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AIが恋愛の感情を分析したパンがあるらしい(2月エッセイ②)

最近暗いニュースが続いている。
自分たちでどうにかできることばかりではないから仕方ないのだけれど、どうにかできないからこそ歯がゆいと感じる。
会社で先輩たちとそんな話をしていると、1人が「AIが恋愛の感情を分析したパンが売ってるらしいですよ」と言い出した。何か明るいニュースはないかと調べてくれたのだろう。

サイトを眺めながら「失恋の味とかもあるみたいですね。」というひと言に僕は思わず、なんでパンを食う時にも失恋を味わなければならないのかとツッコんでしまった。
腹を満たして、エネルギーを回復したいのに、なぜセンシティブな気持ちにならなくてはいけないのかと思った。
でも、数十秒考えてから気づいた。実際落ち込んでいる時ってそうか。明るい曲よりも、わざと暗い曲を聴いて、自分に寄り添ってもらうことってかなりあるよな、と。

自分1人で考えて、自分の中に答えが見つけられなくても、音楽や映画に自分を投影して、自分自身を見直した経験は何度もある。
パンは食べていないけど、暗い気持ちの時に暗い曲を聴くという、一見すると変なことを普段から当たり前のようにしているという気づきを得た。

食べ物と感情がセットになっている時ってどんな時だろう。
甘いものを食べている時は、仕事終わりとか風呂上がりとかリラックスしたい時に口にしている。
辛いものを食べる時は、パニックもしくは興奮状態になっている気がする。
デカ盛りのラーメンを食べる時は、大抵ストレスが溜まっている時だ。
楽しい時も落ち込んでいる時もお酒は飲んでいる気がする。

自分がもし何か“感情”や“気持ち”をイメージしてパンを作るなら、小学生の時、剣道の大会終わりに親と寄り道したロイヤルホストで、メニューの値段に遠慮して一番安いものを頼んだ時の気持ちを表現した和風おろしハンバーグ味のパンを作ってほしい。

AIと聞くと、“絶対の答えを出すもの”というイメージが勝手にあるけれど、パンのテーマのラインナップとその味を見て、「え、これがどう繋がるんだ…?」というものばかりだった。
それはおそらくAIが完璧な答えを出す存在というわけではなく、ひとつの表現者の立場で、パンという手法を用いて様々な恋愛の場面を描いているから、ということなのだろう。AIが提示する1個の答えであってそれは絶対というわけじゃない。

パンを食べることによって、「AIは失恋をこう捉えて、パンでこのように表現するのか」というふうにAIと対話できると思うとワクワクしてくる。
将棋の騎士がAIソフトを駆使して戦術を組むように、自らの表現にAIの感情分析を取り入れる作家が今後現れるかもしれない。もういるかもしれない。

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