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第3の因子

ある変数を治療効果の交絡因子(SuperHuman追記)、予測因子、調整因子、または媒介因子として扱うことの理論的な違いを区別できるようになれば、臨床試験の結果をより明確に議論し、その情報を実際に正しく適用することができるようになります
エビデンスに基づいたスポーツ医学の発展における予測者・調整者・媒介者(Predictor-Moderator-Mediator)の区別
Landy, David C. AJSM (2021): 1997-1998.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

ああ、この論文に出会ってしまった・・・。
勉強の必要性を感じ続けていた!、が、なんとなく避けてきてしまった。
重要性は、痛いほどだ。
査読でこの話題が出ないことは、無いと言って過言じゃない。
いま、すべて、明瞭に把握してみたい気がした。
百折不撓!、一気にやっつけてみる!

▶︎第3の因子とは?

ぼくの臨床研究におけるバイブルの1つとなっている『臨床研究の道標』において、福原先生は以下のように定義している。

概念モデルの基本型の各要素あるいは関係性に影響する様々な因子を考えることになります
これを総称して「第3の因子」と呼ぶことにしました
第3の因子は、PECO(PICO)を構成する主要な要素であるE(I)とOのそれぞれに関係性を持つ因子、
あるいはE(I)とOの関係性自体に影響する(あるいは受ける)因子を指します

「わからない」と思った方、大丈夫、諦めるな。しっかり説明するから。
たとえば、筋力トレーニングという介入(I)をして、筋肥大(O)というアウトカムを評価するとしよう。
待って!!そもそも、PICO(PECO)が分からない!という方、大丈夫、諦めるな♪以下を参照し、学べばいいだけだ。

先に進む。
先ほどの例を考えると、同じように筋力トレーニングをしても、同じように筋肥大を引き起こさない場合が、たくさん考えられる。
例えば、性別。男性と女性では、筋力のつき方に違いがある。
例えば、年齢。高齢者と高校生では、筋力のつき方に違いがある。
・・・etc。
臨床研究において大黒柱には据えていないけれど、E(I)やOに影響を及ぼしうる因子を『第3の因子』と呼んでいる。
では、なぜ第3の因子についての知識を持つ必要があるのか?
それについて、福原先生はきっぱり述べている。

第3の因子の種類は、極めて重要です。
この第3の因子によって統計解析の方針や方法が変わります。

つまり、第3の因子の種類を明確に理解しなければ、臨床研究における解析をしっかり行うことはできないし、論文を読むにしても、解析方法の妥当性や結果の解釈がぼんやりしてしまう、ということだ。

第3の因子は、4種類ある。

1. 予後因子
2. 媒介因子
3. 効果装飾因子
4. 交絡因子

以下、順番に、具体例を交えながら、明瞭に理解を進めてみる。

▶︎予後因子(Predicting Factor)

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予後因子とは、アウトカムの予測因子として機能し、かつEに影響しないものである。
たとえば、高齢者の筋力と死亡率が関連するかを調査した研究において、回帰モデルの中に『喫煙』が入っていた。
この場合、Eが「高齢者の筋力」、Oが「死亡率」、第3の因子が『喫煙』となる。
喫煙は、死亡率には影響するだろう、だが、筋力にはあまり影響しないかもしれない。
このように、第3の因子がアウトカムを予測しうるが、Exposure(Intervention)には影響しないものを「予後因子」という。

>>> 統計解析へのヒント <<<
・予後因子は、回帰モデルの中に入れるとモデル精度が上がる可能性がある
・主Exposureの独立性の検定を目的とした多変量解析において投入は必須ではない
✅ Example clinical study
米国の高齢者における筋肉量および筋力と全死亡率との関連について
Li, Ran, et al.  Medicine and science in sports and exercise 50.3 (2018): 458.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

▶︎媒介因子(Mediating factor)

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媒介因子(中間因子)とは、EとOの連鎖の間に位置するものである。
たとえば、サイクリングが「死亡・心血管イベント」に影響するかを調査した研究において、『血圧』は調査されてもいない。
この場合、Iが「サイクリング」、Oが「死亡・心血管イベント」、第3の因子が『血圧』となる。
血圧は、明らかに死亡や心血管イベントに影響する因子であろう、ただ、血圧はサイクリングによって変動しうる因子でもある。
つまり、「サイクリングする」→「血圧が下がる」→「死亡・心血管イベントの低下」の図式である。
この場合の血圧のように、E(I)とOの中間で媒介するような働きをする因子こそ、「媒介因子」である。

>>> 統計解析へのヒント <<<
・媒介因子は、原則的には統計解析での調整の対象にしない
・なぜなら、中間因子を統計の解析に組み入れてしまうと、本当はEとOの関連性があるにもかかわらず、その関連性の強さが見かけ場弱められてしまうため
✅ Example clinical study
糖尿病患者の全死亡率および心血管疾患死亡率とサイクリングの関連性;欧州癌と栄養に関する前向き調査(EPIC)研究
Ried-Larsen, Mathias, et al. JAMA Internal Medicine(2021).
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

▶︎効果装飾因子(Moderator factor)

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さあ、難しいところに入ってきた。
効果装飾因子(モデレーター)とは、介入や説明変数の効果(大きさや方向性)を変えるものである。
次の交絡因子と非常にややこしい。やや包含関係にある。おおよその交絡因子は、効果装飾因子である。
ここは、分からなくていいと思う、だんだん理解が進めば・・・。
効果装飾因子は、独立してはEにもOにも関係ないけれど、EがOに及ぼす影響度に影響を与える、というマトリョーシカのような入子構造的説明になってしまうものだ。
具体例を考えよう。
たとえば、脳卒中者のリハビリテーション介入による退院時FIMへの効果を調査した研究において、『性別』による効果の違いが明らかになっている。
この場合、Iが「リハ介入」、Oが「FIM点数」、第3の因子が『性別』となる。
性別は、リハ介入自体には影響しない、そしてFIM点数自体にも直接的には影響しないように思える。
しかし、リハビリ介入をしたさいの効果には、性別が影響するのだ。
このような介入や暴露因子がアウトカムに与える効果や影響度に影響を与えうる因子が「効果装飾因子」である。

>>> 統計解析へのヒント <<<
・EのOに対する独立した関連性を調査する場合には、モデレーターを調整因子として組み込む必要性がある
・あるいは、年齢や性別によって層別化された状態での解析が必要となる
✅ Example clinical study
脳卒中後のリハアウトカムに対する性別、社会的環境の影響力
Hay, Catherine Cooper, et al.  AJPMR. 99.1 (2020): 48.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

▶︎交絡因子(Confound factor)

スライド5

さいご、交絡因子である。これは耳馴染みのある言葉ではないだろうか?
だが、「正確な意味は?」と聞かれたとき、『うっ』となってしまわないか?
いまから、はっきり答えられるようになるはずだ。
交絡因子とは、Oにとっての予後因子であると同時に、E(I)にも影響を与えるものだ。
たとえば、股関節骨折後の膝疼痛(PHFKP)が歩行速度に与える影響を調査した研究において、『年齢』はPHFKPにも歩行速度にも関連していた。
この場合、Eが「PHFKP」、Oが「歩行速度」、第3の因子が『年齢』となる。
年齢は、歩行速度と関連する予後因子であると同時に、PHFKPの発生にも影響していた。
このような第3の因子がOにもEにも影響するようなものを「交絡因子」と呼ぶ。

>>> 統計解析へのヒント <<<
・モデレーターとほぼ同様に注意がある
・モデレーターとの違いとしては、E自体に影響を与えるため、第一段階の二群比較などの段階においても第3の因子による層別化や調整が必要になる場合がある(Kaizu, 2021では二群比較を年齢によって調整している)
✅ Example clinical study
股関節骨折手術後の入院中の膝の痛みは、高齢者の歩行速度に影響する:後方視的カルテ参照研究
Kaizu Y, et al.  Geriatrics & Gerontology International (2021). 21. 830-835
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

▶︎最後に

以上、第3の因子の4種類について明確な定義ができたと思う。
臨床研究は、バイアスとの戦いである。
バイアスは、あらゆるところからやってくる。
それらを回避し、是正し、現実の真なる部分にしっかり触れていくために、第3の因子の理解は必須である。

人間のやった最大の進歩は、
正しく推理することを学ぶところにある
ニーチェ

そして僕たちは、後世が使っても、使っても、ちぎれないような強靭な鎖の1つを、つくらねばなるまい。

しっかりした鎖の1つになるのが、自分の仕事だ
それを繋いでいくと、いつかは凄いことになる
だから、自分の鎖をできるだけ完成させるというか、それが研究者の誇りですよ
山中伸弥

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