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10月は長距離の世界記録がいくつ更新されるか?ロンドンマラソン 、NNバレンシアWRデイ、世界ハーフと続く激動の2週間

2020年は本来東京五輪が開催されるはずだったが、蓋を開けてみれば男女中長距離種目で合計5つもの日本記録(男子ハーフ、マラソン、女子1500、3000m、ハーフ)が生まれるという豊作の1年となっている。

同じように、女子単独ハーフ(1:05:34)、男子10km(26:24)、5000m(12:35.36)、男女1時間走(ファラー 21,330 m、ハッサン18,930 m)と、世界記録も今年で5つも出ている。

このように好記録が続出している要因の分析にはあともう少し時間をかけたいが、10月は世界記録がまた多く生まれそうな予感がしている。

今後の世界記録が期待できるレースの予定を以下に記載していく。

【10/4ロンドンマラソン】公認レースのサブ2にいかにして近づけるか

エリート選手のみの縮小開催で、コースを例年の発着点であるセントジェームズ公園の周回コースに変更して開催されるロンドンマラソン 。

「何周もするのはいつものマラソンとは違うけど、トラックの選手だったから周回を重ねるレースには慣れている」

とエリウド・キプチョゲがコメントしたコースは、2.15kmの周回コースを19周し、最後の1,345mを走っての42.195km。

第1グループは60:45-61:00で中間点を通過し(世界記録ペース)、ノア・キプケンボイ、ビクター、チュモ、エリック・キプタヌイの3人がペーサーを務め、第2グループは62:00で中間点を通過(2:04ペース)、第3グループはモー・ファラーが65:15 - 65:30で中間点を通過するペーサーを務める。

キプチョゲが持つ2:01:39の世界記録は2018年にベルリンで記録されたものだが、キプチョゲにとってこのような周回コースでのレースは昨年のウィーンでのINEOS 1:59以来であり、そのレースで非公認とはいえ1:59.40という記録をマークした。

一方の世界歴代2位(2:01:41)の記録を持つケネニサ・ベケレの特徴は、トラックもハーフもマラソンもラストの競り合いに強く、ロングスパートがかけられるところである。しかし、その前の30-35kmあたりではペースを上げきれず離れてしまう場面が目立つので、今回キプチョゲとの一騎討ちになれば30-35kmでどのような展開になるのかが注目される。

昨年1:59:40という非公認記録と、ベケレの2:01:41という記録から見れば、今回世界記録を更新する可能性も期待できそうだが、この2人以外のメンバーも強力である。

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(出典:London Maratahon

世界歴代4位(2:02:55)の記録を持つM. ゲレメウ、同8位の記録(2:03:16)を持つM. ワシフン、そしてアディダスの選手ではT. トラ(PB 2:04:06)が新兵器のアディオスプロでそれぞれ自己記録更新に臨む。

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サブ2:05の記録を持つ選手が8人出場するが、非アフリカ系ではソンドレ・モーエンが2:04ペースの集団につくとみられる。

以下は、イタリアの高地、セストリエーレでロンドン約3週間前のモーエンのカノーバスペシャル練習の様子の動画である。

・2x3km, 3x2km, 5x1km, 6x500m(疾走トータル20km)
3000mをマラソンペース(2:56/km)付近から開始して、距離が短くなるにつれてだんだん速くなるがリカバリーはおそらく短い(標高2,000m)

【ロンドンマラソンのその他の男子出場選手】

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女子レースは女子ペーサーを起用することから、メアリー・ケイタニーが持つ2:17:01の女子単独レースの世界記録がターゲットになっている。昨年のシカゴで2:14:04の世界記録をマークしたブリジッド・コスゲイが中心となるが、ドーハ世界選手権金メダリストのルース・チェプゲティチや、2018年ロンドン優勝のヴィヴィアン・チェリヨットといった豪華メンバーが出場する。

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【ロンドンマラソンのその他の女子出場選手】

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ロンドンマラソンは周回コースでの開催となるが、コーチの指示を受けやすく、ペース戦略や補給戦略が立てやすい。天候に恵まれれば、男女ともに世界記録が更新される可能性に期待できるだろう。


【10/7NNバレンシア世界記録デー】チェプテゲイが今年3つ目の世界記録に挑む

ケネニサ・ベケレがロンドンマラソンで世界記録ペースに挑むわずか3日後に、ベケレの持つ10000mの世界記録の26:17.53が脅かされる。

アルベルト・ストレッティのブログによると、スペインのバレンシアで行われる「NNバレンシア世界記録デー」と称されたこのトラックレース(男子10000m、女子5000m)にはジョシュア・チェプテゲイの今年3つ目(5km、5000mに次ぐ)の世界記録のタイトル挑戦だけでなく、その他の挑戦も目白押しである。

5000mの通過予定は13:05に設定されており、チェプテゲイがモナコDLで5000mの世界新を出した時の2人のペーサーが今回もレースを引っ張り、モナコDLで2500mまでチェプテゲイについて行ったニコラス・キメリ(5000m12:51.78)が第3ペーサーとしてレースをリードする。

また、ローマDLで3000mのオセアニア記録をマークしたS. マクスウェイン は自身の持つオセアニア記録の27:23.80、アメリカのS. キプチルチルはゲーレン・ラップの持つ26:44.36の北米記録の更新をターゲットにしており、若手のO. オウマイズや、チェプテゲイのトレーニングパートナーのS. キッサも出場する。

男子10000mの世界記録は1990年代に26分台に突入してから複数回更新されたが、ベケレの26:17.53でこの15年は更新されていない(R. キプルトは今回と同じバレンシアという開催地で行われた10kmロードで今年26:24の世界新をマークしている)。

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(出典:NN Running Team HP

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今回のレースペースは1周63"、1000m2:37、5000m13:05-13:07、10000m26:15あたりのフィニッシュタイムを目標としている。チェプテゲイは元々、5000mよりも10000mを得意としていることから、気象条件が揃えば世界記録更新の可能性はモナコの5000mの時よりも高いといえるだろう。

レースの様子はNNランニングチームのYouTubeチャンネルでライブ配信される予定。

また、女子も5000mが開催され、15km世界最高記録保持者のL. ギディが出場する。

ギディは昨年秋のセブンヒルズ15kで44:20(2:57/km)という驚異的な世界最高記録をマークし、箱根駅伝に出場した日本の男子大学生3名を撃破したことが大きなインパクトとなった。

15kmロードはWA非公式種目だが、ギディの44:20の世界最高はWAスコアリングテーブルによると女子100m10.46に相当(ジョイナーの不滅のWR10.49を上回る)。

セブンヒルズ15kは丘が7回あるコース。3〜5.5kmで45mほど上り最後の4kmは50m下る。ギディは最初の3kmを8:30で入ったが、そこからが上りで最初の5km15:07。後半10kmは最後4km下りもあり29:13。序盤の上りを考慮するとギディの最初5kmは14:31ペース、最後10kmは下りを考慮すると29:40ペースであったと推測される。

ギディは昨年のドーハ世界選手権では1時間走の世界記録保持者えあるS. ハッサンに破れての銀メダルであったが、この15kmの世界最高記録だけでなく、3000mでも8:20.27の好記録を持っているだけに期待が持てる。

彼女はチェプテゲイと同じく、1人でペースを作れるタイプで、ラストの1周で劇的なスパートをかけられるタイプではない。どちらかというと一定のペースで押していく選手であるから、ペーサーが外れても5000mの世界記録に向けて1周68秒を切るようなペースで押していくことだろう。


【10/17世界ハーフ】新厚底時代の超高速レースの幕開け

アメリカやオーストラリア、アメリカなどが選手を派遣しない世界ハーフは、アディダスの厚底も含めての新厚底時代の超高速レースの幕開けとなることが予想される。

男子は、10000mの世界記録挑戦から2週間あまりでチェプテゲイが初ハーフに臨む一方で、同じウガンダのJ. キプリモがエントリー。こちらも5000mで世界歴代12位(12:48.63)、3000mでも世界歴代8位(7:26.64)と好調をキープしていることから好記録や好勝負が期待できそうだ。

この2人は2019年の世界クロカンシニアの部の金銀メダリストであり、現在のトラック長距離 / ハーフにおける長距離界のトップ2であるといえる。

また、J. インゲブリクトセンの初ハーフの可能性も浮上しており、正式エントリー発表が待たれる。女子レースも含め、ロードレースの近年の超高速化を印象付けるレースとなりそうだ。

このレースは選手権レースということおあり、ペーサーがいないことから男女ともに世界記録が出る可能性は高くないだろうが、12月にはバレンシアで再び、ハーフの世界記録挑戦レースが企画されており、誰が出場してくるかに注目が集まる。

ハーフマラソンは男子が57分台、女子が63分台という大台が間近にあり、マラソンの男子サブ2:01(またはサブ2)、女子サブ2:14とともに今後の注目となりそうだ。

いずれも、ロードレースでは男女ともに日本記録が更新されているが(男子マラソン、女子ハーフ)、それと同じように世界記録や各国の選手のタイムも相対的に伸びているということに着目するような、この2週間を過ごすことになるのではないだろうか。


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