徒然物語61 生活様式
「いらっしゃいませ~」
「ありがとうございました~」
このドラッグストアにパートで勤めるようになって早5年。
夕方17時から閉店まで入れる私は重宝されて、パートリーダーなんて任されている。
レジ打ち、品出し、棚卸に清掃…
お客様が少なくても、やることは山のようにある。
長い時間をこのお店と共に過ごしてきた。
さすがに5年もいると、お客様の顔がわかるようになってくる。
特に常連さんともなればなおさらだ。
私はお客様と積極的にコミュニケーションを図る質ではない。けれど、常連さんは買うものがほとんど決まっているから、どんな生活様式なのかも、ある程度予想できるようになった。
あの若い女性は、オムツと缶ビールを買っていく。
共働きで、子供はまだ小さいのだろう。仕事終わりに赤ちゃん用品と旦那のビールを買うという、何ともつつましい方だ。
あのサラリーマンは決まって300円程度のおやつを買っていく。
毎週金曜日に必ず現れていたのが、最近水曜日にも見かけるようになった。
ストレスでお菓子の量が増えたのか、少し丸くなった気がする。
こんな感じで、その人が買うお決まりの商品や、来店時間、頻度からどんな生活を送っているのか、家族構成とか、好み等々。
お客様について、いろんなことを想像するのが、ささやかな楽しみだったりする。
けれども。
3日おきに必ず来店される、おばあちゃん。
今まさに、レジ越しに向かい合っている、この女性。
軽く70歳は超えているはずなのに、背筋はピンと張って、身なりも整っている。
物静かで礼儀正しく、クレームもなし。
いわゆる”良いお客様”の鑑のような方だ。
ただ不可解なのは、必ず幼児用の風邪薬シロップを一本だけ買って帰ることだ。
それ以外は何も買わない。
商品も決まっていて、ウサギが目印のシロップだ。
それを毎回500円玉で買っていく。
お孫さんのため?
それなら、3日に1回は頻度として多すぎるよね?
愛飲してる?
まさか、あり得ないよね?
じゃあ、一体なんで!?
決して表情には出さないよう注意しつつ、手渡されたシロップをレジに通す。
お釣りを渡しながら、いつもの言葉を贈る。
「ポイントカード作りますと、お得にお買い物できますよ?」
「ありがとう。考えておくわ。」
彼女はいつもそう答え、お店を後にしていく。
「ありがとうございました~」
5年間贈り続けている言葉を、背中に投げかけながら改めて思う。
う-ん…謎は深まるばかりだわ。
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