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一つ前の世界から

 久方の短編です。お読み頂けましたら、嬉しいです。
 この話は、恐らく、後になってみて、あるお話の兆し、のような位置になるかなと思います。



 あたし、そうだ、追い出されたんだっけ?
 何も悪い事はしてないのにな。
 いつだって、そうだから、仕方ない。

 でも、いつかは、どこかに、お家があって、お腹いっぱいご飯が食べられて、でも、へたくそだから、一緒にいる人に怒られたりするけど、なんとか、やっていけるらしくて。

 眠くなった時とか、色々と教えてもらえるんだけど。
 神様とか、皆が言う方なのかな?
 お腹いっぱいの世界に行ったら、一番やりたかったことができるんだって。
 だから、そこまで、生まれ直して、がんばっていけばいいんだって。

 ジビって、呼ばれていた。
 なんか、汚いとか、卑しいとか、笑われて、姉さんたちみたいに上手くできなくて。だから、そういう呼び方なんだなって。

 それで、何か、いっぱい失敗したから、追い出されたらしいんだけど。

 でもね、昨日、すれ違った人が、地面に文字を書いてくれた。

「地毘」

『いや、頑張ったら、名前が変わるよ』

「地毘」の隣に、「慈毘」と書かれた。

『覚えられるか?・・・覚えておけよ』

 文字が地面から、消えないうちに、指で何度もなぞった。

 そんなことしてるうちに、その人は消えてしまった。
 優しい感じの人だったけど、教えてくれたのは、それだけだった。

 その日から、前からよく話をしていた、地面や木の蔭から、覗いていた誰かが、傍にくるようになった。

「川の水、少しでいいから」

 ああ、わかったよ。でも、もうすぐ、雨が降る匂いがするから。
 そしたら、やっぱり、雨は降ってきた。よかったね。

 雨をしのぐのに、神様の祠にご挨拶した。
 少しの隙間を借りて、休ませてもらった。
 寝てる間に、雨は止んでた。

 お供物の茶色の握り飯、あたしの前にも、同じように、もう一つおいてあった。寝てる間に、間違えられたかな?

 だとしたら、嬉しいので、ありがとう。
 いただきます。

 さて、良く寝た。
 ・・・これから、どこへ行こうか?



 あれから、どのくらい経ったのか?
 あばら家だが、暮らせるようになった。
 おかしなもので、また、お供物が届いている。

 ああ、また、あの方じゃな。ご無沙汰しております。

『慈毘になれたか?』

 あの時と変わらず、お若いお姿じゃなぁ・・・

『顔が土気色だな』

 傍の水桶に顔を映していると、少し、精気が戻ったような感じだったが・・・おや、また、どこかへ行きなさったね。

 お人の姿の神様ではないかな?

 本当の神様では、この世では力が使えないと、最近わかったのじゃが・・・。
 お人の姿の神様じゃないと、この世と天の上の神様を繋ぐ御用ができないらしい。

 あの方は、きっとそうじゃな。
 最初にお会いした時から、ずっと、この世を行脚して、何かを整えておられる気がするのじゃが・・・。


 おい、おばば・・・
 ああ、なんじゃ、また、森の青い者たちがやってきた。

 おばばの器は、もうとっくに終わっておる。しらんかったか?

 おー、やはり、そうじゃったか。

 あの方のお蔭で、もう少し、伸ばされているんじゃよ
 だから、多少、痛くても、苦しくても、この世界で、生きている証

 聴いた、聴いた、その言葉。

「痛いのは、苦しいのは、生きている証じゃ、感謝せよ」

と、上の方から何度も言われたんじゃよ。

 おかしなもんじゃな。痛くても、感謝とは。割に合わないがなぁ・・・。


 何か、生きとって、お役に立てれば、良かったが・・・

 次の世界は、大変じゃ。
 いよいよ、お助けできるか、わからんが・・・。




 次に目を開けた時には、大きな龍様が、何柱か、顔を覗き込んでいた。

 あの日の「ジビ」だったことを、思い出させる為に、使命を果たす為に、機会を活かせと。

 時々、寝る所がなくなったら、どうしようと、心配することがある。
 だからかな。

 桜の花びらは、舞い落ちて、金になる。
 搾取された者に、戻し、分け与えられる世に変わるように。
 この星も、間もなく、危機から脱する。
 そのことを願い、祈り、願い、癒す。

 だから、こんなことしてるんだね。あたし。

 涙が留まることなく、流れた。

 大丈夫。
 このループは、あと少し。
 ですよね。

 



                      ~1つ前の世界から 終~

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