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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #55.0

自宅に戻り、少し遅めの夕食を済ませた。部屋に戻って、PCの電源を入れ、
デヴィッド・ボウイについて少し調べた。食井さんが教えてくれたアルバムが相当に有名なアルバムであることもわかったし、イギーとの関係も多少なりとも理解できた。

何よりボウイさんの偉大さが、ネットサーフィンをしてるだけで分かりすぎるほどにわかった。多分それってすごいことなんだと思う。そして動画サイトの検索窓に「david bowie」と入力し、さらに「Moonage Daydream」も打ち込んだ。公式の音源もあれば、ライヴ映像もあり、さまざまなアーティストのカバーも出てきた。それにしてもサムネイルを見ているだけでも様々なボウイの姿があって、変化を繰り返していたことがわかる。「Moonage Daydream」を通じて僕はボウイというアーティストにかなり興味を持った。ビギーとイギーのおかげといっていいかもしれない。

それらの動画から良さそうなもの選び順番に見ていった。

3つ目の動画を見ている途中で、テーブルに置いたスマートフォンが振動した。ドレラからのメールだった。

件名 何してる?
今日はありがと。今ね、ボウイさんの動画見てたんだけど、すごいよ!!
なんかいろんな姿してて、何人もいるみたいなの。なんかカメレオンみたい。

いまいちよくわからない部分もあるけど、興奮しているのは伝わってきたし、何より自分と同じことをしているのが嬉しかった。

返信しようとしたときに、もう一通ドレラからメールが届いた。

件名 例の
例のメッセージはどう?できそう?

そのメッセージを見て、少し正気に戻る。どうやら自分でも気がつかなかったけれどずっと興奮状態だったみたいだ。メッセージの件も忘れてたわけではないけれど、頭の端っこに追いやられていた。ま、それを忘れていたというのかもしれないけれど。

僕はすぐに返信メッセージを打ち込み、送信した。


件名 こんばんは。
僕もちょうど動画見てたところ。デヴィッド・ボウイすごい。メッセージはこのあと取り掛かるつもり。明日、キミオくんに渡すよ。

すぐさま「楽しみにしてる」という返信が届いた。うん、嘘はついていない。今から取り掛かれば、できるはず。少し後ろめたい気持ちで、動画サイトを閉じ、テキストエディタを立ち上げた。

僕は悩み、細心の注意を払いながら、何度も何度も、書いては消し、書いては消しを繰り返し、ことを勧めていった。

ビギーを発見したこと。嘘ではないこと。僕らが日本の学生であること。イギーのファンであること。ビギーがなぜか日本にいること。なんとかあなたにビギーを届けたいこと。急がないとそれが叶わないこと。要するにお金もないし信用もないけど、信じてほしいと訴えた。

これらをできるだけ丁寧に、わかりやすく伝えるよう最大限の努力をした。

もちろん僕という人間がやってるわけなので、限界はあるけれど。ドレラに喜んでもらいたい。その一心で。

何度も見直し、自分が納得できるところまで書き上げることができた。テキストを保存し、スマートフォンにも転送した。明日これをキミオ君に渡せばオーケーなはずだ。

モニターの端に表示された時刻を見ると、二時を過ぎていた。明日の授業は終わったなと思いつつも、充足感に包まれていた。明日のことを考えながら、眠りに落ちた。

翌朝、家を出る前にドレラにメールを送った。文章が完成した件、それをキミオ君に渡したい旨を。別にメールで転送してもらえばいい話なのかもしれないけど、直接会って渡した方が良い気がした。すぐにドレラから返事が来て、昼休みに屋上で、ということになった。

登校中、電車を降りて改札を出たところで、ミキモト君と遭遇した。

「おはよう、ミキモト君」

「おはようございます、星野君」

電車から降りたばかりだというのに、なぜか肩で息をし、鼻の頭に汗をかいている。暑苦しいことこの上ないが、口には出さないでおいた。

「まだ7月なのに暑いったらないですね」

僕としてはまだそれほど暑さを感じてはいなかったが、彼の体感温度は違うのだろう。今日もよく晴れているけれど、どちらかといえば過ごしやすい陽気といえた。

「それはそうと、今日は七夕ですね」

「そうか、今日は7日だったね」

七夕にそれほど、というかほとんど思い入れのない僕は、なんの感情も持たない返事を口にした。

「今日はいい天気なので、天の川がよく見えますよ、きっと。織姫と彦星も無事会えそうですね」

見かけによらずロマンチックなことを口走る彼。

「でも二人は天の川をどうやって渡るんですかね。船とか?あれ、そもそもどっちが渡るんですかね、二人して渡るのかな?」

考えたこともなかった。

「橋とか渡るんじゃないの?」

「橋が掛かってたら毎日会いにいけちゃうじゃないですか」

「確かに」

そんな話をしているうちに学校に到着した。僕達はそれぞれ自分のクラスに入っていった。昼休みの件をミキモト君に言うべきか迷ったけれど、ややこしくなりそうなので、言わずに別れた。いや、むしろ彼が知らぬ間に屋上にいないように気をつけなければいけない。

教室に足を踏み入れる。教室に入るとまず最初にドレラの姿を探してしまう。いつのまにか僕の癖みたいなものになっていた。けれどそこにドレラの姿はなかった。まだ来ていないようだった。

(続く)









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