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彼女の心情 ~その変わり目 第八話

 どっから、好きになったんだろう?

 そもそもが、悪い印象なんて、持ったことないし。
 最初から、距離が近づいてきても、嫌な感じがしなかったってことかな?
 すごい、自然だったと思うんだけど・・・。

 雰囲気、見た感じ、その人の仕草、声・・・なんだろう?
 いる、って解っただけで、なんか、嬉しくて。
 その後、彼の気持ちが近づいてきた、のかな、と感じた時には、それが上乗せした感覚に、心がギュッとしてた。

 お仕事中に、エントランス、いつもより、ロックオンしてる自分に気づいた。似てる人がいるだけで、反応するし、それで違うと、うんとガッカリしたり・・・。

 こんな細かいこと、直接、彼には話したことはないけど。

 一緒に居る時は、私より、彼の方が気持ちをそのまま、伝えてくれる感じがして、すごく、嬉しいんだけど・・・本当に、そうなのかな、だとしたら、私なんかに申し訳ない、と思ってしまうぐらいで・・・。

 前にお付き合いしていた人とは違うかな。考えていることを、口に出してくれるのは、すごく、解り易くて、安心する、っていうことが解った。

 それまでは、男の人は、あまり、自分のこと、喋らないのかな、と思っていたから。
 私も、それが苦手だったから、何となく、自然消滅してしまったんだけど・・・あの時は、色々としてあげたいと思っても、言い出せなくて。

 変な話、一番近いなと感じていたのが、ベッドの中で。

 その時にやっと、目線や感覚的に感じるもので、彼の存在とか、気持ちのようなものを確認していたと思う。

 その時に、大丈夫なんだ、って思っていたんだけど・・・。


「なんで、いつも、びくびくしてるの?」

 え、どういう意味かな?

「俺のこと、怖い?」


 その言葉が出た時に、冷たい感じがして、肌を合わせているのに、表面的な感覚は温かいのに・・・

 彼の仕掛けてくる所作は、激しくても、心が見えない。
 怖いとか、思ってない筈なんだけど・・・
 それ以来、距離を感じてしまった。なんとなく、会わなくなって。


 お互いに、言葉を交わすことが、どれだけ大事か、衛司さんと付き合うようになって、本当によく解った。営業というお仕事柄、頑張って、そういう風にしているのかな、と思ってたけど、違うみたい。

 衛司さんは、普段から、沢山話せて、それが、苦になっていない人なんだなって。どんどん、思ったこと、言ってくれてるみたいで。

 逆に、貯めて置けない方なのかもしれないのかも。
 当然、私が、聞かれて答えることの方が多い。でも、それはそれでいい、って感じでいてくれて、問題でもなんでもないみたいで。・・・すごく、楽なの、一緒にいて。

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 昨日の夜、初めて、「今、会いたい」みたいなこと、連絡もらった時、以前なら、帰宅して、すぐに折り返して出て行くなんて感じに、私から動くことはできなかった。

「会いたいけど、飲んじゃって、車出せない」

 彼は、思ったこと、そのまま言っただけだったのかもしれないけど、私には、甘えてくれたようにも感じられて。

 なんか、すごい、嬉しかった。男の人なのにとか、年上なのにとか、以前ならあった、よく解らない、言い訳みたいな考えは、全く浮かばなくて、私も「会いたい」と思ったから。

 ・・・頭の中は、どうしたら、衛司さんが喜んでくれるかが先走って、やっぱり、お酒とか、作り置きとか、そっちのことばっかり考えてた。お蔭さまで、部屋着を忘れる始末で・・・。

 以前なら、心配で、自分の持ち物、沢山用意していったかも。

 ・・・全然、違う。

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「ああ、これ、可愛いじゃん」

 今だって、ずっと、女の子の服のお店にいてくれて。
 本当に、いいのに。家にあるから。

 こういうの、恥ずかしいとか思わなくて、苦にならないんだね。

 友達の彼が、同様の感じで、羨ましいと少し思ったことがあったし、買い物は一人でする方がいいかなと、その時は思ってたから。

 今、すごく、気恥ずかしいけど、嬉しい。ここは広いから、他のカップルもいるから、悪目立ちしているわけでもないし。・・・衛司さんと一緒だと、人の目が気にならなくなる。なんか、すごいことだと思う。後、多分、守られてる、って感じがするから。

 それで、私もリラックスできるのかな、と思うんだけど。


「こういうの、好きじゃないの?似合うと思うんだけど」

 わあ、ちょっと、これ、若い子が着るやつだと思うけど・・・。これが、私のイメージなのかな?

「ピンクだね」
「うん、ダメ?」
「・・・うーん、こういう感じ、好きなの?」
「あ、そうか、これ、制服に似てるか」

 なるほど、そういう感じなんだ。確かに、ピンクのブラウスで、パフスリーブだし、似てるかもね。見慣れてるから、なのかな?

「まあ、何度、見に来てもいいよ。ここなら、家から近いし。ただ、すぐ人気のものは、売り切れちゃうらしいからさ。出会った時がチャンスって、よく言うじゃん」

 なんか、少し、笑えてきてしまって・・・。
 お店の人みたいだね。

「何?」
「ううん、ありがとう」
「ああ、こっちのは?ワンピースもいいじゃん、ほら、似合うよ、きっと」
「白のサマーニット、綺麗だけど・・・汚しちゃいそう」
「うーん、サットンとか、カレーうどんは避けたいね」
「あはは・・・これ着て、サットンにはいかないと思うけど・・・」
「でも、デートでさ、朝、これ着てね、出かけてもさ、いきなり、夜、二人でサットン行きたくなるわけだよ」
「あー、あるー」
「だろ?俺たちだったら」
「あはは・・・」
「で、葛藤するけど、結局、服関係なく、サットンに行くわけ」
「でも、洗濯すればいいし・・・って?」
「だろ?やっぱり、あるよなあ・・・ははは」
「あ、でも、洗濯表示、これどうなってるかな、ニットだし・・・えー?これ、安い」
「ふふふ、良かったねえ。見て。ほらぁ、いいの、あったんじゃないの?」

 上手いなあ、衛司さん・・・。
 結局、プレゼントしてもらいました。でも、これも、お出かけ着で、部屋着じゃないね。

 あ、なんか、向こうの方、背伸びして見てるね。

「あのさ、UNAGAウナガの店も、奥にあったと思うんだけど」
「そうなんですか」
「ん?」

 ああ、敬語、使っちゃった・・・。

「・・・言ったね。後でね、もう、ダメだよ」

 ペナルティのことね・・・。
 今の顔、凄い、ニコニコなんだけど。

 甘い感じ・・・。
 こういう風に、顔近づけてくると、彼の臭いがする。
 でも、今日はコロンとか付けてないの、わかるから。
 好きな人の臭いだから、好きなんだけど。
 耳とか、首とかの傍、安心すらする感じ。不思議だよね。これって。

 人前で、こんなこと、感じてるなんてなあ・・・、前では考えられなかったことばかり・・・。

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 UNAGAは、なんとなくなんだけど、カップルが多い。
 年齢問わず、年配の方もいるのは、特に、奥のファブリックとか、食器のコーナーかな。あ、カーテンまであるんだ。今は、生活雑貨まで、進出してるんだよね。全部、揃えたら、高いけど、すごく、素敵なブランド。

「いいよなあ。少しずつ、揃えて行ってもいいよね」

 中年のご夫妻が、ベッドリネンを見ている。衛司さんは、その様子を見ながら、耳元で囁いた。んー、これって、もう・・・みたいな。

「あっ、これ、セール品だって、Mサイズのツインで、ほら、半額以下。有り得ないでしょ。UNAGAだよ。この値段。それに、この柄、フラワーボードだよ」
「この柄、よく見るけど、そういう名称なのね」
「知らなかった?それ、知ってる俺って、お洒落だったりして・・・?」

 ここで、結局、そのツインルックの部屋着を買う羽目に。照れ乍ら、多少強引に、衛司さんが、レジカウンターに持っていってしまったの。色違いのツインのフラワーボード柄は、出すと、すぐ売れてしまうと、店員さんも言っていて。

 結局は、趣味が合ってるのかもね。
 私もピアスがUNAGAで、衛司さん、枕カバーとか、ファブリックをそうしたいみたいで・・・。昨日の部屋着もそうだったかも・・・。


「良い買い物したなあ」

 うわあ、嬉しそう・・・、少し、可愛いとか、思ったりして・・・。
 本当に、こういうこと、好きなんだ。

 前の人から見たら、全然、正反対で考えられない。
 ショッピングがデートになるなんて、思いもよらなかったものね。


「じゃあ、次は、お待ちかねのレストランストリートね」
「え、もう、そんな時間?」
「少し前」
「んー、もう、お腹すいたの?」
「混むから。行って、オープンから並ぶんだよ。何がいい?」


 えー、どうしようかなあ?・・・衛司さんと食べたものは・・・。

 サットン、井筒ベーカリーのコッペパン、私のお弁当は、お握り、煮込みハンバーグ、ロールキャベツ、あと、副菜は少しずつね・・・。その中にないものがいいかな?

「東国風、素国風、ランサム料理、キャンティ料理、これ、珍しいね、スメラギ料理って」
「ここ、雑穀スープの専門店みたい」
「雑穀スープ?」
「トウモロコシが名産なんだけど、この国は、昔、国民が貧乏を強いられていたらしくて、その時に、少ない野菜の屑とか、雑穀をふやかして、量を増したことから始まった、家庭料理なんですって。今は、バリエーションも増えて、立派なスープのジャンルになったみたいね」
「へえー、そういえば、少し、歴史でやったよな。実は、遺伝的に、東国人とスメラギ人は、同根なんだって」
「数年前に、新国立国して、スメラギ皇帝は、東国の女性を、皇后に迎えたのよね」
「ああ、なんか、話題になったな。なるほど・・・でも、これって、美味しいのかな?」
「ちょっと、興味はあるかな、一度、食べてみたいと思ってたの」
「お、卯月さんが、やる気を出してるぞ。チャンスだ。これ、行こう」
「いいの?」
「いいよ、勿論、俺、好き嫌いないから、エスニックって分野だろ?この辺りは」
「前に聞いたことがある。赤ちゃんから、お年寄りまで食べれるし、沢山作れるから、軍隊でのベーシックな食事だとか、テレビでやってたかも」
「最近だよなあ、スメラギって国の情報、解ってきたの」
「うん、怖い国だって聞いてた。東国の人は不法侵入すると、有無を言わさず、殺されてたって・・・」
「最近は違うだろう?国王って、確か、俺と同じ齢なんだよ」
「そうなの?へえ、若い人なのね」
「俺も、国王になれる齢なんだな、あはは・・・さて、入ってみるか」

 スメラギの話は、とにかくとして、スメラギ料理のお店が出店されるようになったということそのものが、業界的には、チャレンジだと思うんだけど。こういうのも、絶対、前の人とだったら行かないし、衛司さんだから、新しいものに、っていう気も起こったり・・・。

 スメラギ料理のお店、「久遠クォーレ」は、店舗の中でも、なんとなく、間口が小さくて、わざとそうしてるのかな、という感じだった。

「ああ、なんか、可愛い本がいっぱい」

 本は売り物ではなく、料理を待っている時の閲覧用になっているらしい。

「『恋物』だって。何々?・・・スメラギの少女たちの唯一の娯楽作品。恋物語100冊セット。読んだら、元の位置に戻してください。・・・って、スメラギ語だね、これ。あれ?これ、金の表紙は、別冊で10冊配本中。これは、読めるやつね」
「あ、羽奈賀萩の本。『エスコーツ』だ」
「何?なんか、2.5次元展開してるやつね。イケメン舞台やってるの、月城歌劇団で」
「ああ、あちこち世界を回ってる劇団の?」
「そうそう・・・ふーん、わ、実名じゃん。皇帝も出てくるのか」
「各国の王様たちが、平和を築くまでのお話らしいけど、やっぱり、恋物要素があるみたいだから、最近、東国にも翻訳本が出るようになったみたいね。編集は色々、変えられてるみたいだけど」
「ほおー、まあ、まだ、スメラギに支店はなさそうだよね。うちの会社も。でも、そのうちね、もう少し、国交が盛んになったら、商業的なやり取りも増えるんだろうなあ」
「そしたら、衛司さんも行ったりして」
「それは、まだ先だなあ・・・海外旅行、興味ある?」
「うーん、行ったことないなあ」
「どっか、行こうか?アユラスとか、海、綺麗だよね。実は、ランサムには行ったことがあるんだ」
「へえ、さすが、衛司さん、藍語も話せそうだもんね」
「アユラスがいいなあ。海、綺麗で、キャンティ領だから、料理も海鮮が美味いらしいし、宝石の採掘体験ができるんだよ」
「うふふ、将来・・・行っても、いいかもね」

 ゆっくり見てると、お店の人がやっと、案内に来てくれた。眼鏡の店員の人、なんか、見たことがある。

「どうぞ、お好きな席に。まだ、開店したばかりだから、お客さん、少ないんだけど。知らないかもしれないけど、スメラギ料理は、東国人の舌に、ものすごく合う筈なんですよ」

 そう言いながら、メニューと、ボトル入りの水を出してくれた。水の中にはレモンが入っている。同時に、温かいお茶が出てきた。トウモロコシの匂い。コーンティーなのだそう。

「ああ、すごい、とうもろこしの味・・・」
「これ、スープと違うんだ」
「結構、上手いでしょう?うちの国でも、とうもろこし茶出す所あるよね。それより、濃いかもしれないね」
「へえー、美味いかも」
「食欲促進の作用があるって、書いてあるね」
「んじゃ、どれにする?まずは、その雑穀スープね」
「二人前、小さなアルミの寸胴で出てくるんで、それを、この小鉢で取り分ける形ね」
「じゃあ、一番、スタンダードに」
「わかりました」
「お勧めは?」
「ちなみにね、今から、料理の付け加えで、コースにできますよ。桐コースは、スタンダードの皇宮料理、柚コースは、素国風の海老の揚げ物が付きます。姫コースはデザートにイチゴ尽くしです」

 店員さんの顔、衛司さんもよく見てるね。オーダーを済ませた後、衛司さんが、私に耳打ちした。多分、私と同じこと、考えてると思うんだけど・・・。

「サットンの中野さんじゃない?あの人」
「・・・うん、私も、なんか、知ってる人だな、って思ってたんだけど・・・」
「スメラギ料理に進出したのか・・・すごいな」
「中野さんが眼鏡で、浅井あざいさんがあっさりしょうゆ顔の人だったよね」

 店員さん、ニッコリしてる。バレてるのが、バレたみたいね。

「じゃあ、間違えなく、美味い筈だ」

 大きな声、衛司さんったら・・・。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「彼女の心情」~その変わり目 第八話

お読み頂き、ありがとうございます。
今回が、彼女視点でした。いかがでしたでしょうか?

いきなり読むとわからないのが、『サットン』ですが、これは第一話に出てくる、ニンニク多め豚骨ラーメンのお店の通称です。「咲良とんこつ」というチェーン店で、初めて、この話の二人が、食事した店です。

UNAGAって、出てきますが、その創業者の学生時代が、ここに出てます。
ネタバレですが、そうなんですよ!!!

井筒ベーカリーって、その昔、200年ぐらい前は、お団子屋さんでした。そんな話は、こちらです。

スメラギの少女たちのバイブル、恋物語100冊セット、1冊目は、このお話です。

中野さん、羽奈賀しゅう、エスコーツ、月城歌劇団、などなど・・・後で、出てきます。
これらは、coming  soon    です。
ちなみに、エスコーツ関連は、こちらです。

 長くなりましたが、あとがき宣伝大会になりました。
 「守護の熱」の件は、完全に、ネタバレでした。
次回「その変わり目」は最終回です。どうなってしまうのか、お楽しみに!!

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