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138億年の時間の中で☆第28話☆「味わいながら」         

4月に高校三年生になった知的障がいの長男。気が付けば・・とか、あっという間に、というような月並みな言葉しかでてこない。身長は私よりも10センチ高くなった。
前を歩く背中は、細くて頼りない印象は残るものの、それなりに大人の男性の逞しさも漂わせている。
時々、振り返ってこちらをを確認するけれど、「どこに行けばいいの?」というような迷いからじゃなくて、「ママ、大丈夫?ちゃんと僕についてきている?」というようなメッセージ。
大きくなったんだな、きっとこれからも大きくなるんだなぁなんて、ちょっとだけ寂しい気持ちと、まだまだ見守りが必要な彼に対しての愛おしさがこみ上げてくる。ほぼ毎日。
そして過去の色んなエピソードを思い出す。

幼稚園へ行きたくなくて泣いたこと、支援級の先生に上手に甘えていたこと、私から離れたがっていた中学生の頃。そんな彼は、家事の手伝いをよろこんでしてくれるかっこいい高校生になりました。
案ずるよりも産むがやすし、なんとかなった、自分もグッジョブ、と独りごちた後に
これから先、どうなるのかな?なんて思っちゃう。

過去のことは簡単に思い出せる、当たり前だけど。
でも未来のことを考えると、まるで空気の様につかみどころがなく、イメージは簡単に吹き飛んでしまいそうな曖昧なもの。そりゃ、やっぱり当たり前だけど。

曖昧だから不安になる。それなら、不安を向き合ってみればいい。

事故にあわないかな? → 交通ルールは理解している。リスクが高いのは事実だけど、事故にあうかどうかは障がいがある、なしは関係ないし。

イジメられないかな? → イヤな事があったら全力で逃げることはできる。彼の長所は、過剰な我慢をしないことだ。

誰かに迷惑かけないかな? → かけちゃったら状況を慎重に把握したうえで、必要と判断したら心から謝ろう。

わたしと夫に何かあったら? → いつでもどちらか一人で対応できるように準備しておこう。他に相談できる人を思い浮かべてみよう。

不安や心配は数え上げればキリが無いけれど、起るかどうかわからない出来事はコントロールのしようがないし、起ってしまったらその時に必要な対応をするしかない。

そして、いい未来をイメージしてみる。
カフェスタッフとしてコーヒーを淹れている様子。それとも清掃員になっているかな?何かを創っているのかもしれない。
親切にしてもらって、恥ずかしそうに「ありがとうございます」とお礼を言う彼の姿。
支援者さんに上手に甘えて可愛がってもらうという、彼の長所が最大限に発揮される状況。
困っている後輩や同僚をさりげなくフォローする優しさパワーを発揮しているところ。

いい未来のイメージは、過去にあったいい出来事から作られている。
誰かにコーヒーを淹れるのも、甘えるのが上手なのも、困っている人に優しく接するのも、過去または今の長男の姿から生まれている。
不安を十分味わったうえで、今の彼の姿を愛そうと思う。

不安も希望も、自分の内側で起っている不確実なもので自分で選べるのだとしたら、どうせなら明るいイメージをつくる努力をしたほうがいい。そう、努力です。努める必要ありなのです。
一人だと難しいのなら、誰かといいイメージの話を沢山してみよう。
悪いイメージや不安を掻き立てるような話は避けよう。

これから、卒業後の進路を探す旅がはじまります。迷いながら、悩みながら、それすらも十分味わって、面白がりながら。

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