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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #29.0

空は薄暗く、青い部分は欠片もなかった。そんな空模様とリンクするかのように気持ちが沈んできた。そんな時、またしてもと言うべきなのだろうか、ミキモト君が現れた。潜んでいなかったことが証明されたが、今はあんまり歓迎したくなるタイミングでもない。

「き、昨日はどうも、ほ、星野君」

相変わらず挙動は怪しい。窮屈そうなワイシャツと制服のズボンが彼らしさをさらに強調している。彼はあたりをきょろきょろ見回している。

「本当に、今来たの?」

僕は本気とも冗談とも取れる言い方をした。

「やめてくださいよ、前だって隠れてたわけじゃないし、そっちが・・」

「冗談、冗談」

「お一人ですか?」

「うん、浅野さんは今日も来てないよ。君の方が知ってそうだけど」

「いやいや、ずっと家を見張ってるわけじゃないですから、わからないですよ」

どうだか、と思いながらも口にはしない。

「それで、また何か用?浅野さんのことは変わらずわからないよ、連絡もないし」

「いや、浅野さんにも興味はありますけど、き、今日は星野君と話したいと思って来たんです」

「僕と?」

「そうです。おかしいですか?」

「いや、別におかしくはないけど、あんまりいるタイプではないね」

もしかしたら僕と友達になりたいのかもしれない。いや、かなりそんな気がする。

「星野くん、部活とかはやってますか?」

「いや、帰宅部だよ。運動は得意じゃないし、文化系もちょっとね」

「普段は何してるんです?」

出会いが出会いだっただけに、どうにも彼を信用できない自分がいて、慎重にならざるを得ない。

「家で音楽聞いたり動画みたり、健康かつ健全な生活をしてる」

「それは実に高校生として健康で健全ですね」

ここで、君は何を?と聞くのが真っ当なコミュニケーションというものなのだろうが、生憎それをするつもりは僕にはなかった。そのまま黙っていると、ミキモト君がまた聞いてきた。

「バイトとかはしてるんですか?」

「いや、してないよ。その点では高校生らしくないかもしれないけどあんまり物欲がないんだ」

言ったあとに、言わなきゃよかったと後悔した、なんだか格好つけてるようで実に格好悪い。そもそも物欲だけでバイトをしている高校生もどれくらいいるのだろうか。彼は僕の答えに特に反応せず、今度は聞いてもいないのに自分から話はじめた。

「僕はバイトしてるんですよ、週一回、日曜日だけなんですけどね」

一瞬だが勝ち誇ったような、自慢してるような雰囲気が漏れた気がした。やはり彼とは友達になれないかもしれない。

「そう」

「なんだか素っ気ないですね、星野君」

意外に鋭い。仕方ないので少しは興味を持つふりをした。

「そんなことないよ。な、何のバイトをしてるの?」

「よくぞ聞いてくれました、実は家の近くのペットショップで働いてるんです」

僕はすぐさまドレラの家の魚、二匹のブラックゴーストを思い出していた。

「そこってブラックゴーストは売ってる?」

「ブラックゴースト…ですか?初めて聞きました、猫の種類とかですか?」

そうか、ブラックゴーストが売ってるのはペットショップではなく熱帯魚屋か。いや、熱帯魚屋ってあるのか?ドレラはブラックゴーストをどこで買ったのだろう?

「あ、熱帯魚。ペットショップでは売ってないか」

「熱帯魚は流石に扱ってないです。でも鳥とか亀とかも扱ってるんですよ」

「ふうん」

会話が止まり、ぬるっとした空気が僕らの間を流れていった。決して心地よいものではなかったが、僕は気にせず、やり過ごした。そこに突然ドレラが現れた。

「ねぇねぇ、キネン君、何の話?ていうかあなた誰?」

僕は驚きのあまり立ち上がってドレラに近づいた。

「ちょ、ちょっと待ってよ、どうしたの?」

「何が?」

「いや、今日も休みかと」

「いや、用事も済んだから午後から登校できたんだ」

「連絡くらいくれても‥」

「あ、ごめん、スマホ水没しちゃって」

「水没?マジ?」

「ウェンディとレミーにエサあげようとしたら、スルリと手からこぼれ落ちちゃって、そのままバシャンて」

あっけらかんと話すドレラに拍子抜けしたけれど、久々にドレラに会えて喜び興奮している自分がいた。

「お、お取り込み中すみません」

「あ、こんにちは。さっきも聞いたけど、どなたですか?」

「ミキモトコヤギって言います」

「コヤギ?」

二人の声が揃う。ドレラと一緒に僕も反応してしまった。

「ミキモト君て、コヤギって言うの?」

「あ、今、全然コヤギっぽくないって思いましたね?」

「いやいや、そんなことは思ってないよ。ただ僕が言うのもなんだけど変わった名前だなって」

「祖父が落語が好きで。柳家なんとかさんをもじってつけたらしいです。なので厳密には動物の山羊さんのコヤギではないです」

「で、コヤギ君はキネン君のお友達なの?」

「そうです」「まだわからない」

僕とコヤギは同時に答えた。お互い相手の答えに驚いたらしく、二人で顔を見合ってしまった。その様子を見て、ドレラがくすくす笑いだした。

「友達以上恋人未満じゃなくて、知り合い以上友達未満て感じなのかな。いいじゃん、仲良くしなよ」

「はい」「いや、それは…」

再びドレラが笑い出す。

「いや、二人お似合いだよ。コヤギ君、キネン君をよろしくね」

「はい」

嬉しそうにコヤギは頷いた。

「いや、ちょっと勝手に決めないでよ」

「いいのいいの、キネン君て私しか友達いないから、コヤギ君、仲良くしてあげて」

(続く)






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