徒然物語57 地球かじり虫

地球かじり虫が飛来して早5日。
 
どうやら南半球は食い尽くされてしまったらしい。
 
奴は突然南極に降ってきた。
 
大きさは、オーストラリア大陸くらい…らしい。
 
巨大な巨大な芋虫のような姿。
 
宇宙から落ちてきたくせに、飛べないらしく、ひたすら地を這って行進が始まった。
 
氷山も大地も、砂漠も山脈も森林も関係なく、ガシガシと食べ始めたのだ。
海はさながら極上のジュースといったところで、あっという間に飲みつくされた。
 
人類は団結して、巨大な悪魔に戦いを挑んだが、最新鋭の兵器でも歯が立たず、全て返り討ちにあった。
 
最終兵器である核ミサイルでさえも、奴にとっては飴玉程度のおやつに等しかったようだ。
そうこうしているうちに、世界最大の大国は食い尽くされてしまった。
 
偉そうな学者たちが、この超巨大生物に何やら小難しい名前を付けたらしい。
しかし、その名前はまるで浸透しなかった。
 
代わりに誰が呼んだか、その見た目から“地球かじり虫”と呼ばれるようになったのだった。
 
 
さて。
 
その地球かじり虫がいよいよ北半球に侵攻を開始した。
 
あと5日でどうやら地球は滅んでしまうようだ。
 
襲来当初あんなに混乱していた人々も、ここにきて大分収まってきた。
 
もはやどこに逃げても無駄だろうと悟り、短い余生を各々好きなように過ごすと決めたようだ。
 
今、私は自宅に向かって車を走らせている。
 
いつも赤色を示す相性の悪い信号も、二度と光ることはないようだ。
 
それでも衝突を恐れ、一時停止する。
 
誰もいない交差点。
 
窓ガラス越しの空一面を、巨大な上唇が覆っている。
 
咀嚼音がうるさすぎるせいで、お気に入りの音楽すら聞こえない。
 
恐怖する気力も失せた私は、この巨大な口を眺めながら、
 
のどちんこもでけ~な~
 
などと、バカみたいな感想ばかりを思い浮かべている。

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