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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #62.1

いつの間にか眠っていて、そのまま朝になっていたらしい。
重たい身体を起こし、いつものように支度をして、学校に向かった。

起きてから学校に向かう今まで、スマートフォンを何度も確認したが反応はなかった。

「キネンくん」

改札を出ると、ドレラとキミオ君が立っていた。

「お久しぶりです」

「そんな久しぶりじゃないでしょ」

ドレラが横でクスクス笑っているのを見て、気がついた。よくみたら楽器も持っているし、なんとなくだけど雰囲気も違う気がする。それはキミオ君に会った回数が多いからかもしれないけれど。

「ごめん、ミキオ君」

「お気になさらず。双子にとっては日常ですから」

爽やかな笑顔を起点に僕らは歩き出した。それにしてもこの双子の礼儀正しさには驚きっぱなしだ。育ちの良さというか、そんなようなものが何もしていなくても醸し出されている。そう考えると、ドレラだって自由奔放に見えて、他人の気分を害するような振る舞いは全くない。でも、ドレラは記憶を無くしてるんだから育ってきた環境は関係ないのか。育ちよりももっと根源的なDNA的なものなのだろうか。なんだかよくわからなくなってきた。

「ねぇ、聞いてる?」

「うん、聞いてるよ。あれでしょ、ミキオ君の部活が大変だって」

「全然違うし。もっと大事な話、ビギーのこと」

そういえば朝家を出る前に夜中のことをメールで伝えておいたのだった。

「ごめんごめん。朝から確認してるけど、今のところ反応なしだね」

「そっか」

「もうちょっと待ってみようよ。ほら、まだ他所からの悪口みたいなのもないし、これから反応があるはずだよ」

「うん、そうだね」

そうは言ってみたものの自分自身不安だった。これが駄目ならどうしていいかわからないし、もう打つ手が思い浮かばない。

授業が始まっても集中することができなかった。一度ドレラの方をチラと見てみたけど、いつもと変わらない様子だった。彼女は今、何を考えているのだろう。わからない。そんな感じで、とにかく時間が過ぎるのを待つしかなかった。

無事に昼休みを迎え、すぐにスマートフォンをチェックすると、大きな変化が訪れていた。僕はドレラの席に近づき、耳元で囁いた。

「ドレラ、来て」

すぐに感づいたドレラは素早く立ち上がり、僕の腕を掴んで屋上に向かった。急かされる側にまわった僕は、彼女引っ張られながら屋上にたどり着いた。

「ねぇ、はやくはやく」
スマートフォンの画面をドレラの前に差し出した。それぞれの通知が4、50件、ものによっては100件を超えていた。

「え、これ全部がそうなの?」

「まだ中身はみてないけど、多分そう」

多分ではなく99.9%そうだ。悲しいかな、普段返信が来るような相手は僕にはいない。

「すごいすごい」

その場で僕はさらに大変なことに気が付いた。

「ちょっとまって、DMが来てる」

画面を自分の方に戻し、確認する。そこにメッセージが届いている。

「ドレラ、きた!」

「え?」

「来たんだよ、イギーから!」

「うそ、ホントに?」

「ダイレクトメッセージの返信だから、相手はイギーしか、い、いない、はず」

「ヤバいヤバいヤバい」

興奮で今にも身体ごと破裂しそうな勢いだ。

「ちょ、ちょっとキミオ呼ぶ?」
「そうだね、できれば訳してほしいね」

すぐさま電話を掛け始める。校内で通話は禁止されてる気がしたけれど、言わずにおいた。聡明なキミオ君なら察するだろう。

「出ないなー」

「いや、通話禁止だし」

すると、打ち合せでもしたかのように鉄の扉が開き、キミオ君が現れた。朝会ったミキオ君と違う、といいたいところだけど、やっぱり見分けがつかない。

「やるじゃない、キミオ」

「どうも。学校で電話してくるなんて、きっとそんなことだろうと」

さすがキミオ君。予想した通りだ。

「ちょっと、見てくれる、これ」

僕の腕ごとスマートフォンをキミオ君の前へ持って行った。気にせずキミオ君は画面を見つめ、一つ一つの文を吟味しながら読んでいった。一番下までスクロールし終えると、僕ら二人に目配せした。

ワクワクしながらメッセージを聞く。

「親愛なるキネン、ドレラ。はじめまして、そして連絡ありがとう!私は今信じられない気持ちでこれを書いていて、実に興奮している。ビギーが無事に見つかったこと、本当に嬉しい。ビギーは私の大切な友達で、何者にも変えられない宝物だ。彼のことを心配し、本当におかしくなりそうだった。

怪しい情報も沢山送られてきた。でも君たちのは何か違った。直感でそう思ったんだ。そしてそれは正しかった。愛すべき日本にビギーがいて、愛すべき日本の高校生に助けてもらえるなんて!

すぐにでも行って、ビギーを抱きしめて、君たちにもキスをしたいのだけれど、私は当然日本にはいないし、すぐに向かうことができない(私はちょっとだけ有名で、ちょっとだけ忙しい人間なんだ)。

だからと言って何もしないわけには、もちろんいかない。下のアドレスに君たちの口座番号を入れてくれ、すぐに送金させてもらう。ビギーを取り戻してくれ!!

もし何かあったら、このメッセージに返信してくれ、すぐに対応する。

それじゃあ、日本の友人、キネン、ドレラ、君たちを信じてる。ビギーを救ってくれ。ラブ&ピース。

イギーポップ。

(続く)

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