見出し画像

おまかせ全部レビュー #冨所

 コロナで半年続けていた予約が途切れ、それからは月初めの予約戦争に負け続けていた私は、我慢できずに2万円以上する夜のおまかせコースを予約(6000円~のランチコースは人気過ぎて予約が取れません)。

 一食にかけるお金としては理に適っていないように見えますが、本当に美味しい鮨が食べたい人は知らなきゃ損するレベルのお店です。「旨い」ではなく「美味しい」と表現した裏には丁寧な仕事と、分かりやすい味のインパクトに頼ることのない繊細な味わいへの尊敬の気持ちがあります。

 店内は6席のストレートカウンターで、佐藤親方は常連以外には寡黙な方です。大人数ではなく1~2人で、本当に鮨が好きな人と行くのがおすすめです。


真子鰈(左) 鱸(右)

 弾力のある鰈のえんがわ部分と鱸のしっとりしたうまみのあるお造り。初手から2種類の魅力を堪能。

蛸 蝦蛄

 蛸は足と胴体で食感に変化をつけ、蝦蛄は身がほろっと崩れる繊維感が特徴のオスを使用。どちらも香り高く、丁寧な仕事が伺える。

 漬けてねっとりさせた鰹は口に張り付き、この時期鉄分感溢れる特有の香りも鼻に張り付くかのよう。ここで食べた戻り鰹にも感動した記憶があるが、春もまた同じく感動してしまった。

目光

 目光の深海魚らしい圧倒的な脂を日本酒で流し込む、王道のつまみ。おまかせを頼むと大抵出てくる冨所のレギュラーメンバー。

蛍烏賊 ベビー帆立 時不知の卵

 粕漬けの香りが強くついた蛍烏賊、甘みのある濃厚さがイクラとは違う時不知の卵、貝の旨味に浸されたベビー帆立を1度に出されてしまうと、もうどれから手を付けていいのか分からない。全てが美味しい。

北寄貝 紐

 北寄貝の紐を炙った串。香ばしさと甘みが共存した串に七味で辛さを足せば、これも最高な酒の肴に。

白烏賊

 冨所の初貫は墨烏賊が多い(7回目で初)が、今回はタイプの異なる白烏賊。細かい包丁が甘みを引き出すと同時に、ねっとりとした烏賊の食感をストレスなく楽しめるようにしている。

 淡白な魚は真剣に味わってこそ美味しさが理解できる。鱚もその1つで、その佇まい、身の締まり、味わいから"凛とした"という形容詞が頭に浮かぶ。

春子

 同じ白身でも鱚とは雰囲気の異なる白身。ふわふわの質感は真鯛の子どもだからこそ、そして親方の丁寧な仕事があってこそ。

赤身

 まだルーキーというだけかもしれないが、結乃花の鮪は高価格帯のお店でしか見ない。それだけ寿司屋を厳選している証拠で、この日も美しい味と香りだった。

トロ

 筋も気にならない程に優しく溶ける脂の質感と、ふわっと開く鮪の香り。見た目の美しさも含めて、私の知る中では明らかにトップクラス。

小鰭

 赤身とトロの脂をスパッと切ってコースのリズムを整える小肌の仕事。良い音楽ほど休符をよく使うと言うが、この小肌はまさに休符の役目。コースのリズムを効果的に刻む。

伊佐木

 伊佐木は良いお店とそうでない店によって味に違いがはっきり出る、"仕事で魅せるネタ"の1つだと思う。食感と旨味のベストスポットを突いた1貫だった。

鳥貝

 時期的に名残り(終わり)の鳥貝に思わず出会えた幸せ。ご一緒したおすしくん(Instagram:sushi_architect)が静かに興奮していた。訪問日は6月5日。

鯵 長崎県

 久しぶりに鯵で感動してしまった。透き通るような綺麗な味わいの上に豊富な脂を持ち合わせた完璧すぎるバランス感。よく食べる鹿児島・出水ではないなと予想したら長崎産とのこと。

 サーモンと一緒だと思っていたら大間違い。とろける食感と脂のしつこくないさっぱりした味わいは鱒特有の個性。

車海老

 相変わらず大きい車海老の握り。茹でてから時間の経っていない温かさが海老の甘みも香りも引き立てている。

紫雲丹

 純粋さを追い求めたようなクリアな味が紫雲丹の特徴。海苔が湿気らないよう即座に口に運べば、食感、香り共に鮨が完成する。

穴子

 必ず出てくるレギュラーメンバーの1貫。骨のストレスなし、手でないと掴めない柔らかさは初回訪問時から変わらない信頼の証。

蛤(追加)

 貝らしい噛ませる弾力と鼻に詰め寄る煮詰め(タレ)の濃厚な香り。噛むほどに山葵も煮詰めも押しのけて前面に出てくる蛤本来の味が王道の江戸前鮨を物語っている。

玉子と干瓢巻き(追加)

 追加で頼んだ干瓢巻きは山葵入りで。ぴりっと感じた後には干瓢の甘さ、そしてシャリの酸に海苔の香りまで味覚を全て制覇される勢い。玉子はしっとりふわふわで安定した冨所の味。



この記事が参加している募集

おいしいお店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?