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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #50.0

「なんと、ビギーの歌には規則性があって毎日違う歌を歌うんです」

「土曜日から今日までのデータですから、数は少ないですし、なんとも言えないですけど、少なくとも昨日までは毎日違う歌でした」

「すごいよ、ミッキー」

そんなに長い付き合いではないが、おそらく、いや間違いなく褒められると調子に乗るタイプの男なはず。そしてドレラに褒められるのは正直羨ましく、言いたくないけれど嫉妬している自分がいた。

「しかもですよ、浅野さん、聞いてください、ビギーは歌う時間も決まってるんです。毎日10時と18時になると、決まって歌い出すんです。バイトじゃない日も他のバイトの人に確認してもらったり、自分が出向いて確かめました」

偉いでしょ、凄いでしょ、という言葉が口には出さないけれど、続くように聞こえた。

「偉いよ、凄いよ、ミッキー」

喜ぶドレラとしたり顔のミキモト君。僕は自分がどんな顔をしているのかわからなくなった。それでも何か言わなきゃという気持ちが働き、

「そ、それで、きょ、曲は撮れてるの?」

となんとか口にした。ミキモト君は、もちろん、とはいわずに再びスマホの画面を僕らに向けた。

そこには水着姿の赤髪の美少女が写し出されていた。

「ミッキー、今度は赤い髪の可愛い子になってるよ、ビギーが」

「あ、違います、こっちです」

照れもしないところがミキモト君のミキモト君たる所以かもしれない。再び僕らにスマホを向ける。今度はしっかりとビギーが映し出されていた。

「あ、ビギーだ」

ドレラの顔が綻ぶ。

「お二人を連れて行ったのが土曜日ですよね」

「あ、あのときも10時くらいだったね」

ドレラが興奮気味に返す。

「そうです、そしてこれが日曜日の歌です」

画面に集中し、耳を澄ます。ビギーが歌い出す。10時の分と18時の分の2回。それは同じ曲だった。

「知ってる、ドレラ?」

首を横にふる。もちろん僕もどちらも聴いたことはなかった。

「でも、どっちも聴いたことあるような、ないような。なんか頭の片隅に引っ掛かるような感じがする」

続いて月曜日のビギーも見せてもらった。日曜日とも違う歌で、やはり2回歌っていた。僕はもちろんドレラもやはり聴いたことのない歌だった。さらに、最新と言える今日の10時の動画もバイト仲間に送ってもらっていたみたいで(意外と仕事のできる男なのかもしれない、ミキモト君は)、それも見せてもらったが結果は同じだった。

彼の得意満面の表情は敢えて無視しながら、考えを巡らす。なにかの合図とかそういうものに違いないだろう。10時と18時にイギーとなにかしてたのだろう。僕が正解を導き出すより前に、ドレラが閃いた。

「わかった、ご飯の時間だ!」

「確かにそうかも」

「ねぇミッキー、お店だと餌の時間はいつ?」

「ペットにもよりますが、ほとんどが朝と夜の2回ですね」

「時間は?」

「これはお店の都合ですけど、朝ごはんは開店前に済ませます。夕飯はバイトのシフトチェンジで遅番の人たちの最初の仕事として18時のことがほとんどです」

「ほら、食事の時を思い出して、同じように歌ってるんじゃない?」

ドレラは真っ直ぐ僕の方を見て、答えを待った。期待に添う答えを繰り出す。

「うん、僕もそう思う。だいぶいい線いってるんじゃないかな。きっとビギーはその時間にイギーと食事をしてたんだと思う」

敢えて餌をあげるとか貰うという表現は避けた。明らかにドレラの表情が輝く。そして僕からのさらなる答えを欲しがっている。

「なにかの手がかりにはなるだろうから、ミキモト君は動画の撮影を続けて欲しい。そして僕たちは何の曲を歌ってるのか探ろう」

ミキモト君は了解のハンドサインを右手で示し、ドレラは高速で頷いた。

「でも、曲はどうやったらわかるのかな、僕たちだけじゃわからなかったし」

ちょっとSNSでも上げて聞いてみようか?でも、ビギーのをそのまま上げるのはまずい気がする。

「どうしようか?詳しい人がいればいいんだけど」

その言葉にドレラが反応する。

「いる!いるよ、詳しい人!!」

「え、誰?」

ドレラは答えを言う代わりに、企みと微笑みが半分ずつの表情を僕に向けた。

「放課後ちょっと付き合って、キネン君。その人のとこに行こ」

「え、あ、うん、もちろんいいけど」

「決まりね。楽しくなってきた」

そう言うと、まるで舞うように動き、入り口の暗闇に吸い込まれるように階下に消えていった。僕とミキモト君は屋上に二人で残される結果になり、しばらくの間、ドレラが吸い込まれていった暗闇を静かに見つめていた。

放課後になり、教室が部活や帰宅の準備でざわつく中、ドレラは視線を僕に送り、合図をしてきた。僕は黙って肯き、教室を出るドレラに続いた。少しずつだけど、校内での距離をドレラが気にしなくなってるように思えて、照れくさくも嬉しかった。

校門を過ぎる頃には僕らは並んで歩いていた。僕は頃合いを見てドレラに訊ねた。

「詳しい人って誰なの、そして一体どこに行くの?」

(続く)

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