 友人たちとの日常さえも徐々に彼にとって色褪せた風景となり、慎吾は何かを変えたいという衝動に無性に駆られるようになった。 4月1日、入社式。 会社の偉い人が予想した通りのどこかで聞いた内容を長々と話し終わった瞬間に、慎吾はこの会社を辞める事を決意した。 どこにでもあるようなありふれた言葉は、自分がこの会社に就社しようとしていることを心に美

          短編小説Vol.21「自由への道程」

          短編小説Vol.20「悪魔の音色」

          蝉が悲鳴を奏で始めた頃、その音に圭吾の心は酷く共鳴した。 地獄の日々が始まって、どのくらい経っただろうか。 始まってから今まで思考の停止が茶飯となり、その地獄の正体について深く考える余地などありはしなかった。 そして思考の停止を心地良く感じさせるほど、感情は傷つけられていたのだ。 だが、蝉が綺麗な悲鳴をあげ始めた時、恐らく6月くらいだろうか、圭吾の心は全てが崩壊し、そして強烈に再生し始めた。 これまで抑えていた感情が、本能的な感情と共に、行動に現れ始めたことを、圭吾は喜ばし

          短編小説Vol.20「悪魔の音色」

          短編小説Vol.19「破壊の前奏」

          序章:「感情の出現」 陸は、早春の令和の東京を歩いていた。 街はまだ冬の名残を抱え、空気は冷たく、人々の息は白く霞んでいた。 しかし、隙間から春の訪れを告げるように、ところどころで梅の花が咲き乱れ、淡いピンクが冷たい空気に温もりを添えていた。 陸は、街の喧騒から少し離れた公園のベンチに座り、目の前に広がる景色を静かに眺めた。 公園には、冬を乗り越えたばかりの木々があり、その枝には新しい芽が息吹き始めていた。 遠くでは子どもたちが春の日差しの中で無邪気に遊んでいる。 彼らの笑

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          短編小説Vol.18「失恋の近道」

          城島まことは、青春の最終章を過ごしていた。 名門校の高校3年生、サッカー部の一員でありながら、その日々は女遊びという名の快楽に彩られていた。 友人は多いが、その背後では嫉妬の眼差しも存在した。  男子校という特殊な環境しか知らない彼は、異性を対等な人間としてではなく、ある種の所有物として扱う節があった。 すでに進学先も決まり、全身全霊でぶつかる何かもどこにもなく、生活に刺激を求めていた。 そして、賭け麻雀という別の逃避行にも身を投じていた。 彼の生い立ちは、一見すると恵

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          短編小説Vol.17「沈黙の教室」

          夜の帳が下り、独りの影が教室の隅にひっそりとたたずんでいた。 豊島敬信、彼はその名門とされる男子校の中でも一際光る存在だった。 しかしその輝きは、金銭の余裕と女性へのあくなき追求によって、異様な発色をしていた。 彼の心は、自らが築き上げた堅固な城のように、周囲の人々、そして社会全体から自己を守る壁を高くしていた。 彼の隣には、いつも通りの場所で、日枝優吾の席が空虚に広がっている。 日枝は、掴みどころのない風のような存在だった。 その成績も、家庭環境も、クラスメイトたちの間で

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          短編小説Vol.16「少女の生き様」

          港の風は、若者の魂に刻まれた夢と不安を運び去ろうとするかのように、広島のこの小さな町を駆け巡る。 夏の終わり、海の匂いが混じり合う空気の中を、大輝は一人、海岸線を歩んでいた。 彼の胸の内は、これから訪れる未知の未来への恐れと、それを超える強い期待感で満たされている。 漁師という家業に生まれ、海とともに育った大輝にとって、海は生活の基盤であり、家族の絆そのものだった。 しかし、彼の心の奥底には別の夢が息づいていた。 それは、この港町を離れ、都会で新しい生を求める夢。 彼は、海

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          短編小説Vol.15「遊戯の祭り」

          夏の猛暑が街を包んだある年、反抗期を迎えた高校生・悠人は、日常からの逃避を求め続けていた。 彼の中には、ある本を読んで以来、強烈な野心が芽生え、自分も何か衝撃的な行動で世間に名を残したいと考えるようになった。 彼には同じように反抗心を持つ仲間がいた。 都会の喧騒から少し離れた山間にある実家の別荘で、高校生の悠人は友人たちと共に暑い季節を過ごし始める。 「俺たちの夏は、他の誰の夏とも違うんだ。」 悠人は言った。 そして、 「この社会に、俺という存在を刻み込む。」 これが彼ら

          短編小説Vol.15「遊戯の祭り」