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それぞれの③            ~守護の熱 第二十話

 給料日が来て、すぐの水曜日は、一学期の期末テストの二日目だ。なので、テスト後の次の週辺り、どうだろうか・・・その日は、撮影をしに行く準備をする。私服で動くことにして・・・。その日こそ、清乃の所に行く。行って、どうするかは、その時だ。

 最近では、商店街に行くこともなかったので、以来、清乃とバッタリということもなかった。これは幸いだと思った。突然のことに、どんな対応ができるか、俺自身、よく解らなかったし。今後も、妖しきに近寄らず、なのだろうなと、肝に銘じる。二か月、顔を見ていない。随分、空いてしまった気がする。あれ以来、清乃は、元気でいるだろうか?

「おはよう、雅弥」
「おはよう」

 坂城だった。

「明日でテスト、終わりだなあ、・・・終わったら、俺、免許取りに行くんだ」
「そうか。なんか、言ってたな」
「うん」

 テストなのに、嬉しそうだ。車の免許のことの方が、楽しみなんだろう。

「テスト、頑張る約束したんだ」
「へえ」
「・・・ふふふ」
「何?」
「聞かないの?誰と、とかさあ」
「うん、聞かない」
「あ、雅弥まで、そういうの?」
「ははは、言いたきゃ、言えばいい」
「いいよ、もう、でも、頑張るんだ。それから、車の免許。それからね・・・ああ、雅弥、待ってよお・・・」

 なんか、相変わらずの坂城だ。天然なのか、無邪気なのか・・・そんなこいつも、独自に進んでるらしい。

 実質、明日のテストが終われば、夏休みに入る。受験生にとっては、正念場と言われる時期なのだろうが、俺の周りは、何となく、緩んでいる。テスト後、いつもの連中が、誰彼ともなく、俺の所に寄ってきて、席を立つ間もなく、囲まれてしまった。

雅弥「なんだ?なんなんだ?」
梶間「あー、雅弥、何?お前ら?」
小津「俺、雅弥に用がある」
梶間「俺も、話があるんだ」
雅弥「なんだ、明日もテストだけど・・・」
八倉「・・・ならば、皆で、明日の勉強すれば、いいんじゃないか?」
雅弥「・・・どうした?お前ら」
小津「八倉さんもですかあ?」
梶間「なんか、土曜日、女の子と喫茶店にいたって噂、先生、聞いたんですが」
八倉「・・・それがどうした?・・・で、雅弥の家、お邪魔してもいいかな?」
雅弥「・・・聞いてないが、三人か?・・・あれ、坂城は?」
小津「帰ったらしいよ。勉強するって。家で、中村さんと」
梶間「ああ、よかった、坂城、いなくて、・・・なんてね」
八倉「お昼は頼んで、運ばせようか。僕の奢りだ」
梶間「やったあ、何かな?」
雅弥「ちょっと待て、聞いてない、そんな話」
小津「いいじゃない、雅弥君」

 本当に、どうしたんだ?こいつら。まあ、来てもらっても、構わないが。しかし、勉強は個人でする方がいい。違うだろう。こいつら、また、話がしたいんだろう。・・・しかし、八倉までとは、どうなってるんだ?

 なんか、どいつも、あまりにも、懐っこく、しつこい。あまり、長くならないことを条件に、仕方なく、また、家に来てもらうことにした。

明海「お帰りなさい、あらあ、大所帯で」
雅弥「すみません。急なんだけど・・・部屋に行くんで、いいですか?」
八倉「ああ、お昼は、店屋物を運んでもらおうと思ってますので、試験勉強させて頂けないかと」
明海「まあ、いいですよ。大丈夫よ、そうねえ・・・お昼、お素麺ならできるわよ」
小津「わあ、いいですねえ」
明海「じゃあ、準備しますから、どうぞ、上がって。今日も、暑いわねえ。麦茶、持っていくからね」
梶間「ありがとうございます。また、お邪魔します。すみません。大勢で」
明海「いいのよ。小学生の時みたいね」

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 明海さん、嫌な顔一つしないな。泰彦の友達も来てるんだろうか?なんか、嬉しそうにしてる。ありがたいことだけど・・・。それにしても、こいつら、まったく・・・。

梶間「お邪魔します。また、来たな」
小津「先日は、俺んちだよな、今度は来させてもらって」
梶間「そうなのか?・・・へえ」
小津「梶間も、今度、うちにも来てくれよ」

 八倉が、部屋を見回して、窓からの景色を見ている。

八倉「ここからも、星、見えそうだな、眺め、いいんだな」
雅弥「ああ、うちは結構、高台だし」
八倉「ここは、地震の時、水が来なかった場所だろ?」
雅弥「そんな話だが・・・」
八倉「・・・いや、他意はないよ。気にしないでくれ」

 この付近でも、良い場所を所有している、というのか。また、卓袱台を出す。さすがに、小学生時代と違う。男四人ともなると、ちょっと、狭いが・・・。明海さんが来て、麦茶を出して、俺の机の上に、冷水筒を置く。

明海「はいはい、まずは、これ、飲んで。お代わりはご自由にね。すぐに、素麺やるからね。ああ、もう一つ、テーブル持ってくるわね」
雅弥「ああ、すみません」
明海「うふふ、いいわね。お友達が多くて」
梶間「お世話になります。すみません」
八倉「急で、申し訳ありません」

 続いて、小津が頭を下げた。

明海「いいのよ。楽しくて、いいわねえ」

 そそくさと、楽し気に、明海さんは出て行くと、すぐ、小さな折り畳みのテーブルを持ってきてくれた。

梶間「あ、俺たち、やりますから」
小津「ありがとうございます」

 なんか、急に、仲良しグループだな。そういえば、小津以外は、小学校から一緒の奴だ。テーブルを並べて、四人で、これを囲んで、座った。

梶間「広い部屋でいいよなあ」
八倉「ああ、そうだな、お前の部屋、落ち着く感じだな」
小津「・・・そうなんですか?先生」
雅弥「広いだけで、古い・・・にしても、なんで、揃いも揃って」
梶間「んー、俺の話は、テスト後でいいや」
小津「あー、俺も」

 ああ、また、あの手か。梶間と小津は、お互いに話せば、等価交換じゃないのか?

八倉「俺は、聞きたいことがある」
雅弥「・・・俺、にか?」
八倉「そう」

 あ、という顔で、小津が、これを見ている。梶間は、視線を外している。
 なんとなく、既に、二人には聞かれてる、あれか?

雅弥「なんだ?」
八倉「別に、困ることじゃないだろうから、本人確認という意味で」

 小津は、梶間の腕を軽く叩いて、合図のようにする。梶間は、首を捻って見せた。

八倉「荒木田さんと付き合ってない、って、本当なのか?」

 やっぱり。既出の質問だ。同じことをした、残りの二人も、何食わぬ表情をして、俺と八倉を、交互に見ている。

雅弥「本当だ。今更、なんで、皆、その話ばかり・・・」
八倉「もう、可能性はないのか?・・・その受験の後とか?」

 小津と梶間が、少し驚いた表情になった。面倒臭いので、無難な答えをする。

雅弥「ないよ、そんなの。・・・東都に行くんだし」
八倉「何故だ?・・・彼女は、ずっと、お前が好きだったんだ。小学生の時、引っ越してきた時から」

 ああ、と、俺は、兄の謙太の誕生日会のことを、また、思い出した。
 それにしても、八倉の勢いが・・・なんだか、普通じゃない感じだが。

雅弥「何故だって言われても、そうじゃないから・・・」
梶間「まあ、俺もさ、同じ質問したことあるけど・・・、もう、それ、いいんじゃね?」
小津「事実なんだから、でしょ?雅弥」
雅弥「まあ、そう」
八倉「・・・受験の後、彼女は、もう1回、お前に話をする、と言ってたから」
小津「えっ?八倉先生、実紅ちゃんに聞いたの?それ」
八倉「親の関係で、会って、話す機会があったから」

 なんなんだ。まだ、この話、蒸し返されるのか?

梶間「相談されちゃったとか、八倉?」
八倉「話の流れで、まあ、聞くことになって、それで・・・」

 小津は少し、八倉を探るように見る。何か、含みがある感じで。そして、土曜日の喫茶店の件、相手は、間違えなく、荒木田実紅だと確信した。

「はい、お待たせしました。ごめんね。大鉢に1つ盛りでいいわよね?」

 引き戸を開け、明海さんが、素麺の設えを運んできてくれた。梶間と小津が、パッと動いて、配膳を手伝ってくれた。八倉が、スッと表情を戻し、小鉢を受け取り、卓袱台に置いた。小さなポットに麺つゆが入っているのを、俺はそれに注いだ。

梶間「ああ、美味そう。腹減ったあ」
小津「なんか、素麺とか、こういう、大鉢盛りで、皆で食うの、俺、久しぶり」
八倉「却って、すみません。ご馳走になります」
明海「どうぞ、足りなかったら、また茹でるからね、遠慮なくね」
雅弥「これで充分だと思うから、明海さん、ありがとう」

 それから、口々に「いただきます」と言って、素麺をとり始めた。それを確認して、明海さんは、部屋を出た。

小津「・・・いいお義姉さんだなあ、優しくて」
雅弥「うん」

 意味深長な小津の表情。・・・馬鹿じゃなければ、個人的な話はしないだろうが、あの時の顔だ。まさかな誤解、してないだろうな。

梶間「美味いなあ。冷たくて。これさあ、さくらんぼと缶みかん、人数分ある」
雅弥「家族の分、入れる習慣みたいだから」
小津「なるほどー」
八倉「冷たくて、美味い。ありがたい」
梶間「・・・んで、なんだっけ?ああ、もう、いい話だよな」
小津「個人的なことだから、後でもいいんじゃない?先生」
八倉「・・・つまりは、何度、実紅ちゃんが、お前に話しても、ダメってことか?」

 うーん、もう、面倒臭い。

雅弥「・・・ちょっと、いいか。この話、俺、梶間に聞かれ、小津に聞かれて、まさか、八倉にまで、聞かれるとは。この際だから、言っておくよ。本当に、関係ないんだ。相手のことは解らないが、俺には、そんな意志はないから、受験後とかもないから。ない話を、ずっとされるのは、困る」
八倉「解った」

 小津は、俺と八倉を交互に見ている。

梶間「そうだよな。その通りだ。俺も聞いて、悪かったよな」

 梶間は、素麺を啜りながら、俺に目配せする。

小津「ちょっと、話題、変えない?」
梶間「そうだな」
小津「『青』の話」
梶間「え?」

 皆の手が止まった。なんでだ。・・・そうだ。こないだみたいに、小津は、多分、そんな話が好きで、してみたいだけな感じだったからな。

梶間「えー、何々?夏休みに決行かな。誰か・・・ん?」

 梶間が、わざとおどけて見せた。多分、なんとなくだが、八倉は退いていたと思う。

梶間「あー、あー、そういうの、いいじゃんか。小津、お前が話せ、言い出しっぺだぜ」
小津「えー、俺、行かないから」
八倉「俺も」

 梶間は、俺の顔を見て、慌てる。助け舟の心算だったのか、その後、続けた。

梶間「あー、雅弥も行かないよなあ、言ってたじゃんか。この話は、終わりな、あはは」
小津「だよなあ。皆、行かないんだ。必要ないってことだよなあ」
梶間「何、そうなの?えー、そうなんだ。そうだよなあ。無理に行かなくてもいい。大学入ってからでもいいし、なあ」

 梶間が、小津を睨んだ。それぞれの状況は、なんとなく、それぞれに伝わっている。そんなのは、本当に、個人的なことだし、俺はどうでもいい。要らない情報だし、話したいとは思わない。ぶちまけて、どうこうする気が知れない。

 食事を終えると、食器を下げるのを、八倉が率先して、手伝ってきた。俺が廊下に出ると、そのまま、ついてきた。後ろで、何気なく、梶間が小津を引き止めているのが見えた。こういう時に、気がつくのが、梶間だ。八倉の感じを読み取っての動きだったようだ。

「辻、さっきの、本当に、いいんだな」
「ああ、あれ、俺、本当、関係ないから。何か、頼まれたりしてるのかもしれないけど、こういうのは、仕方ないだろう?」
「じゃあ、だったら・・・俺が・・・」

 なんとなく、解っていたが。

「いいんじゃないか。俺に断る理由なんて、始めから、ないんだから」
「解った・・・しかし」
「何か、あるのか?」
「実紅ちゃんが言ってた。お前には、もう相手がいるんだって。だから、断ってるって」

 ああ、皆、そう来る。ここは、痛くもない腹を探られる・・・体にする。

「そんなの、俺は、今、どうでもいい。そっちは、八倉の好きにすればいいよ」
「どういう意味だ?否定しないんだな」
「何を?」
「そういう相手がいるってことだ」
「だから、いないって」
「・・・」
「いたとしても、そういうの、人に話す必要はないし、多分、そうだとしても、言わないのが普通だと思う。まあ、梶間みたいな場合は、周知になるけど」

 八倉は、今一つ、スッキリしない表情だ。でも、仕方がない。勝手に、自分のしたいようにすればいい。ますますもって、興味がない。人のことだから。

 この日は、この後、1時間ぐらい、皆で、テスト勉強をした。以前より、梶間が勉強に前向きになっていたのが、良かったと思う。俺と八倉で、苦手な部分を教えてやった。小津は、選択授業の関係で、科目が楽なのだそうで、受験勉強をするとばかりに、マイペースに、古い問題集をやっていた。これ見よがしな感じで、名前の欄を、俺に見せてきた。例の従姉の彼女の名前なんだろう。

「勉強見てもらう時もあるんだ」

 なんで、俺にわざわざ、耳打ちするんだ。そんなこと。本当にもう、どうでもいい。むしろ、俺を外して、三人で、なんなら、坂城も入れて、そういうのは、やってくれればいいのに・・・。

小津「そういえばさ、坂城、水沢の経営学部のなんだっけ、あれ」

 という、坂城の話題だ。

梶間「なんか、食品ビジネスコースとかいうやつだろ?」
八倉「家継ぐことにしたんだな」
小津「わっかりやすいよなあ・・・」
雅弥「いいことじゃないか。親も喜んでるんじゃないか」
八倉「二号店の話が出てるらしいな。将来的に」
梶間「へえー、そんな話・・・車の免許も、むしろ、配達用か」
小津「はあ、なんか、すげえ、進路じゃん。まあ、遊びにも行くだろうけどさ」
梶間「あんなに、東都の大学行くとか、家業はやらないって言ってたのになあ」
雅弥「いいんじゃないか。クッキーも売れたり、達成感があったんだろう」
小津「・・・まあ、そゆことか・・・。そうだ、八倉先生、従兄弟の浩一郎さん、隣の4区で出馬するって、聞いたんですけど、その後は、先生の番?」
八倉「・・・小津、お前、そんなこと、興味あるのか?」
小津「いやあ、大変だなあと思って・・・土曜日に会ってた子って、実紅ちゃんでしょ?」

 梶間が、気遣うように、俺の方を見ているのが解ったが、俺は、明日のテスト範囲のノートをチェックしていた。

八倉「そうだけど、それがどうした?」

 小津は、少しニヤけて、八倉を見ている。梶間が、小津を小突く。

八倉「だから、あの日は、地元筋の後援会のパーティがあって、その手伝いに行ったんだ。休憩に会場の隣の喫茶店に行っただけだから、別に・・・」

 一応、固まるまで、ひけらかさない。八倉もそういう心算なんだろうな。相手のいることは、普通、気遣いをする。小津には、気を付けた方がいい、と一言、八倉に言ってやりたかったが、それは、余計なお世話だろう。

 個人的に話をしたがる奴が、水曜日を狙ってくる。危ない感じだ。何か、策を講じないと・・・

 とにかく、明日のテストを終えて・・・

 なんとなく、俺も、浮ついているのだろうな。最近は、清乃の顔が、よく浮かぶ。
                                                                                                        ~つづく~


みとぎやの小説・連載中「それぞれの③」 守護の熱 第二十話

読んで頂き、ありがとうございます。
何か、皆、揃って、仲良しっぽくなってきましたが・・・。
八倉君の動きをマークして、読まれていた方は、
恐らく、前回を読まれていた方と思います。

この後、どうなるんだっけな・・・。
長いお話ですね。前の方から、纏めて読めるのは、こちらのマガジンからです。宜しかったら、お立ち寄りください。

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