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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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記事一覧

シンプルに作り上げる濃厚なガトーショコラ #Minimal

 Bean to Barのチョコレートを食べていると必然的に意識するようになるのが”素材”本来の味。素材そのものを表現するためには複雑性を避け、できるだけ1つのものに集中し、如何に手をかけるかが重要になると思います。  このシンプルさを「引き算の哲学」や「素材なり」と表現し、そのフィロソフィーを名前にまで反映したのが『Minimal』。カカオ豆と砂糖だけで作り上げる、だからこそ個性が際立ち、それぞれに違いを生み出します。  ブランドストーリーの中で日本食を例に取り上げてい

圧倒的にうまいポッサムはここ #青松

 個人的に韓国の肉料理と言えばサムギョプサル、ではなくポッサムがまず最初に頭に浮かぶ。韓国で初めて食べて以来、その衝撃を求めて東京を歩き回っていた。  なんとなく、美味しい韓国料理は新大久保ではなくコリアンタウンではない街にポツンとある印象を受け、今までの暫定1位は神田にあるヌナの家だった。  私のポッサムランキングを久々に動かしたのが赤坂にある청솔(青松)。赤坂は韓国総領事館に近く、舌の肥えた要人が多いせいか美味しいお店が多い。すぐそばにある赤坂一龍別館はソルロンタン専

止まらないナンとラッシーのリズム #ザ・タンドール

 大手町と神田の間には明らかな境界線がある。都会の緊張が解けない大手町から、気楽に歩ける神田の街並み。2駅の中間に位置する内神田は飲食店が多く、ふらっと入れるお店も、行列のできる人気店もあるハイブリッドランチタウン。昼休憩を少しずらして、お店も決めず、その瞬間の気分に従って何を食べるか選ぶのも楽しい。  今日はなんとなくインドカレーの店に決めた。昼から匂いの強いカレーを食べるのは気が引けるが、お腹が空いてるのだから仕方ない。そんな一瞬の葛藤を抱えながら入店するも、漂うスパイ

大人もアイスクリーム #BIG BABY ICE CREAM

 アイスクリームは子どもだけのものではない。20代半ばの男も通いたくなるような手作りアイスクリームのお店がこんなところにあった。  新丸子駅から歩いて数分、白塗りの壁にシンプルな書体のBIG BABY ICE CREAMはコンパクトにまとまったミニマルな外観。手作りの純粋さと透明感を感じられる今っぽい印象。  想像とは違い、若くて勢いのある男性スタッフがお迎え。ヒップホップな若者からファンシーなスイーツへのギャップ。どんなアイスクリームが食べられるのだろうか。  この日

まぐろに強いお店の秘密のネタ #海鮮三崎港

 回転寿司の楽しみがレーンに帰ってきた。タッチパネルと"新幹線"の登場で回っているお皿の需要が減り始め、今ではコロナの影響で外気に触れ続けるレーンを使う人はほとんどいなくなったようなもの。  私がタッチパネルを使う理由は2つ、「鮮度」と「衛生面」。ICチップでの時間管理や、カバーを用いた飛沫対策はよく見るものの、だからといってレーンからお皿を取る気にはならない。  マルハニチロが毎年出している「回転寿司に関する消費者実態調査」でも回転寿司の“新幹線シフト”が表れている。注

深夜のハイカロリーアドレナリン #らーめん雷豚

 深夜11時。夜ごはんを食べ損ねて車を走らせても、街に残るのは黄色のMかオレンジの牛丼チェーンばかり。お腹が空いているので何を食べても美味しいと思うのだろうが、脳ミソよりも先に、身体がハイカロリーを求めている。  深夜に輝くギラギラな看板。深夜の街灯に虫が集まるように、深夜のラーメン屋に人も集まる。  先に届いたセットの小丼は思ったより具が乗っていなかったが、空腹状態に米を流し込めるだけで合格点。ラーメンが届くまでに食べ切ろうと、味わう暇もなくスプーンを動かし続ける。今は

こだわり抜いた素材の純粋無垢なチョコレート #green bean to bar CHOCOLATE

 カカオ豆の選別から丁寧に行う中目黒のbean to barチョコレート専門店。ダークチョコレートだけでなくエクレアやドリンクも用意しているので、チョコレートにあまり興味がない人でも十分楽しめるのも魅力的。  ダークチョコレートは王道のカカオ含有率70%と85%の2種類がメインで、カカオと砂糖のみで構成された純粋な味。2000円前後といい値段がするのは、砂糖もオーガニックシュガーにこだわっているからだろうか。和紙で包装しているのもさりげなくて素敵なポイント。  今回はベネ

ちょっといいパスタランチを食べたくなったら #IL FURLO

 同僚の皆は気付いているのだろうか。大手町にはジェノベーゼを食べられる場所が圧倒的に少ないことを。定期的に通っているリトル小岩井には「醤油ジェノバ」という惜しい名前のパスタがあるが味は程遠く、某イタリアンTのジェノベーゼはあまり評判が良くない。大手町を諦めかけていた私に、神田という選択肢が急上昇してきた。  東京から大手町一帯は巨大な地下通路で繋がっていて、昼になると蟻の巣のように人がビルから降りてくる。それに比べて神田方面には地下道が繋がっていないので、大手町で働く人の選

クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司

 半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。  軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。  煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっと

田園風景を思わせる異国焼酎 #DEDESUKE SAIGON KITCHEN

 ベトナムと言えばフォー、フォーと言えばパクチーとばかり考えてしまうが、現地を想像すると一面の田園風景が頭に浮かぶ。広大な緑の中にたたずむ三角の帽子(「ノンラー」と言うらしい)を被った一人の農民、そんなシーンを想起させる米焼酎に出会った。  ルアモイとネップモイはベトナムの米焼酎。うるち米(普通のお米)を使ったルアモイは、クセのほとんどない透き通った味わい。焼酎という響きから感じる重さはなく、軽やかに飲める水の上位互換のような口当たり。  私のお気に入りはもち米を使ったネ

懐かしく、愛おしい味 #登治うどん

 うどんはあまり好きではない。ただ、好き嫌いを超えた味が数年ぶりに私を呼び戻した。これは懐かしの味、高校の部活終わりによく食べていた青春の一部。昔は窓際の座敷で食べていたな、と回想しながら空いているテーブルに座る。  メニューを見渡す。親からの小遣いでやりくりしていたあの頃は一番安い「もり」ばかりを食べていたが、数年経った今はお金を気にせず注文できる。成長した私はちくわ天うどんにランクアップし、更にはミニかき揚げ丼を追加するまでに成長した。  合わせて1000円足らずのか

おまかせ全部レビュー #いしまる

 埼玉でビシッと決まった江戸前寿司を食べたい時は「いしまる」に。高価格帯のカウンター寿司では珍しく、客の訪問時間に合わせて個別で食事を始められるのが魅力です。時間指定の一斉スタートが現在の潮流ですが、親方は信念を持って個別スタイルを貫いています。  開店当初はフジタ水産の鮪を使っていること、居酒屋出身の親方が独学で握っていることばかりが注目されていましたが、最近では沼里親方の仕込みが光る実力派として知名度を上げているように思います。その証明として、食べログの百名店にも選ばれ

和食と日本酒を嗜む #おだしと、おさけ。すずめ

 おじさんたちが仕事の疲れをアルコールで流す、新橋はそういう場所だと思っていたが、実は開拓すればするほど魅力のある街だった。「すずめ」の客層は女性客からお年寄りまで様々で、飲み屋と言うよりは小料理とお酒を嗜む割烹料理店のよう。  お店は烏森神社の真裏、飲食店が密集した通りの中にあって、寿司界隈では伝説的な「新橋 しみづ」の横にある。小さくて分かりづらいお店なので、ここを目印に行くと分かりやすい。  割烹料理店のような要素はメニューにも。「おまかせ5品」を頼めば、その日のオ

おまかせ全部レビュー #冨所

 コロナで半年続けていた予約が途切れ、それからは月初めの予約戦争に負け続けていた私は、我慢できずに2万円以上する夜のおまかせコースを予約(6000円~のランチコースは人気過ぎて予約が取れません)。  一食にかけるお金としては理に適っていないように見えますが、本当に美味しい鮨が食べたい人は知らなきゃ損するレベルのお店です。「旨い」ではなく「美味しい」と表現した裏には丁寧な仕事と、分かりやすい味のインパクトに頼ることのない繊細な味わいへの尊敬の気持ちがあります。  店内は6席