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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #65.0


ミキオ君はキミオ君からビギーの件は聞いているらしく、僕たちがやろうとしていることを知っていた。むしろそのことにドレラが「なんで知ってるの?」と驚いていたのが可笑しかった。

おばちゃんが運んできてくれたラーメンを啜りながらスマートフォンをチェックした。その瞬間、箸をスープの中に落としてしまった。

「ちょっと、どうしたの」

「イギーから返事」

「うそ、なんてなんて?」

君なら画面をそのまま渡すところだけど、今日はミキオ君なので、自力で  (ミキオ君も英語ができるかもしれないけど)、読む努力をした。

「サンキューとか、ラブとか、ドルマークとかあるから、多分お金を振り込んだってことじゃないかな」

今にも飛び出さんという勢いで席から立ち上がるドレラ。カウンターでひとり、肉野菜炒めを食べている男性客が横目でチラリとこちらを見たが、すぐに目の前の食べものに興味は戻された。

「ちょっと待って、まだお金が入ったわけじゃないし、この後のこととか考えないと」

「この後って?イギーにどうやって渡すとか?」

「それもそうだけど、それまでどうやって預かるかとか」

「とりあえず落ち着きなよ、ドレラ」

ミキオ君が優しく制す。

弟の前で慌てた姿を見せたのが恥ずかしかったのか、照れながら席に着く。

「確かに現実味がなさすぎて先のことを考えてなかった」

「無理もない。今だって半信半疑というか、どこか信じてないふわふわした感じだもの」

「まずは、ビギーを引き取った後どうするかと、どうやってイギーに届けるか、だね」

「イギーが引き取りに来てくれるとか…」

正直僕も同じように思う。もしかしたら動物とか鳥に関しての飼育とか移動の法律とか条例とかあるのかもしれないし、そもそも知識もないのでどうしていいかわからない。

「まずはどうやって保護するかだけど…」

僕はドレラではなくミキオ君の顔を注意深く見た。そこになにか仄暗い感情があるかどうか。しかし僕にそれを見つけることはできなかった。

「ウチは、どうかな?」

ドレラがミキオ君にお伺いを立てるように話す。

「どうだろう?なんとも言えないな」

僕にはそこに少しのマイナス要素を嗅ぎ取った。それほど考えなくてもわかる。ドレラのことを考えると、どんなことであれ歓迎されるとは思えない。

「仕方ない。とりあえずは僕の家で保護するよ」

「ほんとに?」

「問題ない、ことはないけど、まぁなんとかしてみるよ」

「ありがとう。じゃあ、毎日キネン君の家に行くね」

ドレラは感謝の気持ちで満たされた表情で言った。そしてこれは僕にとっても思いがけない収穫かもしれない。

ミキオ君も微笑みながら頷いた。

「ビギーにとって良い環境ではないかもしれないけど、少しの間我慢してもらおう。帰ったら飼い方とか調べてみるよ」

「ありがとう、キネン君」

その後僕らは、他愛もない会話をしながら運ばれてきた料理を食べ、楽しんだ。ミキオ君はもしかしたらドレラが心配で来たのかもしれないとふと思った。僕が信用されていないとかではなく(それもあるのかもしれないけど)、どこまでも姉が心配でいる、まったくそんな素振りは見せないけれど、なんとなくそんな行動な気がした。

二人と駅で別れ、家に帰った。お腹はもちろん空いていなかったので丁重に夕食をお断りし(もちろん文句を言われた)、部屋で寛いだ。パソコンでキバタンについて少し調べてみる。「キバタン 飼い方」という安直な検索をしてみたが、それなりに出てくる。でも、エサ代(シードとかペレットとか聞いたことのない単語が出てきた)が結構かかることや、ゲージを壊すとか、ネガティヴなものもあって少し怖くなってしまった。一応飼うことはできるとわかっただけでも収穫だったと自分に言い聞かせ、0時になる前には眠りについていた。

その夜、夢を見た。イギーがビギーと同じキバタンになってビギーを迎えに来るという夢だった。顔がイギーになっているとかではない、純粋にキバタンの姿をしている。でも僕にはそれがイギーだとわかる。イギーは何も言わず、鳴きもせず、ビギーの鳥籠の前に降り立ち、そして造作もなく嘴で鳥籠の入り口を空けビギーを外にだす。そしてなにか目配せのようなことをし、ビギーが同意するように低く唸るとそのまま窓から外へ飛び立っていった。僕はそれをただ眺めているだけだった。

翌朝目を覚まし、スマホの通知を見ると、イギーからの返信と、銀行からのアクセス通知が届いていた。両方にざっと目を通す。英語が苦手な僕でもわかる。イギーが約束通りお金を振り込んでくれていた。

ロックスターにとってははした金なのかもしれないけど、一般的には大金といえる額だ。それを素性もわからない日本の高校生を信じて、さっと振り込むなんて。

昨夜の夢と地続きのような気がする。けど、こっちが嘘のような現実だ。枕元のスマートフォンを手に取り、早速ドレラにメッセージを入力する。詳しいことは会ってから話をしたかったので「来たよ」とだけ打って送信した。

(続く)







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