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チャールズ・ディケンズ『オリヴァー・ツイスト』9

昔、「夢」と訳されたドビュッシーのピアノ曲があった。いい曲だなと思って、何かを考える際には邪魔もしないし、流していることが多い。実際は、「空想」に近い単語なのだろうが、いつまでも私に取っては「夢」である。

1999年ごろのネット界隈には、不思議なブロガーがたくさんいた。その1人とネット上で知り合い、ネット上でやりとりし、ネット上で若くして亡くなったことを知った。その人の好きな曲も、ドビュッシーだったのである。小説家を目指していた。なかなか、才気ある文章を書いた。私などは、才能の点において、全く及ばない。

しかし、やはり心持ちが不安定だった。その不安定さが、才能の開花を妨げてしまった。その人は悩み、結局、自らの命を絶ったのである。ストーリーテリングに伸び悩んだことが原因ではなく、その周囲の人々から発せられる圧力が原因だったのかもしれない。その詮索は、私がしても致し方ないであろう。私の友人が心配して会いにいったこともある。その時に聞いた言葉が「あの人と話していると怖い」だった。

「あの人」とは私のことである。今もそうだが、当時も圧のある文体だったかもしれない。おちゃらけている風を装って、次々に練磨を要求するような書き方だったかもしれない。そこを見抜いたあたり、やはり才能があったのだろう。要するに私は、自分自身に厳しさを向けている風を装って、「お前もこれくらいできるだろ」という圧をかけてしまっていたのかもしれない。

「そんなことで」と落胆したが、確かに、当初つながっていた仲間と思っていた人から、「読んでいるときつくなって書けなくなる」とフォローを外されたこともある。誰に向けて書いていたわけではないが、自分に向けて発していた「そんな安易なところに落としてはいけない」というメッセージを、正確に読み取ってくれていたのだろう。その方も、今や40歳くらいになっているはずだ。元気にしていればいいが。

あらすじ(14~15)

14
オリヴァーはブラウンロー氏の邸宅でふたたび息を吹き返した。その後は、その絵をブラウンロー氏は隠してしまった。オリヴァーは体調が回復するまで、家政婦の老婦人と共に過ごしていた。カードゲームなど、オリヴァーは色々なことを素早く吸収した。

オリヴァーにブラウンロー氏は、新たな服を与えた。そして、髪の毛も整えさせた。オリヴァーの見た目は随分と変わった。そして、ブラウンロー氏と書斎で、色々な話をした。オリヴァーはブラウンロー氏に、追い出さないでくださいと懇願した。もちろん、とブラウンロー氏は快諾した。

そして、ブラウンロー氏は、なぜ君があのような犯罪組織の一員として働いていたのか、その理由を尋ねた。オリヴァーは、そのことを思い出すと辛く、すぐに返答できなかった。

そこにもう一人恰幅のいい老紳士が入ってきた。そして、大声で色々なことをまくしたてた。ブラウンロー氏は穏やかにオリヴァーを紹介した。しかし、その恰幅のいい老紳士であるグリムウィグ氏は、オリヴァーに懐疑の眼を向ける。

ブラウンロー氏の友人として、オリヴァーが実はブラウンロー氏を欺いて、その金銭や財産を奪い取ろうとしているのではないかと疑っていたのである。本当のオリヴァーは極悪人なのではないか、と、その言質をとるために色々な圧迫的な質問を行っていた。

ブラウンロー氏はオリヴァーに今までの経緯の説明を求めた。しかし、オリヴァーはそれを聞かれると混乱して、言葉が出なかった。そこをグリムウィグ氏は厳しくついてくる。そして一計を案じた。

例の盗難騒ぎによって、持ってきてしまった本を、本屋に返しに行かせればいい。そして、帰ってくれば、オリヴァーを信用しよう。しかし、服も新調してもらったオリヴァーはそのまま行方をくらますか、組織に戻るだろうとグリムウィグ氏は考えた。

オリヴァーは絶対帰ってきますと述べて出かけて行った。

15
一方、例のスリの組織の長であるフェイギンの一味であるサイクスと、当のフェイギンが話している。そして、また女盗賊で演技が一流のナンシーに、オリヴァー捜索を命じていた。

ナンシーは、果たして、オリヴァーを見つけた。そして、「ああ、あたしの可愛い弟!」と抱きしめた。そして、ナンシーは、大きな声で、周りの人たちがいぶかしんでいる状況を打開しようとした。

けれどもナンシーは、オリヴァーが一か月ほど前から悪党の仲間に入ってしまい、家に戻ってこなくなったと心配そうに、ギャラリーに訴えかけた。オリヴァーは必至に弁明、釈明するが、皆ナンシーの演技に騙されてしまう。そして、オリヴァーは手に持っていた本を盗品として取り上げられ、殴られ、連れ去られた。

感想

展開来ましたね。語り手の口上がなければ、ホント、大河ドラマですよ。読み手は、来るぞ来るぞー、と思いつつ、やっぱり来た!となる。ナンシー、ほんと悪党ですね。いや、こういうのシチュエーション違いでよくあることですよね。私も気をつけよーッと。

恩を仇で返してしまうことって、よくありますよね。「よくある」って言っちゃいけないのかな。でも、良かれと思ってしたことが逆効果になることってありますよね。返礼のつもりでしたことが、逆に相手の嫌なことだったりして。

小学生2年のころ、席替えは机を移動するのではなく、机の中身を取り出して、机のある場所に移動するようになってました。ある時席替えで移動すると、移動した机に牛乳が入りっぱなしになっているのです。牛乳はパンパンに膨らんでいました。私は、その牛乳を、私の机に移動していった人の机の中に戻した。つまり元の私の机の中です。

そいつは、その牛乳に気づくなり、大声で「誰だよこれ~」と騒ぎました。元いたのは私でしたので、私が指弾され、その牛乳から溢れた腐った汁を雑巾でふき取ることになったのです。

皆が、汚ね~という言う中で、拭き掃除をしていました。私は、「お前の席の中にあったものを戻しただけだ」と主張しましたが、嘘を言ってやってしまったことを人に擦り付ける悪い奴、というレッテルが貼られました。

こんなことを覚えているのは、私が粘着質だからでしょうか。しかしながら、オリヴァーの受難を見て、思い出したのは、このエピソードです。そいつは、のちにサッカー部のキャプテンになり、今は偉くなっているようで、ネットで検索すると普通に出てきます。

しかし、私は彼を見るたびに、「こいつは自分で牛乳を腐らせておいて人に片付けさせた奴なんだ」と思います。こんなことをいつまでも根に持っている私は、やはり「怖い」と言われても仕方ありません。私は、友情に興味ない、と言いながらも、むしろ、人から疎んじられていたんでしょう。

その分、子どもたちに時間をとってあげたいと思います。狷介な父でごめんな。



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