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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はいいぞ!

!!! ネタバレを含む感想になります !!!



 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー著 
 日本語訳は小野田和子さん、早川書房から昨年12月に出版されてます。



 いつもありがとう、早川書房。


 私のライブラリを見ると『三体』、『紙の動物園』、『月は無慈悲な夜の女王』も早川書房。よくよく見ると伊藤計劃の『ハーモニー』も早川書房でした。恐るべし。
 原著は日本より7ヶ月早く出版され、即話題に。映画化も決定しているそうです。
 私が天才だったら原著で読めるわけですが、そうではないので日本の出版社が救いの神です。三体の続編待ってる間など、よその国の人は読み終わってるのに何故・・・? と悔しさを募らせるばかりでした。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は映画オデッセイ原作者の最新作ということ、評価の高さで購入を決意しました。
 プチアナログブームが来てる私は紙の本を買わせてもらいました。近所の本屋がリニューアルされたのも良いきっかけでした。
 そして本の探せないこと、探せないこと! 平積みになってるのに気づかず店内を何周もし、検索器を使っても分からず、最終的に店員さんに案内してもらいました。Kindleに慣れすぎて本屋で迷子になるとは・・・情けないです。



 ではでは、苦労して探した本とご対面です!


 帯はゲームクリエイターの小島秀夫さん、評論家の北上次郎さん、作家の野尻抱介さんが書かれてます。
 表紙はツルッとして指紋のつきそうな硬めの紙です。捲ると宇宙を思わせるような渋い銀色の厚紙にタイトルとグラフィック。そのあとは一般紙に切り替わって、○○に捧ぐ〜みたいなページ、ヘイル・メアリー略図、そして本文突入。目次なし。後書き、解説は下巻のみ。表紙と同じ黒い栞がついてます。
 やはり、紙の本は前に戻って読む時のスムーズさが全然違いました。なんて快適。そして新品の本でしか見れない栞の収まり方。あの絶妙な丸まり具合、久しぶりに見てときめきました。


 

 結末を迎えて?

 上下巻合わせて約600ページ。
 仕事日も含めて3日かけて読みました。とにかく情報量が多くて頭が痛い!
「先が読みたい! でも頭がパンクしそうー!」
 そんな葛藤を抱えつつ読み進むこと3日。
 読み終わった頃にはもうヘトヘト。
 本を閉じるともうすぐ日付が変わる時刻でした。ベッドに直行するには読後感に浸りすぎていたので、おもむろに双眼鏡を持ってベランダへ。春の星座を見て落ち着いてからベッドに入りました。
 目を閉じて、フルマラソンを走り切ったような達成感と疲労感を味わいつつ、自然とストーリーが蘇ってきます。
 ちょっと涙が出ました。


  宇宙人に会いたい!

『三体』の暗黒森林理論には非常に感銘を受けました。簡単にいうと、宇宙で誰かに出会ったらやられる前にやれ、という教えです。『三体』三部作では黒暗森林が一番好きです。
 だからと言って“ロッキー”を好きにならない訳がないし、タウメーバの秘密がわかった時、グレースに「ロッキーを助けに行け!」と叫ばずにはいられませんでした。
 私が子供の頃『E .T』を見た世代だからでしょうか、宇宙人がいるとしたらそりゃあ仲良くなりたいに決まってます。そういえば、透明なキセノナイト越しに対面するシーンは『E .T』の指を合わせるシーンと重なりました。

 

 ハッピーエンド? ディストピア小説?


 クルーの死、地球の危機的状況など現実的な描写もしっかりある上で、ディストピアものとは言い切れない明るさ。ミーバーガーは最後の最後にとんでもないブラックジョークでしたね。グレースは地球に帰れず異星で老いていくのに、あれはあれでハッピーな結末に思えてしまいます。浦島太郎状態で帰還するよりよっぽどいいかも?
 解説で作品に散りばめられたユーモアについて言及されていましたが、まさにその通りだと思います。エイドリアンと名付けたシーンはニヤニヤしながら読みました。
 作者が根明なんだろうな、と思わせられる爽快なストーリー(『火星の人』も読んだ人に希望を与えるラストになっているし)。次回作も読んでみたいです。


 SF沼との戦い

 SF小説は好きです。
 ですが、文芸小説など他ジャンルを読むのと比べてかなり気合いが要ります。だからどっと疲れます。他ジャンル読書が平泳ぎだとしたら、SF読書はバタフライです。


 もともとドのつく文系の私がSF沼にハマったのは、おそらく5年前。友人からダークマター、『2001年宇宙の旅』の話を聞き、映画『インターステラー』を勧められたのがきっかけでした。

 『インターステラー』が面白かったんです。

 でも、半分も理解できませんでした。

 ぎり話は追える程度で、何故そうなったのか、根拠や思考の流れがさっぱりでした。
 ファンタジーならそれで諦めもつくのですが、SFって、宇宙共通のルールに則って作った半分ホントの話らしいじゃないですか・・・。
 そこから火がついて、Wikipediaを検索しまくりました。Youtubeの家庭教師のトライを見て高校物理、化学、生物を復習。’’高校化学3年分これ一冊!‘’みたいなドリルを買ってアフターファイブは勉強。知識を入れながら新しいSFを見て読んで、分からないことが出て来たらまた調べる、その繰り返し。


 5年前の私は軌道もわかってませんでした。宇宙船はずっとエンジンをつけて飛んでると思ってました。だってスター・ウォーズそうだったから・・・。
 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読み終わって一番嬉しかったことは、“読めたこと“です。「このパートは何が書いてあるのかわからん!」ということが一度もなかったことです。
 やっとここまでこれた、嬉しい・・・! 感無量です。

 挫折しそうになったり、「なんでこんな苦行を自ら?」と思ったこともたくさんありましたが、頑張ってよかったです。
 『Dr.STONE』の千空が言う地道な努力の積み重ね=科学。グレースとロッキーが行った全工程もまさにそれだと思います。ほんの少しですが、自分も同じ気分を味わえて嬉しいです。


 好きなものリストに新しいものを加えられることは幸運です。好きなものは多ければ多いほどいい、と思っています。その分だけ、自分を元気にするツールが増えるからです。好きなものが多い人は強い。多分。そして、強い人は余力があるから優しくなります。最強です。


『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のここが好き!


①主人公が記憶喪失、進撃エレンパターン
②主人公が独身、「愛する人の為に・・・」を動機にしない
③人間以外の生命への愛、非人間至上主義

 ①場面が現在と過去に切り替わり、主人公と一緒に謎解きをしていく臨場感が心地よかったです。どんどん引き込まれるし、推理する楽しみもありました。

 ②例えば、愛する妻や子供の為に困難に立ち向かうぞ! という展開も悪くはないです。悪くはないですが、じゃあその人さえ無事ならいいのかい? というツッコミが抑えきれないので。
 特別愛する人がいてもいなくても、人間やる時はやるんじゃないかと思います、そのスキルがある人なら。あまりドラマチックな展開ではないけど、現実味があって私は好きです。

 ③ロッキーへの友情。ロッキーの星の住民への思いやり。タウメーバ、アストロファージから連想される生命の神秘への畏怖。
 ここまで対象が広がると、現実世界のように血の繋がった家族、恋人は特別という考えが揺らいできませんか? また、人間だけが尊厳ある生命ではないと伝えてくれます。エンディングが異星人の子供たちを教育するシーンで終わるのも象徴的だと思います。そういえば残念ながら、愛らしいロボットやAIは出てきませんでした。何か意図があってのことなのでしょうか? 次回作に期待します。


 映画化は決定しているけれど、

 読みながら、途中までは映画も見に行こうと思っていたのですが、今や自分のイメージが完成してしまいました。映像化されたものとギャップがあると困るので、要検討にしとこうと思います。


 最後に一つだけ。


 これまで、話がちゃんと理解できた、嬉しい! と自慢げに言ってきましたがどうしてもわからない所があると白状します。
 アストロファージがニュートリノを利用して質量変換して云々の件・・・さっぱりわかりませんでした!
 また勉強を再開します。量子力学を検索すればいいのでしょうか、分かる方いたらぜひ教えてください。


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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