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【小説】速いおばさんを追え(1089文字)

「待てぇー! このクソババァ!!」
「嫌だね! 待てと言われて待つバカはいないんだよ!」
「クソォ!!!」

 夜に自転車に乗るおばさんを追っていた。このおばあさん、なんと自分が普通に歩いていたところをバッグをひったくりをしてきたのだ。
 そして今そのおばあさんを追っているという状況だ。だが、そのおばさんはとんでもないスピードで走る。

「クソッ! 陸上部のエースと言われていたこの俺が何で追いつけないんだ!」
「最近の若者はまだまだじゃなー。ワシが生まれた頃なんて争いの絶えない血で血を洗うような抗争が日常茶飯事だったというのにのう」
「うるせぇクソババァ! これでも食らえ!」
「うぉ! それは反則じゃ!」

 自分は陸上部の槍を片手に持って自転車に向けて投げ付けた。

「うぉー! パンクしてもうたわ! これじゃ自転車が使い物にならん!」
「終わりだなぁ、ババァ!」
「ひっ、ひぃぃぃーーー!!!」

 自転車という道具を失ったおばあさんは万事休すだった。

「さてと、これで終わりだぜババァ!」
「だから言ったじゃろ。まだまだだなって。ワシを殺す気で来ないとお主のバッグは取り戻せんぞ」
「な、なにぃ!?」

 おばあさんが走り始めた。しかもめちゃくちゃ速い。それも自転車に乗っていた時以上に。
 おばあさんが走ると風が起こるぐらいにとにかく速い。

「待てぇー! 絶対に逃がさないぞ!」
「お前みたいな青二才にワシは絶対に捕まらん!」
「クソッ! なんつー速さしてやがんだこのババァ!」

 陸上部のエースである自分もさすがに絶望した。 捕まえるのは無理かもしれないと思わせるほどの速さだった 。
 これが激動の時代を生き抜いたババアだというのだろうか。

「お主とは年季が違うんじゃよ! わしは昔からこうやって盗みを働いて生きてきた。しかも捕まることは一度もなかった。それがどういうことがわかるか? お前には絶対に捕まえられないってことじゃのう!」
「クソッ! 本当に殺す気で行くしかないのか!?」

 その時だった。

「うぉ…!? うぐぐぐがぁぁぁぁ!!!」
「ど、どうしたババァ!?」

 ババァが急に苦しみ始めた。

「んあああああ!!!」
「お、おい大丈夫かよ!?」

 一瞬ババァの演技かとも疑ったがどうやらそうじゃないらしい。

「クッ、とうとうワシも捕まる時が来たようじゃな…。さすがだ坊主…」
「バ、ババァ…」
「………………」

 おばあさんは走っている途中に寿命が来て息絶えた。

「まったくなんてすばしっこいババァだ。まったく、速すぎてあの世まで逃げていくなんてよぉ」

 短い間だったがババァとの奇妙な友情を感じた。盗まれたバッグはババァと一緒に燃やした。

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