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書評

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読書の喜びは、他のなにものにも代えがたい魅力が有ります。そういった喜びを皆さんと共有すべく、知的刺激を受けた書、好奇心満載の書、ためになる書その他この他、わたしの狭い読書領域の中… もっと読む
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「『ローマ人の物語』他、塩野七生著作書評リスト」

「ローマ人の物語」他について、塩野七生さんの著作をリスト化します。 ローマ人の物語 1)「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」/初めから面白い|りょうさん (note.com) 2)「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」/これはめちゃくちゃ面白い|りょうさん (note.com) 3)『ローマ人の物語Ⅲ 勝者の混迷』/帝国の盛衰の歴史、現代と変わらず|りょうさん (note.com) 4)「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサル ルビコン以前」野心、虚栄心の問題|りょ

「『おたふく』『妹の縁談』『湯治』山本周五郎著(ハルキ文庫『おたふく物語』に収録の『おたふく三部作』」/日本の庶民の善意の美しさ、いじらしさを美しい『おしず』を通して浮かび上がらせる周五郎の名作 ~その1

『おたふく』 『おたふく』については、すでに多くを記してきました。二十代前半つまり40年ほど前にめぐり逢いこの年になるまで胸の奥に温かい心をともし続けてくれた周五郎の名作です。 私個人の中では、それは二十代に恋焦がれ続けた美智子さん(仮名)と重ねて今日まで思い続けてきた女神のような女性、それが『おたふく』のおしずです。 『おたふく』へのオマージュとして小説「智子、そして昭和」を書かせてもらいました。 オマージュは、「三十五年越し」や「雨と水玉」(上記「三十五年越し/俯瞰

書評「考えるよろこび」(講談社文芸文庫)江藤淳/再々に渡る繰り返し読みに応え得る講演録、近代の個の確立とは個を超える公の価値にコミットすること

「考えるよろこび」江藤淳の60年代の講演録を文庫化したもの 講談社文芸文庫「考えるよろこび」には江藤淳の60年代の六つの講演が収録されています。 いずれも非常に興味深く、講演そのままの口調で江藤淳の声が聞こえてくるような気がする優れた読み物になっています。 主題は近代 主題は、近代というもの、近代そのものと言って良いと思います。 近代が日本人に強烈に求めるのは、文字通り「個の確立」であります。自由と独立とに不可分なものは「個の確立」に違いありません。 1)考えるよろこ

書評「かたくなにみやびたるひと 乃木希典」乃木神社総代会(展転社)/乃木さんの軍人として貫く一念と広くたゆたき心が、尊きまでに胸を打つ

かたくなにみやびたるひと みやびたる、という言葉が現今一般に受ける印象は、やまと心の中でも、たよやめ、にぎみたま、といった優しさを表すものにどちらかといえば近いです。 しかし、この書の中では本来の「みやびたる」を敢えて説明しており、やまと心の、ますらお、あらみたまのほうの荒ぶる戦人(いくさびと)のみたまをも合わせたものを言うとしています。 その意味で、敵に対して、戦人としての勇気のすべてをかけて打ち勝つ、そういう忠君軍人として貫く一念が「みやびたる」の中の核心としてあるの

「歴史街道2024年3月号 『二〇三高地・120年目の真実』」(PHP)/ようやく旅順戦について、歴史が平衡の振り子を戻しはじめた

明治37(1904)年8月~1月 旅順戦から今年で120年 今年令和6(2024)年は日露戦争の旅順戦から120年ということになります。 このため、歴史街道(PHP)の3月号で『二〇三高地・120年目の真実』と題した特集が組まれました。 ようやく旅順戦について、歴史が平衡の振り子を戻しはじめた 歴史街道3月号には、 1)総論 新解釈から見た日露開戦と旅順攻防戦                        小林道彦 2)「戦略」で読み解く――なぜ、二〇三高地が焦点となっ

「ギリシャ人の物語Ⅲ 新しき力」塩野七生著(新潮社)/ギリシャのポリスは崩壊し、その後をマケドニアの父子が襲い、子のアレクサンドロスはペルシャ・インダスをも征服し大王となるが、、、(その2)

アレクサンドロスの軍才を語る塩野七生 ハンニバル、スキピオ・アフリカヌス、そしてカエサルもその軍才を絶賛したという、アレクサンドロス。 軍事の天才アレクサンドロスによって騎兵用兵の元祖が開かれると同時に、戦争戦術がレ歴史的に飛躍したと言えるのだろう。 「ギリシャ人の物語」の第三巻は、アレクサンドロスのために書いたとも言えるものになっている。 その1においても、記しましたが、塩野七生の健筆は、会戦、海戦を語るとき、実に活き活きと人物、人間あるいは人間集団を活写します。 本当に

「ギリシャ人の物語Ⅲ 新しき力」塩野七生著(新潮社)/ギリシャのポリスは崩壊し、その後をマケドニアの父子が襲い、子のアレクサンドロスはペルシャ・インダスをも征服し大王となるが、、、(その1)

読み応え満点の第三巻 この第三巻は読みごたえがありました。 第一にギリシャのポリス社会の崩壊を描き、 第二にそのギリシャポリスを反面教師にした広義のギリシャであるマケドニアに出現した父子の物語であり、とくに父フィリッポス2世の後を継いだアレクサンドロスの戦記の面白さは卓越しています。 塩野七生さんは、「ローマ人の物語」でもその戦記の記述のうまさは抜群でした。アレクサンドロスの会戦の醍醐味は、まさに歴史の醍醐味、軍事の面白みを堪能できます。 ギリシャのポリス崩壊について

「からごころー日本精神の逆説ー」長谷川三千子著(中公文庫)/深い思索が心に届いて、日本人とは、自分とは何かを静かに考えさせてくれる

「からごころー日本精神の逆説ー」いつも渾身の長谷川三千子氏三十代後半の力作群 冒頭に核心の「からごころ」から始まる真に思索を繰り返した末の日本人論。 発表から30年近くを過ぎて2014年に文庫化され、発表当時衝撃を受けた若き小川榮太郎が解説でこの論説の核心を鮮やかに解きほぐしてくれている。 全ては、小川榮太郎が言い尽くしていて、ここになにも書くことはないとも思わせられるが、、、、 日本人が思うとは、考えるとは、を自分の心に寄り添って思索するのに、必須のアイテムであろうかと

「ギリシャ人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊」塩野七生著(新潮社)/ギリシャはペルシャ戦争後、民主政のアテネによる大興隆、覇権拡張でピークを向かえるが、アテネは衆愚政治によりすべてを失う、、、、

個々の力を集団として機能させることでペルシャ戦争を勝ち抜いたが、、、 ギリシャ文明がオリエント文明(ペルシャ)を打ち負かしたことで、のちのローマ、ヨーロッパの文明の興隆に繋がったところがあります。 ギリシャ文明のその特徴は、個々の力ですが、その個を集団として機能させペルシャを打ち負かしたところにこそ、その真骨頂が現れています。 それは、アテネにおいて、最もよくあらわれ、政治体制として民主政が個々の力による軍事、経済的興隆と不可分になっているのですが、栄華は長く続かなかった

「『私にはムリ!』と思い込んでいる人のための不動産投資の基本」(台場史貞著、秀和システム刊) /不動産投資を具体的に検討着手しました

不動産投資に関する思い直し 以前に、本コラムの記事で不動産投資は諦めたと言いました。 会社の先輩や後輩に不動産投資をしている人たちがいて、今後の人生、永ければ30年余を考えて、不動産投資に関する勉強を始めて、実際に不動産業者主催のセミナーを受けてみてそう思ったのですが、 具体的な物件がまずありきで、その物件が買い替え物件としても結構魅力的だったのでいろいろ考えを巡らすうちにやはり真剣に考えるべきだと思い直しました。 それで、くだんのセミナー受講して個別相談した人に、というこ

「マスメディアを見ているとわからない日本の財政状況:財政は逼迫していない!『来年度予算「借金漬け」のウソ 海外と異なる日本の国債制度、各部の数字にも疑問…財政危機を煽るのはおかしい』(高橋洋一、zakzakby夕刊フジ)をご覧ください」

日本の政府財政はマスメディア報道を見ていてもわからない 来年度政府予算案112.1兆円、国債費27兆円などと政府財政の危機を煽るようなメスメディアの記事が踊る年末でした。 そして、2番目の記事にあるような、日銀の金融政策正常化を見越して、国債想定金利を1.1%から1.9%へ変えた予算案になっていることから、これから益々その金利負担が嫌が応にも増すことをも国民に知らしめ、増税の已む無きに観念させようという財務省の魂胆にお追従するようなメディアの醜い心性があからさまに出ている

「ギリシャ人の物語Ⅰ 民主政のはじまり」塩野七生著(新潮社)/ローマ人の物語を読めば手を取らざるを得ない。トロイ神話からギリシャ文明のはじまりと興隆:ここに西洋文明がはじまる、、、

「ローマ人の物語」から「ギリシャ人の物語」へ 「ローマ人の物語」全十五巻プラスアルファ(スペシャルガイドブック)を読了してみると、実に味わい深い思いが胸に残りました。 それはやはり塩野七生さんが、日本人としての視点をかっちりと維持しながら、古代ローマ帝国の人間模様を子細をしっかりと追いながら描いて見せてくれたからに他なりません。 本質的な意味で言うと、一神教キリスト教徒でない日本人塩野七生が一神教に乾いた目をもって描いたものだからこそ、日本人あるいは日本にとっての意味が深く

「塩野七生『ローマ人の物語』スペシャルガイドブック」/事後編として全15巻を楽しみ返し、頭を整理できる。写真豊富で第Ⅹ巻同様映像でイメージを拡張できる、お薦め本

「ローマ人の物語」全15巻を楽しみ返せる 「塩野七生『ローマ人の物語』スペシャルガイドブック」のご紹介です。 これは、「ローマ人の物語」全15巻の執筆、刊行が成り、それらを振り返り、エピローグのように余韻を楽しむためのガイドブックです。 全編写真が豊富、塩野七生さんを見出した編集者との対談、新潮社の塩野さんへのインタビューが掲載 全編写真が非常に豊富に掲載されています。この「スペシャルガイドブック」は、第Ⅹ巻の「すべての道はローマに通ず」もローマ帝国の今に残されているイ

「日本民族の叙事詩 祖国を形づくるもの」西村眞悟著(展転社)/日本人は大東亜戦争の意味を再認識しなければならない。”昭和天皇と明治天皇そして乃木希典大将”

西村眞悟さん 平成九(1997)年に衆議院議員として、はじめて国会で拉致問題を取り上げ、同年腰の抜け続けていた政府をよそに尖閣列島魚釣島に国会議員として初上陸・視察を行ったのが、西村眞悟さんです。 その功績は、日本の歴史に応え得るものと私は思っています。 西村さんは、六期務めた衆議院議員時代から、数年ごとに日本の国家としての存在意義を問う著作を出版されてきました。国会議員としての実践と国家としての思想とも言える著述をともに行ってきたことに敬意を評さざるを得ないものがありま