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#3「ナチュなる坊や」の思い さみしげなおじいさん

金曜日の朝、ママと『ナチュなる坊や』こと、はるまくんは、近くの公園にお散歩へ。静かで、木々の多いその場所は、2人のお気に入りだ。

ゆっくり散歩に来たのに、たくやくんのママとばったり会った。この二人のおしゃべりは、ちょっとやそっとでは終わらない。いつもの決まりきったような話を聞いているのは退屈なので、ママから見えるところで、公園に来ている人のウォッチングを始めた。

向こうから走ってくる人は、何かの大会に出るのかな?鍛えられた身体で、ぼくの横を風のように通り抜けていった。

あちらで犬の散歩をしている人は、どうみても2匹の犬に引きずられている。あのおばあさん、大丈夫かな?

ふと、大きな木のそばのベンチに目をやると、一人のおじいさんがぽつんと
座っていた。考え事をしているのかな。なんだかさみしそう。

ちょっと気になるから、近づいてみよう。
笑顔で「ナチュなる」
とそのおじいさんに声をかけた。でも、心がどこか別のところにあるようで
無表情のまま、反応がない。


あの人にもお友達ができるといいな。ぼくにとってのいつきちゃんのように。


そうだ。ナチュなる光線を公園全体にふりそそいでみよう。

「ナチュなるぅ~~~」

 ふわわわ~~ん

 ふわわわ~~ん 

(どこかにおじいさんの話し相手になる人は、いませんか?)


しばらく、みんなの動きが止まり、フリーズ状態に。


すると遠くからさっきのおじいさんと同じぐらいの年の人が歩いてきた。

おじいさんのベンチまで来ると、
「おはようございます。お隣に座っていいですか?」
と尋ねてきた。そして、「最近よくお見かけしますが、ウォーキングが何かの途中でこちらへ?」と声をかけた。

「いいえ、私は一人暮らしで、することもないのでここに座っているのです」

「そうなんですね。私はここにきてコーヒーをゆっくり飲むのが好きなんです。いつもカップは2つ用意しています。コーヒーがお好きだったら、いかがですか?」

「ありがとうございます。妻が毎日コーヒーを沸かしてくれましたが、半年前に亡くなりました。私はコーヒーのいれ方ひとつわかりません。こんな偏屈なじいさんに声をかける人なんていませんよ」

「偏屈? 誰かにそう言われたんですか?」

「いいや、自分でそう思うんですよ。今までは社会性のない私の代わりを妻がつとめてくれましたが、、、」

「自分でそんなレッテルを貼ったら、『灰色の人生』を自ら選ぶことになります。思い込んでいる世界なので、いくら周りの人が微笑んでも、それが見えないのです」「それって、ちょっと悲しくありません?」

(そうか。自分が好んで、孤独な世界にいたんだ)

一口飲んだコーヒーは少しほろ苦く感じたが、元気になれるような気がした。
「ありがとうございます。久しぶりのコーヒーは格別です」

その人は話を続けた。
「この公園の近くに『マカチョーネ』という喫茶店があります。座ればピタッとあたる占いのように、お客さんにぴったりの飲み物をマスターが考えて提供するちょっと不思議な店なんです」

私が初めてその店に行ったとき出されたのが『ホットチョコレート』
その時、仕事も家庭のこともうまくいっていなくて、相当イライラしていた。だからホットチョコレートが来た時、
「これは子どもの飲み物だ。私をバカにしているのか?」
と大声を出した。失礼だったけれど、イライラにホットチョコレートという選択が加わり、怒りが爆発して、自分でどうすることもできなかった。

あまりの剣幕にマスターもたいそう驚き、
「お代はいただきません。よろしければ一口飲んでください」
と言ったんだ。

「あなたが、そんな大声を出すなんて、ちょっと信じられませんが、、、」

おもわぬ大声を出して、 流石に私もまずかったと思い、一口飲んだ。
すると、あったかさが体全体に広がり、苦みもあるその甘さに、自分の子ども時代を思い出した。

幼き日の寂しさから、今まで子どもが好きな甘いものなどを頑なに否定してきた。その当時、両親はお金やもので私のさみしさを埋めようといていた。私はただ、そばにいてほしかっただけなのに。

親を恨むことで、なにくそと私は生きてきた。だけど、両親は私に愛情がなかったわけではなく、どうしようもなかったことが今なら、わかる。

たった一杯の飲み物で、私自身忘れていた感情に気づき、それに向き合って少し癒すことができた。

「さて、あなたにマスターはどんな飲み物を出すだろう。とても、興味があります」

「私には、さっぱりわかりません。苦味の強いコーヒーかな?」

「私は、あなたも甘み系だと思いますよ。それに加えて、まろやかな味のもの
じゃないかな?」
にやっとその人は、笑った。

「私はたいてい、9時から10時にこの公園にいます。妻は1人いますが、いつも一緒にいない方が、お互いかえっていいんです。あなたと、お約束はしませんが、またおしゃべりにお付き合いくだされるのであれば、このベンチに来てください。」


遠くで2人の様子を眺めていたはるまくん。
初めは、さみしげだったおじいさんの笑顔を見ることができて、安心した。


よかったな。

ナチュなる〜〜っ!~(⋈◍>◡<◍)。✧♡」~



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